表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は歳をとらず若返る君に恋をする。  作者: わたみ
√N 「勝たなきゃ、強くならない」
13/22

episode12. 距離の進捗〜Distance progress〜

アイツら、今楽しくやってっかなぁ……。

やってると、いいな。



私は今、いつもと変わらない外側を装いつつも、内側はそんなことを考えながら歩く。

それはいつも通りの足音で、いつも通りの速さ。そう、いつも通り……いつもと変わらないままに。


しかし初っ端からいつもとは違った。

いつもあるカメラが少しばかり多くなっていた。

だが、関係ない。

いつも通り悠然と優等を作って前を歩く。


何か聞かれた気がするが、何を聞かれたか覚えてない。何か答えたのかも覚えてない。



今日は対局日だ。

奨励会の三段リーグでは大抵一日2局行われる。今日の対局は私の11連勝、ましてや12連勝をかけた戦いだ。

アイツらはそれを嗅ぎつけてきたのだろう。

こんなにもいい天気なのにお仕事とはご苦労なことだ。


……まあ、いいさ。

もう話はつけてきた。

あの糞どもはなんて顔をするだろうな。考えるだけで笑いが止まらねぇ。


「……ッ、ッはは」



今日ですべて決着だ。ざまぁみろ


自分の心から殻の割れる音がした。


今日は週末だ。

週末とは言っても状況としてはいつもと変わらない毎日。

茉白は部活で家を出て、凛は手紙を書き、僕は食器を洗い、片付けている。

まさにいつもの変わらない毎日、日常が始まろうとしている。

しかし、僕はその日常を変える。


「凛さん」

「ん、リョー君、どうしたの?」


さあ、とうとうだ。

とうとう僕は言うんだ。言い出すんだ。

この三年間、口に出せなかった言葉だ。


そう、凛さんとはもう三年も経ってるんだ。そしてそれまでずっと凛さん一途で好きでいる。

でも、好きでいる。それだけでそこから何も進捗していない。

だから……!


体が拒否反応を示している。内心バクバクのドキドキ。手はもう言わずもがな。汗びっしょり。

でも、止めない。

止まらない。

止めたくない!


「あのっ、凛さん」

「ん?」



体から水分が無くなっていき、自分の体はもう支障をきたして、異常だった。いや、もう異常なのだろうかなんて、自分のことで手一杯で、もうそんなことすらも思考できなかった。

今、僕はどんな顔をしているだろうか。とんでもない顔をしてるだろうな。



「今日は茉白部活で居ないからさ」

「?」

「だから……僕と二人きりだからさ……せっかくだし……その」


ぐっと手に力を入れて、乾いた声を振り絞って、意を決する。




「僕と、どこかお出かけに行きませんか?」




今日、僕は初めてこうしてデートを誘ったのだ。


しかし早々こんな様子では不安しかないのだが……。



僕は見ての通りこんなにも複雑で、ぐちゃぐちゃな状態だが、いつもの優しい色の返事の声はあっさり来た。





「いいね。うん、行こうよ!」





え?


なんとも、あさっさり。

拍子抜けだ。



「で、どこに行くの?どこに行きたいの?」

「…………」

「もしもし?」

「あっ、ごめん、ぼーっとしてた。あー、で、そう、それなんだけれども……」


ついあっさり展開するので気が抜けていた。


しかし実際このデートの件で1番困ったところはそこだ。そう、どこに行きたいのか。

なぜ他でもない行き先こそが1番に困ったか、その理由は一つだ。



「僕って、凛さんこと全く知らないんですよ、何が好きで、何が嫌いで……とにかく何から何まで、僕は知らないんです」



事実、僕は凛さんを知らない。それも全く、全然知らない。

だから……



「だから、この一日で、凛さんの好きを知りたい。

 そういう風に思ったんです」



その時、凛は二つ表した。

()()()()だ。

そして考える仕草をして、目線を上に上げた。


僕はそれにどこか嫌な予感を察する。

それはその表情の「困惑」は実際には「困惑」ではなく「()()」ではないのか。


つまりは対処の仕方がわからなくて困ってる、というのは困るのだ。

恐らく凛さんは、僕にも言えない秘密があるから、だから……


そうやって、うだうだ思い考える間に彼女はひょいと声を上げる。




「なるほどね、わかったわ、行きましょ」



なんとも、予想外だった。

なんとも、あっさりに。




【間隔】




僕のスマホに文字を打ち込んだ。

その相手は「答え」ない冴えた小さな女の子、そして今では僕と凛さんの関係に対する謎のサポーター。天音栞奈だ。


『なんか上手くいきました』

『そうですか、よかったです』


そもそもなんだが、僕と凛さんのデートを提案したのは天音栞奈だ。

それを機に、僕はデートに誘った。


『今は一緒に電車に乗ってます』

『行き先は知ってるのですか?』

『いいえ』

『ちなみに今どこ駅ですか?』

『分からないですけど、西に向かってます』

『なるほど、わかりました。今日は楽しむといいと思います』


と追加で帰ってきて、更に可愛らしいスタンプもすぐに来た。


僕はそれを見て、電源を落とす。



「凛さん、どこに向かってるのですか?」

「えー、ナイショだよ。ひ、み、つ」

「でもデートスポ……じゃなくて、色々あるところから離れてるよね?」

「リョー君がその方がいいならそうするけど、でもそれじゃあ、リョー君の言う"私の事を知りたい"には少し違うでしょ?」

「うーん、いや、僕としてはちょっとしたことでも良かったんですけど……」

「ちょっとしたこと?」

「うん、どこのお店のこの料理が好きとか、逆に何が嫌いなのかとか……」

「なるほど、でも目的地は田舎というわけじゃ無いから、一応東京から出るわけじゃないし。着いたらそうしましょうか」


やった!

「やった!」


あ、やべ。声に出ちゃった。


「でも本当にどこに向かってるのですか?」

「お、た、の、し、み」


彼女はくるっと僕の目を見て、小さくウインクする。

やばい、かわいい。


凛はその僕の表情を見て笑ったまま、前に映る景色を見た。

そして、その景色に浸りながら言う。



「……なんてね。隠す理由も無いから言っちゃうとね、行き先は私が昔住んでたところなんだ」


「えっ!?」


電車の中で僕は大きな声を出してしまった。

人は少なかったからいいものの。


「それに居るかどうかわからないけど会わせたい人がいるのよ」

「会わせたい人?」

「うん」

「あっ、アキさんって言う人?」

「そうよ、私のことについてはアキに聞くといいと思うから」


アキさん。

忘れているだろうから説明すると、それは第二話で凛さんが出かけた時の待ち合わせ相手で、それは数少ない凛さんの知り合いで、前の居候先だ。


しかし僕はその人物が、どれくらいの年齢で、男なのか女なのか、はたまた本名なのか愛称なのか、僕は知らない。



「ここだよ」



そう細く伝えると、隣の彼女は席を立った。

長い髪はサラッと綺麗に、不規則に舞う。

そして振り向き、告げる。




「ふふっ、リョー君、楽しみだね」





瞬間、ふわっと風が流れていき、その美しさを魅せ飾る太陽の光。

電車の扉が開いた。


それでくっきりと見える何よりも綺麗な凛さんの笑顔。

それは心から嬉しそうな笑顔で、今まで見てきた凛の顔の中で一番の美しい笑顔だった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ