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僕は歳をとらず若返る君に恋をする。  作者: わたみ
√N 「勝たなきゃ、強くならない」
12/22

episode11. ──のこと、ずっと好きでしたから



「茉白、僕、とても眠いんだけど」

「ふぁぁっ、じつは私もです……」


電車を降りて、いつもの着なれた制服を着て電車に揺られながら学校に向かって歩いて行く。


寒い地方の一部を除いてだが、冬休みはすぐに終わる。

冬休みに入る前は長い休みに入った、と思うがこうやって終わってみると何にもやってなかったなぁ、と後悔だけが残る。


いや、だが実際は何もなかった訳ではない。

それは冬補修が終わったあの日、西園エリという有名人が隣に引っ越してきた。それだけでも大事だというのに、何もないというのは失礼なのかもしれない。


そんな事を何もなかったと思えてしまうのは、僕も含めた人間という生物は、現状を過剰に楽観視しているのかもしれない。


茉白と僕は駅のホームを抜けて出た。



「夜更かしか?」

「にぃこそ」

「お前が夜更かしって、珍しいこともあるんだな。課題が終わらなかったとか?」

「それはにぃでしょ?」


何故知っている。


「私は課題すぐに終わらせるちゃんだから、だいじょぉーぶ」

「偉いな」

「へっへぇーん。偉いでしょ、もっと褒めてください!」

「じゃあ、何で夜更かしなんかしてたんだ?」


茉白のほっぺが膨らんだ。

可愛い。

僕は茉白に対して初めてそう思ったかもしれない。


「もう、こう見えて私は中学生ですよ?夜更かしの1、2回あってもおかしくないハズです」


「見た目は小学生なのにな」

「は、はぁ!?どこがなんです!流石にキレますよ!」


「……でもお前、言ってたよな。"私はレディーじゃないといけないんですぅっ!そう六法全書にかいてありますぅっ!"だっけ?夜更かしは肌に悪いぞ」


茉白は真面目過ぎるほど真面目で、活発的ではあるけど、でも真面目で、そういうことができる人間とは思ってなかった。

茉白は一息、「はぁ」と息を吐いた。


「少し、おかしいと思うんです」

「なにが」

「色々と、です」

「色々とは」

「まぁ……色々です。その点はおそらくにぃが一番わかってるでしょ?」

「……まぁ、たしかに」




【転換】



僕は、西園エリが隣に来たあの日の夜、茉白にだけ天音栞奈のことを話した。コンビニでの会話もだ。

そして西園エリとの初対面の話もした。

とにかく、全て話した。


なにせ茉白は唯一の妹であり、唯一の大河内凛の秘密を知っている仲間でもある。

いや、唯一という言葉はもう使えない。実際は仲間は一人増えた。

西園エリというもう一人の仲間が……。




「あの日、エリ先生が隣に引っ越してきたのは実は凛さんが理由で、だから凛さんのことを何か知ってるかなぁ、って思ってはみたんですけど……」




「……まるで初耳のような顔だったな」




まさに信じられない、と言わんばかりの顔だった。

だが、僕はすぐさまそこで持ちかけた。

"大河内凛の素性を探りたいから、協力してくれるか?"と、話を切り込むと、ぼそっと一言。


『……わかった。それ、私も気になってたんだよ』


と言って、あっさり協力をオーケーしてくれた。

つまり西園エリは大河内凛、探り隊の一員になったのだ。




【間隔】





「彼を知り己をしれば百戦(あや)うからず……己とは違いますが、味方の事を知るのも敵を撃つには大事なことだと思うのですよ」


敵を撃つって……。

まぁ、しかし茉白の言う事は確かに理にかなっている。


「彼を知り己を……って急に知的キャラ出すなよ」

「アホキャラの方がにぃの好みって言うならそうしますが?」


「……まぁいいや。んで、西園エリについて調べてたんだ」

「はい、そうなんです」

「なんで?西園さんに直接聞けばいいじゃん」

「」


茉白が黙った。

睡眠不足というのもあり、普段より元気がないのだが、しかし突然黙り出すのは茉白らしからぬ反応だった。

どこか、僕の中に緊張感が走る。


「……にぃ、奨励会はプロの師匠が居ないといけないのは知ってる?」

「ああ、知ってる」


「……じゃぁ、エリ先生の師匠って知ってる?」


「あー、それなら知ってる。たしか山垣八段だろ?現A級棋士の、しかも初弟子」

「さすがにぃ、詳しいですね」

「伊達に将棋部やってないよ」


「それじゃあ、エリ先生は奨励会入りたての時、師匠が変更したの知ってましたか?」


「え?うそ、そんなこと出来るの?」

「うん、珍しいことらしいね」

「へぇ」




そんなこと出来るのか。

師匠のやり方に馬が合わず破門……みたいな話なのだろうか?

だったらなおさら直接本人に話が聞きたくなった。




「ふーん。で、その前の師匠って、誰なの?」


「……にぃ」

「ん?」

「ちょっと気をつけて見てね」




茉白はスッとスマホを取り出し、僕にかざした。

すぐに見れるようにスクリーンショットしてたのだろう。


それは将棋連盟公式サイトだ。




そこには……。









『エンジントラブルの飛行機事故による西()()()()()の死去のご報告』



…………………は?






"4月21日アメリカ航空機墜落事故に搭乗していた西園博(46)が夜未明逝去されたことをご報告します。ご冥福をお祈りします……"





………………えっ。






「……こんなこと知っちゃったら、私、眠るどころじゃなくなって、さ」






【間隔】





西園博(にしぞの ひろし)

年齢、当時46歳

職業、将棋棋士。六段。

順位戦、フリークラス。


これと言った実績もない弱小棋士で、普及活動もこれといってしていない棋士だった。


だった、のだ。


四年前のエンジントラブルによる飛行機落下事件。

その時、偶々乗り合わせていた日本人男性こそが西園博六段だったのだ。


だが、あまり西園博のことについては、報道されなかった。

報道されたのは日本人被害者が居たということのみだった。



その後、将棋連盟からその中の一人に西園博六段がいたことが発表されたが、プロ棋士は170人くらい居る。その中でも弱小で普及活動もロクにしてない棋士。将棋ファンでも「西園博」という名前を言われてもピンと来なかった。



そこで将棋棋士、西園博六段という人物は人々の記憶から埋もれてしまった。






だが、その娘が今は…….






【間隔】







「遼夜くん」

「うぉぉっ、びっくりした」

「どうしたのですか?そんなに張り詰めた顔して」


僕の目の前で天音栞奈が顔を覗くかのように見てきた。


「天音さんこそ僕なんかに……どうしたのですか?」

「どうしたのですか、は私のセリフです」

「あ、いえ。少し考え事です」

「……そうでしたか」




茉白と分かれて教室に入ったあと、僕はトイレで西園博について調べた。



西園博。

恐らく……いや、確信はないが西園エリの父親だ。

ちょっと調べたら簡単に情報が湧いて出た。

もうネット掲示板サイトでは最近沸いたホットな話題らしい。




「では、その考え事というのを、私にお教えできませんか?私ができる限りの力になりますよ」


「いえ、もう大丈夫です」

「いいえ、その調子は大丈夫ではありません」

「……」


「その調子じゃ授業が頭に入りませんよ。クラスの授業態度を正すのも、クラス委員の仕事ですから」


天音栞奈は見た目はごく普通のか弱い女子高校生だ。

だが、あまり接点のない僕のことを本当に心配しているようだ。それは普通の女の子の所業ではない。

僕には天音栞奈がか弱い女子高生には、見えなかった。



「…………最近出会った友達の、知ってはいけないような事を……今日知ってしまったような気がしまうんです。それが、僕の頭から離れなくて……」


「……なるほど」


僕は視線を下ろして行き、気がつけばがっくしと頭を落とした。

だが……


「その人のことは、好きなのですか?」


「す、好き!?べ、別にそんな……」

ラヴ(L O V E)じゃなくてライク(L I K E)の方です」

「あ、あぁ。ははっ、そうですよね……ははは……」

「好きなのですか?」



瞬間、僕の西園エリとの記憶を引っ張り出す。

最悪の第一印象から始まって、そこから仲直りするのはいいものの、荷解きを手伝わされ、冬休み中も特に彼女に関してはいい思い出は思い当たらない。



「どうなんでしょうね。自分でもよくわからないです」


「好きですよ」


「……え?」


「遼夜くんはその人のことは好きです」


「どうして、そう言い切れるのですか?」



「今その人について頭を悩ませているからです」



「……あ」


「それは好きじゃないとそうはなりませんよ」


「そう、ですね」


確かに、そうなのかもしれない。



「何かは知りませんが、その"知ってはいけない事"でその人が思い悩んでいたら、遼夜くんがその人を助けるべきです」


僕は何も言えずに、ただ天音栞奈の言うことを聞いていた。


「好きだったら、私が今、遼夜くんにしているようにその人の話を聞いてあげたりして、とにかく助けるべきです。

 その好きという気持ちが相手にも伝われば大抵の人は救えます」



学校の人気者で、可愛くて、頭も良くて、そして強い。

……敵わないわけだ。


「でも天音さんは僕みたいな好きでも嫌いでもない人でも助けちゃうんですよね」



僕はパッと(つむ)いだ言葉だが、彼女はその言葉で表情を変える。

だが、その表情は見覚えがある。


あの深い表情だ。

そう、彼女には似合わないあの顔。








「…………いいえ、そんなことはないです。私は遼夜くんのこと、ずっと好きですから」








僕はドキッとした。

まずい、凛さんという人が居ながら別の人にときめくところだった。

危ない危ない。



「そういえばなのですが、大河内凛との進展はどうなのですか?」

「どう、というと?」

(しん)(ちょく)はあったのですか?」

「……」


僕は黙って答えた。「察してください(笑)」と。

それには天音栞奈も苦笑いで答えた。


「何故凛さんの話を?」

「何故でしょうね」


「では、私はこれで」

「待ってください、ちょっといいですか?」

「はい?」


天音栞奈には色々聞きたいことがたくさんある。だがもうすぐ鐘が鳴り、授業が始まる。

僕は質問内容をパッと選び、言う。


「あの日……えっと、コンビニで会ったあの日です。図書館に行った後、真っ直ぐ帰りましたか?」


他にもあった。

何故凛さんのことを知ってたのか。

凛さんと関わらない方がいい理由。

"間違えないで"の意味

あの図書館に来た理由。

あの後も図書館に来たのか。


だが、僕は他でもない別のものを選んだ。


何故なら1番答えてくれそうな質問だったから。

他の質問は大河内凛と同様に、適当にはぐらかされる可能性があると思ったのだ。

コンビニで話をした感じからして、そう思ったのだ。






「……はたして、どういう意味でしょうか」

「そのままの意味です。寄り道とかしてませんか?」



さぁ、どう出る。


彼女は少し間を置いた後、顔を見せず、振り向いた姿のまま言った。





「……なるほど」


彼女はふっと笑って、口を開く。








「……すみません、私からは何も"()()"られないんです。

 ですが、私はあなたに"()()"ます」


「……」



……そう、来るか。

……いや、どう言うことだ?

答えないという選択肢は予想してた。

だが、その後の言葉の意味がわからない。




「応える?」

「手は貸します。手助けします。ですがそれは遼夜くん次第ではありますけどね」

「それは……」

「私の言うことに従えば遼夜くんは"間違えない"です」

「……」

「それが、質問の "答え" です」

「どういう意味……」





僕はその意味を聞こうとすると、計ったかのようなタイミングで、聞き慣れた鐘の音が広い学校全体に響かせ、話は遮られた。

そしてわざとらしく、鐘の音と重ねて僕に聞こえる声で言った。






「大河内凛とデートでもしたら、進捗するかもしれませんね」





【間隔】








冬休み明け初日は全校集会と課題回収、そして毎度お馴染み課題テスト。

もちろん散々な結果だった。

何せその試験範囲の課題を今日やったのだから!


……今になって汗がだらだら湧いて出てくる。



天音栞奈とはこの後、長い話は出来なかった。

まぁ、あの人は学校随一の有名人なので僕には想像も想定もできない忙しさがあるらしい。

しかし、そんな人であるが今日の部活が終わった時に天音栞奈とぱったり出会ったのだ。

そしてその時に、二つ折りの小さな一枚の紙切れを貰った。


それを開くと女の子らしい字で小さく「落ち着いたら話しましょう。私のアドレスです」と書いてあった。


もちろん門を出て早速スマホを取り出し、追加しようとする。

そして意外と女の子らしい可愛いアイコンの下に「あまね」と三文字あった。



「追加っと」



女子と個人で繋がったのは茉白を含めないで初めてかもしれない。




だが、そんな僕の華の青春を踏み(にじ)るように、男子二人が後ろでコソコソとしていながらも、僕に聞こえるよう話している。



「なんや、アイツ画面に向かってキモイ顔しよるぞ」

「何かいいことでも書いてあるのか」

「アイツ時々キモイ顔すんねんなぁ」

「キモイ顔なんかいつものことだよ」

「あ、そっか」


「そこの髪だけでなく頭の中も(くる)(くる)のヤツと、あとデカ男。君たち今何て言った」


「……ほぉ、聞こえてなかったんか。そっかぁ、今ぁド凄いおもろい話をしてたんやけどなぁ。それは残念。メガネくんにも聞かしたかったわ」


「ほぉぉぉ、それは聞きたいなぁ、是非聞かせてくれよ」

「残念、わいは同じ話を二度してウケを狙うほど腐ってないんやわ」

「おっ、面白そうな展開になったな」

「黙れ滝谷。これはわいとコイツと1対1勝負や」

「そうだぞ滝谷」

「はいはい、どうぞご自由に。俺は今空気でーす」


「へっ。まぁ、口喧嘩も将棋でも何でもクソメガネは負けんけどな」

「言ってろ」

「じゃあ俺に勝てる点があるなら言ってもらおうじゃねえの」

「滝谷に将棋で勝てる」

「んなもんわいも勝てる」

「今日も負けとっただろ」

「言い間違えるな。"今日は負けた"だ。偶々調子が悪かっただけだ」

「はっ、負け犬」

「おぉおぉ、やんのかぁ!?」




二人の間の炎が燃え盛ろうとしてた。

とは言っても柏木といるといつもうるさくなる。コレはその一例に過ぎない。


だが、その炎は一瞬にして鎮火した。






ぴろろろろろろ。

ぴろろろろろろ。





電話の音だ。

この音は僕じゃない。



「わりぃ、俺の携帯だ」

「滝谷のか、出たら?」

「あぁ」




【数分後】




「わりぃ、用事ができた。先帰ってくれ!」


ぱんっ!と滝谷哲久は手を合わせて頭を下げる。

割と真剣な眼差しで。


「お、おぉ。わかった」

「じゃあな!また明日な」


と、言うと走って僕らの進行方向とは真反対側を行く。

それも猛ダッシュで。

しかし中学時代までバスケ部とだけあって、かなり速い。


「柏木」

「あ?」

「何の電話だったんだろ」

「知るか」

「ていうか、あっち側って何かあったっけ」

「学校」

「他は?」

「スーパー」

「あんな急いで行くか?他は?」

「病院」

「アイツ病気なのか?」

「そりゃ無いやろ」

「だよな」

「まぁええやろ。帰ろか」

「だな」




僕は何も考えずに、適当に柏木と喋りながらが帰った。


ちなみに滝谷一人減ってしんみりしながら帰った。とはならず相変わらず騒がしくなったという話は、黙っておこう。







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