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僕は歳をとらず若返る君に恋をする。  作者: わたみ
───プロローグ───
1/22

episode.0 プロローグ〜僕は未だに恋をしている〜


僕の初めての恋は14歳の時だった。

でも、その彼女はもういない。


初めて彼女に会ったのは、たしか14歳の秋くらいの時だろうか─────











図書館を少し出た辺りで、とんとん、と肩をつつかれて、振り向く。



「ねぇ、これ置いてたよ。君のだよね」


心地のよい声でハッキリと彼女は言った。

僕は図書館にほぼ毎日通っているのだが、彼女は図書館に行けばよく見る顔だった。

毎度見る、とても綺麗な顔だった。


「あ、ああっ、すみません。ありがとうございます」


彼女の手には僕の筆箱があった。

僕はハッとし、焦りながら僕はそれを両手で添い、持つ。


まったく、忘れ物をしてしまうとは、僕も忘れっぽくなったと言うのか、老いたというのか。

だなんてことを14歳ながら思っていた。


しかし、彼女をこれまで遠くからしか見ていなかったのだが、近くで見れば見るほど彼女の顔は美しく、綺麗だ。

その綺麗な彼女は、終わった会話を少しだけ続ける。


「もう忘れちゃダメだよ」

「はい……すみません」


そう交わした後、彼女は目線を逸らした。

僕と彼女との少しの間を風が通り過ぎ、その音を聞いた後、彼女は僕に質問した。




「あのさ、変な質問だけど、君には私が何歳に見える?」


「……?」




なんとも唐突だった。


しかし、これはなかなかに困る質問だ。

実際より下の年齢を言うと失礼だし、上過ぎるのも失礼な気がする。

それにそもそも、女性を見る目を備えてない。そんな男がパッと年齢を当てられる訳がない。


……だけど、僕が来る度に僕は彼女の顔を見ている気がする。そんなことができるのは……大学生か?実際見た目もそれくらいだ。だとすると……。


「18とか、19くらいですかね」


予想は18〜23くらい。大学生と見積もってこれくらいか。ここまで絞れたのなら一番下めで答えるのが一番ダメージが少ないだろう。


そう僕が答えると、彼女はそっと頬を上げて。



「うん。そうよね。ありがと」


と、答える。


「じゃあ私は戻るね」


彼女は僕に背を向けた。優しい目を僕の顔に向けて、最後まで目線を僕に向ける。やがて顔が見えなくなると、彼女は歩いて図書館に戻って行った。


……だが、その背中を見て、彼女の不規則に揺れる長い髪を見て、感じる。

どことない違和感を覚え、感じることに。


僕は立ち止まっていた。


僕は(しばら)く彼女の後ろ姿を見えていた。


なんだろう、この違和感は……。


そうしてる間に、彼女を認識した自動ドアが開いていく。そして、境界を踏む。もう少しで僕と彼女の声は届かなくなる。

届かなくなる……。


……。




「あっ、のぉ……」



喉に押し留めていた言葉が、突然、変な勢いで発声していた。

裏返った間抜けな声を、発していた。




「ん?なに?」



何故呼び止めたのか、僕にも分からない。

変な違和感があったから。でもそれは何かは分からなくて……ただ、それだけなのに。



「あっ、いや。なんでも……」



……ない。



……そういえば、この人とは初対面なのになんでこの人はタメ口なのだろうか。

僕の忘れ物を届けてくれるようないい人で、礼儀正しそうな人なのに。


僕はこの僅かの記憶を(さかのぼ)って、辿(たど)っていた。そうして違和感の正体を突き止めようとした。


……いや、でも違う。偶々(たまたま)この人がそういう人なのだろう。

多分この違和感の正体とは違うと思う。


でも……。


僕は大きく首を振って言った。




「僕、あなたに会ったこと、ありますか?」




ぐちゃぐちゃになった頭で、そう言葉を結んで繋いだ。



その言葉に彼女の表情は揺らいだ。

彼女はどこか驚いたようだった。

でも驚くだろう。

(はた)から見たら意味のわからない質問されたらそりゃ驚くだろう。

けれども、初対面でのタメ口が違和感の正体だと思い込む僕は、そう切り出していた。

そう意味のわからない質問を問うていた。



「……多分、君は会ったことはないと思う」



と、彼女は冷静に、簡潔に答えて。



「あの、もういいかな?」


「……はい。だいじょうぶです」


「ねぇ」

「はい?」


「君って明日も来るよね」


「まぁ、はい」


「明日もこうやって少し話そうよ」




これがきっかけ。

これがこの物語の、僕と彼女の物語の始まりなのだった。







思えばあの違和感の正体は、今なら分かる。

というか単純過ぎて、なんで分からなかったのだろうと思う。

当時の僕は相当鈍感だったんだなって、心底思う。





だって()()()()」だから。





そう、恋。

僕は恋をしていたのだ。







でも、こんな恋はしない方がよかったと心底思う。


この恋は、報われない。

ただ、儚いだけ。



彼女は話しかける時に「(筆箱を)置いていた」と言っていた。それを聞いて僕は「老いているな」と感じた。

実際、僕は毎日少しずつ老いている。


でも、彼女はそうではない。

彼女は()()()どこかに()()()()()()しまっていた。


いや、それは少し表現が違うか。


置いていくままなら、それは不老だから。

本当を言えば不老である方がまだよかった。

しかし、彼女の場合は最悪だった。




彼女は老いもせず、日々、()()()のだ。




そう、だから……。




──僕は歳をとらず若返る君に、恋をする──








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