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虚ろな世界で天使は笑う  作者: 澄石 紗奈
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プロローグ

「バングルを起動しとけ、獣共もすぐそこまで来てる」

天高く聳え立つ白い壁の上。

左右の果ては見えず、地上にある兵士が米粒のように見えるその壁の上には今は2人分の影しかない。

その2人、赤髪の青年と顎に髭を蓄えた中年の男性がそこにいた。

いつもなら、地平線の果てまで見ることの出来る景色で果たして、その地平線の向こうからは空に届かんとする砂煙と共に、数え切れない程の獣が所狭しと押し寄せる。

いや、そいつらを獣と言うにはあまりに歪だ。

その姿は化け物そのものである。

獅子の頭に鋭い一角の角を生やし、ギザギザな鱗を身体中に身に付ける。

尾は鰐だろうか、あまりに現実味のないその姿は彼らの国で「合成獣(キメラ)」と呼ばれている。


「今回の規模はどれくらいだ?」

「アル、お前作戦会議をやっぱまともに聞いてなかったな? ベガに怒られても知らねえぞ」

「お前には言われたくないな、デネブ」

「.........はぁ。負けたよ負けた、今回はC級案件だからだいぶ簡単だ。他の防壁の事情は知らんが、まぁ昨日よかどこも楽だろうよ」

アルと呼ばれた少年は一言、そうかと返した。


夕焼けのような赤髪、ルビーのような瞳。

戦場に立てば、たちまち全身を返り血で赤く染めあげる。

彼の名はアルタイル。

その隣で話す彼はデネブ。

角刈りに整えられた黒髪に無精髭。

オジサン感満載の風貌はだが、この場所では頼もしくも見える。

歴戦の猛者、とまでは言えないが。

覚悟の決まったものが見せる風格を自然とその身に纏っていた。

ここは戦場であって、戦場ではない。

目の前の獣共を駆逐せんとする、とてもとても大きな屠殺場。

気の利かない言い方をすれば、ただの害獣処理場だ。

「行くか。デネブ、後衛部隊の指揮はいつも通り任せた」

「ああ、お前も達者でな。また会えると信じてるぜ」

「...C級任務なら、万一も無いだろ」

違いない、とデネブ。

慣れたようなやり取りだった。

まるで毎日交しているような、そんな手軽さで。

そんなやり取りを交わしたアルタイルが、頬に手をかけ口角を自分で上げながら言った。

「笑え、俺」

そう言ったアルタイルの手には、銀色でドーナッツくらいの太さのリングが嵌っていた。

しかし次の瞬間、リングは刃渡り2mはあろう大剣へとその姿を変えていた。アルタイルはその大剣を重さを感じさせる事無く、右手1本で持っている。

「お互い、生きていたら」

「ああ、生きていたらな」

アルタイルは城壁から飛び降りる。

頭から落ちながら、体は重力に任せるままにその速度を上げる。

しかし、その体が地面に着くことは無かった。

アルタイルの背中から、黒い翼が現れる。

遠目から見てもそれは人工のものだとわかるが、それはアルタイルの体を空に舞い上がらせるには十分なものだった。

アルタイルは地面に接触する直前、その勢いを角度を変えて獣らの方へと向ける。

見れば、獣の集団は先頭の奴らが肉眼で数えられるくらいに肉薄していた。

飛び降りた勢いのまま群れへと突撃するアルタイル。

前から感じる死の咆哮。

己を殺さんとする、獣共の本能からの怨嗟。

そしてそれをかき消すほどの...砲声。

「わかってるじゃん、デネブ」


最前列の数匹がなすすべなく肉片に変わる。

それでも、奴らはとまらない。

仲間の死骸すら踏み台にし、前へ。

そこにあるのは獣としての本能だ。

しかし、その進行を一身に受け止めながらアルタイルは立っていた。

全身を真っ赤に濡らし、自身の身長を超えた剣を振り回す。

一太刀振るたびに1匹、また1匹と屍を築きその体の赤を凄惨なものへと変えていた。

さらにその剣は、アルタイルが何かを呟く度にその姿を変える。

50口径はありそうな銃になったかと思うと、その砲身から死の嵐を撒き散らす。

獣の牙が、爪が、尾が、その体に届こうかという時には、太い木の幹のような鉄の柱に変わる。

アルタイルも奴らの攻撃を蝶のように躱す。

重力を感じさせない動きで獣を翻弄し、武装を変え、屠る。屠る。

遅れる形で、前線部隊を務める彼の部下達も合流する。

絶え間なく続く砲声も、獣らを駆逐し続け。

いつの間にか、獣は目に見えてその数を減らし始めた。

これはいつもの防壁の光景。

血で血を洗い、人道を語る国家は市民のためにその刃を振るうことを決めた。

とある大陸の、虚ろな世界の戦いの記録である。


笑いながら書いていたいです

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