出会い、出逢い?
これは神族、魔族、人族、獣族の種族により構成された世界の物語―………。
夜も深まり、酒場にはたくさんの人族の冒険者たちが溢れかえっていた。湿っぽい酒場には、食器のぶつかり合う音、発酵した葡萄の酸味ある匂いと、獣を焼いた食欲そそる芳ばしい香り、男たちが会話する声とで賑わっている。
男たちの低音で交じり合うその声は、いつになく上機嫌で、冒険先での武勇伝や、依頼についての儲け話…そんな内容の物が多かった。中でも…
「今回の依頼なんて、魔族が相手かと思えば。蓋を開けりゃ獣族の群れが人族様の領土に棲みついてるだけ!」
「獣族10体…いや!12体は殺ったな!」
「お前のそりゃ兎かなんかの獣族か?がはははは」
大勢の冒険者たちは今回の依頼を共にした者たちだった。
依頼の内容はこうだ。
かつて、神族が住んでいたとされた宮殿は魔族との抗争により半壊してしまい、神族もそれと同時に宮殿から去っていった。その宮殿には、神族の貴重な宝物が残されているとかいないとか…それを長年に渡り人族は少しずつ探索を繰り返していたがここ近年、宮殿には妙な噂があった。
魔族が再び、その宮殿に戻り…なにかを探している、と。
そこで貴族連盟よりギルド団にその調査を依頼された…というのが今回のこの大勢の冒険者たちの請け負いだった。
相手は貴族連盟。報酬は、云うまでもなく高額だ。
その高額な依頼が、獣族の討伐で済んだのだから、ご機嫌になるのも当然だろう。
逆に魔族相手なら、破格の安値であることに間違いはない。そこを分かっているのか、いないのかはさておき。事なきを得たのは、貴族連盟にとってもギルド団にとっても良いことではある。
「そこの兄さん、あんたもギルドの依頼を受けてきたのかい?」
騒がしい酒場の中で、体格のいい女将さんがこちらに目をやり話しかけてきた。
「いや、受けたというか。…まぁ、受けたのか。えぇ、まぁ、そんなとこです。」
曖昧な返答に一瞬表情を歪めたが、女将さんは続けた。
「で、おっさんたちは獣族ばっかって言ってるけど、なにかいいものは見つかったのかい?」
女将さんも宮殿に神族の宝物が隠されてるっていう噂を信じているくちだろう。
まぁ、それは俺も似たような考えなんだが…。
「特に何も。報酬が一番のお宝じゃないですかねー」
「なーんだい、今回もなんも無しか。やっぱりただの半壊した宮殿なのかねー」
ちょっと残念そうな女将さん。なんだか面白半分で世間話をしてきたような感じでもない気がして、聞いてみたい衝動にかられ
「なにか…」と聞こうとしたとき
「すみませーん」「はーい」と女将さんは別の客に注文を頼まれそのままその場を後にした。
「お宝、ね…」
神族が棲んでいたとされる宮殿。謎は多く、確かにあそこには何かある。何かあるからこそ、魔族だの、獣族だの、噂だの、でてくるのだろう。それが俺の考えでもある。
「……」
溶けた氷が、コップを伝い、じんわりと冷気を感じさせる。
この世界には大きく分けて4つの種族がある。
ひとつは神族…それは世界が誕生し、初めて生まれた種族。世界の中心となり、世界の均衡を管理、創造することを役目としていた。
二つ目は魔族…かつては神族として生まれたが、堕落を重ね、別の進化を遂げた種族。その為か古来より神族との権威争いが絶えない。
三つ目は人族…神族の中でもあまり力を強く持たずに生まれた者たちがいつしか力を失い、別の種族として存在するようになった。
そして獣族…世界に創造された生き物。その中には高度な知識と技術を兼ね備えた者がいたり、姿形は多岐にわたる。
俺は云うまでもなく、人族だ。ごく、普通の、人族。
普通じゃない人族がいるのかって?
まぁ、人に普通などないのかもしれないが…
「てか、知ってるかー?獣人族がこの町にはいるって噂…」
ガタタッン!
「っ〰️…!」
「!」
「…ててっ……!!あ、えー。と。おおおお女将さん、御代はここに置いとくねー!」
明らかに、怪しい感じで。1人、店を後にするやつがいた。
と、いうかあんなに身体をぶつけて。慌てて出ていくところがなにかやましいことがあるか、恥ずかしかっただけか…
いや、それはないな。何か、情報をもってるに違いない。
『てか、知ってるかー?獣人族がこの町にはいるって噂…』
男たちが話していたのは獣人族についてだったか。
飲みかけていた葡萄酒を口に流し込み、コップを静かにカウンター側へ御代と一緒に戻した。
湿っぽい酒場をでると、外は街明かりが少なくキレイな夜空が見えた。無数の星がずーっと向こうまで続いていた。
無数の星をなぞるように、視線を動かした先に…
「いた。」
先ほど慌てて出ていった冒険者だ。
駆け出した、その瞬間―…
「!」
そいつがこちらを振り返る。
「やっ…ば」
逃げられる!瞬間的にそう思ったが遅かった。相手はすでに暗闇に身を隠してしまった。暗闇の中で人探しするのも一苦労…ここは諦めるとするか。
深追いするべきなにかがあるわけでもない。と星空を見上げた。
でも、なぜか…どことない違和感を感じた。
それが。
あいつと俺の、出会いだった。