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第4話 回り出す歯車

まずはお詫びから始めさせて頂こうと思います。前回の更新から約3ヵ月もの開きがあったことに対してです。誠に申し訳ございませんでした!

実は只今海外の方に居りまして、とにかく忙しかったというのが理由でございます。これからも更新はしていく予定ですので、どうか気長に待って頂けると幸いです。

 夢を見た。


 それはとても昔の記憶。


 そこでは魔術は生活の一部だった。詠唱一つで火を起こしたり、水を作り出したりするのが当たり前の時代。しかし、誰しもが魔術を使えるわけではなかった。魔術を使えない人もたくさんいたのだ。魔術を使える人と使えない人、この違いはとても大きかったが、双方協力しながら毎日を必死に生きていた。


 ある時、とても聡明で心優しい王がこの国を治めることとなった。王は魔術の天才でもあり、それでいて魔術を使えない人々のことを常に気にかけていた。


「どうにかして魔術を使えない民を救うことはできないだろうか?」


 魔術を使えない人々は肉体労働が主だった仕事であり、生活の水準も魔術を使える人々よりも低かったためである。この状況を改善するために王が出した結論は、一般人でも魔術を使えるようにする『魔道具』の開発だった。開発にはとても長い時間を要したが、その結果として三つの魔道具の作成に成功した。その中の一つが『サモンノート』である。

 この三つの『魔道具』は民の生活に大きな変革をもたらした。ここに王の長年の計画は成就し、王は歴代最高の王として称えられることとなる。そして。民の生活はとても安定したものになった・・・。しかし、その生活はすぐさま崩れ去る。強大な力を持つこの『魔道具』を巡って争いが起きてしまったのである。民の幸福を祈って作成した魔道具が争いの火種になってしまうという皮肉な現実に王はとても悲しんだ。この民衆の争いはどんどん広がっていき、終いには内乱となってしまった。


「こんな、こんなはずではなかった。私はただ、民の笑顔が見たかっただけであるのになぜこうなってしまった!」


 王にはただ嘆くことしかできない。既に王の体は老いており、争いを止める力は失われていた。  


 数年後、栄華の極みを誇ったこの国は滅びることとなった。王は悲嘆に暮れながらこの世を去った。争いの元になった魔道具たちも、現在ではどこにあるのかも分からず消息不明である。


「願わくは、次に『魔道具』を手にするものが善であることを祈る』


 そんな王の最期の言葉が聞こえた気がした。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 目が覚める。うっすらと目を開きつつ先ほど見た夢のことを思い返す。


「夢・・・か、なんて悲しくて皮肉な夢だったんだ。それに、あの三つの魔道具のうちの一つはどう見ても『サモンノート』だった。あの夢は『サモンノート』の歴史なのか?」


 あんな夢を見たからか目覚めは最悪に近かった。ふと、周りを見渡すとすぐ側で翡翠が椅子に座りながら眠っていた。その寝顔はとても美しく、普段見ることのないその姿にドキッとしてしまった。


「もしかして、ずっと側で看病してくれてたのか?ありがとうな、翡翠」


 そう一人呟き、まだ起きたばかりであまり動いていない頭を必死に回転させて現在の自分の状態について分析を初めてみる。ぐるりと部屋の中を見回してみると、その部屋が少し異質なことに気づいた。その部屋には窓が無く、自分が寝ているベッドぐらいしかまともなものは置いていない、とても殺風景な部屋だった。


「ここは・・・病院か?何で病院なんかにいるんだろう?」


 ガラララララ


「マスター、ようやく目が覚めましたか。おはようございます」


 病室のドアが開き、フランが現れた。鎧は脱いだのか、動きやすそうな半袖のTシャツにジーンズというオーソドックスな格好をしていたが、元が美形なため何を着ても似合ってしまっている。めちゃくちゃ可愛い。


 と、そのことは一旦置いといて、おもむろに自分の頬をつねってみる。


「イテテ!この光景は夢じゃない・・・か。こうしてフランがいるってことは、やっぱりあの出来事は現実にあったことなんだね」


「あの出来事とは、昨夜の事件のことですね。驚くのも無理はありません。ですが先に言っておきます。マスターの身に起きたことは全て事実です。あなたがサモンノートを起動し、私を召喚したこと。そして、命を狙われたことも全て事実です」


 改めて現実を突きつけられて、一瞬目眩がした。だが、認めざるを得ない。魔術とかいうアニメや漫画という二次元の世界にしか存在しないと思われていた技術が現実にもちゃんと存在すること。加えて僕とフラン、もとい『サモンノート』を狙っている組織が存在すること。これらの事実が僕を押しつぶそうと上から覆いかぶさってくる。


「受け止めきれないけど、受け止めるしかないんだよね?」


「はい・・・ですがご安心ください。マスターは、私の命に代えてお守りいたします」


 そう言うと、フランは僕の横に跪いて片手を胸に当て、片手で僕の手を握ってくる。


「ちょっ!?そんなかしこまらないでいいって!!」


「いえ、ちゃんとこうして誓わせてください。私は・・・もう二度とマスターに傷を負わせたりなんかしない。絶対に貴方をお守りいたします」


「フラン・・・」


 フランの覚悟は尋常じゃないくらいに伝わってきた。恐らく、先の一件で僕が傷を負ったことを気にしているのだろう。あまり大きな傷はないけれど、身体中の色々なところが痛んでいた。でも


「顔を上げてよ、フラン。それに、そんなに気負わないでよ。ほら!僕は今もこうして無事に生きてるし、フランがいなかったら僕はただじゃ済まなかったと思うし・・・だから、ね?フランはちゃんと頑張ったんだから、もっと自分に誇りを持っていいんだよ」


 事実、フランがいなかったら僕はギルバートになす術無く降伏するしかなかっただろう。その後どうなるかなんて考えたくもない。


「マスター・・・その心遣いに感謝いたします」


「あ〜、後さ。その『マスター』って呼び方なんだけど、慣れないし・・・妙に恥ずかしくなるからやめてくれると助かる・・・かな?」


「っ!?マス・・・貴方がそう感じていたのに気づけていなかったなんて。申し訳ありません!」


「そそ、そんなに畏まらなくていいんだってば!ほらもっと気楽にさ、ね?」


「はい・・・では何とお呼びすればよろしいでしょうか?」


「普通に颯太でいいよ。そう呼んでくれるとありがたいかな」


「分かりました・・・では、ソウタ。これからもよろしくお願いします」


「うん!こちらこそよろしく!」


 目と目を見つめ合わせ、お互いの手をお互いが握りなおす。両者の間に、確かに固い絆が結ばれた瞬間だった。


「えーっと、そ、そろそろ手を離してもらえるとありがたいかなぁ・・・なんて」


 とても感動的な場面だったが、あまりにもフランがガッチリと手を握ってくるもんだから流石に少し恥づかしくなってしまった。情けない話なのだが、自分が描いた、自分の好きなポイントを完璧に抑えた容姿の圧倒的美少女と目を合わせながら握手するなんて、女の子に対しての免疫があまりない僕には少々きついところがある。


「す、すいませんソウタ!」


 パッと手を離してフランは謝罪してくる。


「う、ううん!全然平気だよ!ともかく、これからもよろしくね」


「はい、こちらこそよろしくお願いします!」


 改めてフランとの絆を再確認したところで、横で眠っていた翡翠が動き出した。どうやら起こしてしまったらしい。


「う〜ん・・・あれっ、私いつの間にか眠っちゃってたみたい・・・って颯太起きてるじゃん!?!?大丈夫!?身体痛まない!?呼吸が辛いとかない!?」


 起きるや否や矢継ぎ早に質問を飛ばしてくる翡翠。普段の態度からは考えられない程の取り乱し様に少し固まってしまう。


「あー、翡翠。僕は大丈夫だから一旦落ち着こ?な?」


「〜〜〜!?・・・・・・スゥーーーハァ〜〜〜」


 深呼吸をして呼吸を落ち着ける翡翠。いつも冷静な翡翠がここまで取り乱すなんて・・・それほどまでに僕のことを心配してくれていたってことだろう。そう思うと、とても心がほっこりした。


「うん、落ち着いた・・・とにかく身体の方は大丈夫?」


「うん!確かに全身いたる所が痛いけど、我慢すれば全然動けるしヘーきヘーキ!!」


「そう?颯太が大丈夫っていうならこれ以上は言わないけど・・・」


 そう言いながらも、翡翠の目はまだ心配そうに僕をじっと見ていた。


「もう心配性だな〜翡翠は。ほら!この通りピンピンして・・・っつう〜〜〜〜〜〜!?」


 自分が健康であることを証明するために勢いよく横になっていたベッドから飛び降りた颯太だったが、着地した瞬間に全身に衝撃が走った。あまりの痛さに声にならない叫びが出る。


「ほら!やっぱり大丈夫じゃないじゃない!とにかく安静にして横になった方がいいよ」


「ソウタ!大丈夫ですか!」


 僕の身を案じて駆け寄ってくる二人を手で静止して、涙目になりながらも全然平気だとばかりに胸を張って見せる。女の子の目の前で寝たきりなんてかっこ悪いじゃないか!僕にだって意地の一つや二つあるやい!


「大丈夫・・・痛くないから!いや本当に痛くないから!」


 目一杯に涙を溜めながらも何とか強がってみせる。そして、徐々に頭が冴えてきたことによって翡翠に聞いておかなければならない事があることを思い出した。


「そうだ!翡翠、昨日の夜にあの変態殺人鬼から僕とフランを助けてくれたのは翡翠だよな?どうしてお前があそこで助けてくれたんだ?それに、ここは一体どこなんだ?」


 翡翠の表情が変わる。聞いて欲しくなかったとばかりに顔をしかめてから翡翠はぽつぽつと語り出す。


「順に説明するね。昨日あなた達を助けたのは私・・・正確に言うなら私たちね。秘密結社『チェイン』。それが私達が所属してる組織の名前」


 秘密結社『チェイン』?聞いたこともない組織だ。昨日のことから察するに、表の世界では無く裏側、しかも魔術を扱う組織ともなればその中でもさらに深い所に位置する組織であろう。


「なんでそんな危なそうな組織に翡翠が入ってるんだよ!」


「私の家系は、代々『チェイン』の捜査官を務めているの。それに、危ない組織って颯太は言ったけど真実はその逆。表の法では捌けない魔術犯罪者を取り締まるのが私達の役目。言うなれば、魔術界の警察みたいなものね」


 まるで頭がついていかない。だが納得するしかないであろう。現に昨日翡翠は僕達を助けてくれた。それに、フランがこう存在していることもそうだが、ギルバートの圧倒的な魔術を見せつけられれば『魔術』というものの存在を認めざるをえない。とんでもない世界に足を踏み入れてしまったな・・・と思いながら翡翠に話の続きを促す。


「あそこで颯太達を助けられたのは、広域に魔術感知結界を張っていたおかげかな。颯太を襲ったあの『ギルバート』という男は、こっちの世界ではSランク犯罪者でね、全世界に国際指名手配されているのよ。そのギルバートが先日日本に入国したという情報が入ってね。全国的に最強レベルの感知結界を張ってたってわけ。まさかこんな近くに現れるとは思わなかったけどね・・・」


「あいつそんなにやばいやつだったのか!?常人じゃないとは思わなかったけど、そこまでやばいやつだったなんて・・・こうして生きているのが奇跡じゃないか!」


 国際指名手配されてる程の大物だとは思わず、冷や汗がダラダラと流れてきた。


「颯太とフランちゃんは本当に凄いよ!あれほどの手練れから私達が到着するまで持ちこたえるなんて、『チェイン』の中でもそんな芸当が出来る人なんてほんの一握りしかいないと思う」


「そう言われると照れるけど、間違いなく今回のMVPはフランだよ。フランがいなかったら僕は最初の一撃で倒れてたよ」


「いえ、あれを撃退できたのは間違いなくソウタの機転のおかげです。『サモンノート』の真の使い方にあの場で気づいたソウタは、天才と言っても誰も否定するものはいないでしょう」


 フランが真顔でそんなことを言うもんだから、僕は恥づかしくなって顔が真っ赤になってしまった。


「そ、それはともかく、僕が生き延びられたのはあいつが僕を生け捕りにしようとしたってのが一番の理由だと思う」


「生け捕り!?」


「うん。あいつさ、どうやら僕を生かしたまま『サモンノート』共々回収したかったらしくてさ、僕をあいつが所属してる組織に勧誘してきたぐらいには僕が必要だったんだと思う」


「やっぱり、あいつらの狙いは『サモンノート』とその所有者ね。ここらへんの詳しい話は後でボスから説明があると思う」


「ボス?」


「文字通り私たちのリーダーよ。最後の質問に答えるなら、ここは『チェイン』の本部よ。颯太が狙われている関係上、強制的に『保護』させてもらったってわけ。颯太本人の意思を確認しなかったのは悪かったと思ってるけど、ここが今のところは一番安全だから理解してくれるとありがたいかな」


 本当に申し訳なさそうに翡翠は頭を下げた。


「わわっ!謝らないでよ翡翠!僕個人としても翡翠の組織に保護してもらうのは大賛成だし、何より翡翠が所属してる組織が悪い組織のはずないしね」


 翡翠は一瞬固まったあと、笑顔になって「ありがとう」と言ってきた。いまいちこの組織の実態が分からないからあれだけど、ここは翡翠を信じることにした。


「とりあえずまあ、こんな感じかな。これより詳しい事はボスに聞いた方がわかりやすいと思う」


「翡翠の言っている事が色々現実離れしすぎてて、正直受け止めきれてないけど・・・実際に経験したからね。わかった、全部信じるよ」


「私だって、颯太にこっち側の世界の話なんてしたくなかったよ。でも、まさかあの伝説の『サモンノート』を持って飛び込んでくるなんてね」


「翡翠はこのノートについて何か知ってる事ある?」


「それがどういう構造で動いて、どういう物質でできているかは知らないけど、その本の存在はこっち側の世界じゃ知らない人はいないと思うよ」


「やっぱりとんでもない物なのか、これ・・・」


「うん。はるか太古に作られたと言う、万能と謳われた三つの魔道具のうちの一つだしね。私も生きているうちに現物を見れるなんて思いもしなかったよ」


 どうやら相当凄いものらしい。まあS級犯罪者がわざわざ奪いにくるぐらいだ、本当にとてつもないものなのだろう。


「じゃあ、そろそろボスのところへ行こうか。ボスも君のことをとても心配していたから、顔を見せてあげるととても喜ぶと思う」


「わかった。これ以上の詳しいことはボスに聞いてみることにするよ」


 そして、翡翠を先頭にして病室を出た僕たちは『チェイン』のボスのもとに向かう。それぞれ胸に確かな思いを秘めながら、薄暗い廊下をゆっくりと、だが確かな足取りで進んでいくのであった。







ここまで読んで頂き、誠にありがどうございました。これからの更新は不定期になりますが、3ヵ月も開くようなことは無いように務めます。目安として、一週間〜二週間で一話というスタイルで行こうかなと思ってます(もちろんこれより早くなることもあります)。更新したらTwitterの方でも告知させて頂くので、どうか何卒よろしくお願い申し上げます。

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