第3話 初戦
更新遅れてしまい本当に申し訳ありません!
原稿が途中で消失した時は、流石に少し泣きましたがなんとか復元できました! どうぞお楽しみください!
主な使用武器を細身の剣から二丁拳銃にシフトしたギルバートは、フランと一定の距離を常に保ちつつ随所で必殺の一撃を叩き込んでくる。
対するフランも、負けず劣らず宝剣を力強く振るい必死に距離を詰めようとする。そんな中、僕も所々で簡単な防御壁を展開したり、フランに盾を渡したりと必死に動いていた。
「初めての戦いにしてはなかなかのコンビネーション、賞賛に値します。そんな素晴らしいモノを見せてくれたお礼として・・・颯太君、君に本当の魔術というものをお見せしよう」
そう言ったギルバートは後ろに大きく飛びずさり、二丁拳銃を胸の前で交差させながらなにやらブツブツ呟いている。
「我は風を律する者。風の精霊よ、我が命に従いてその力を我が武器に宿せ!」
突風が吹く。そのあまりの風の強さに吹き飛ばされそうになるが、歯を食いしばって必死に耐える。風は竜巻の様にギルバートを取り囲んだかと思うと、一瞬にして霧散した。ギルバート本人には特に変わったところがなかったが、よく見てみると、ギルバートが持っていた二丁拳銃の装飾が緑色に光り輝いていた。
「それが真の魔術だって? ただ銃が緑色に光っただけじゃないか!」
「お待ち下さいマスター! どうやらあの銃は風の精霊の力を纏ったようです。十分に注意を」
フランは僕を守るように前に立ち塞がってくれている。その小さいけど大きな背中がとても心強く思えた。
「いいですか颯太殿、魔術戦とはこういうものの事を言うのですよ!」
ギルバートが発砲する。しかし、どちらも見当違いの方向に銃口は向いていた。だとしたら、こちらを向いて撃っていない以上、弾が僕に当たるのは道理ではないし有り得ない事である。
だが、奇跡はここに成し遂げられる。
風を纏った緑色の銃弾は、空中でいきなり起動を変えて一目散にこちらに向かってきた。
「な、そんなんありかよ!?」
左右両方向から同時に襲い来る魔弾、どちらか一方に集中すると残った片方に貫かれる、単純だが強力な戦法だ。
「くっ!?」
フランは僕を背負って回避を選択し、後ろに大きく飛んで距離を離す。目標を失った魔弾は互いに衝突し、爆発して煙を周囲に撒き散らす。
「幾ら変則的な軌道をしたところで、当たらなければどうということはありま・・・!?」
煙の中からギルバートが一直線に走り込んできていた。爆風が発生してから目の前にギルバートが現れるまでおよそ三秒。驚異的な踏み込みだった。
「・・・・・・」
ギルバートは無言で命を狩りに来る。
僕を背負ったままのフランは、片腕でこれに対処するがあえなく吹き飛ばされてしまう。
「くっ!?」
「ぐわぁっ!?」
弾き飛ばされた僕とフランは地面に叩きつけられ、そのまま地面に転がる。
「くっ・・・そぉ・・・」
口ではそう強がっていながらも、叩きつけられた衝撃で視界がクラクラしていた。
「フラン! 大丈夫か!?」
「なん・・・とか・・・」
「フラン!?」
フランの片腕は血塗れだった。恐らく先の空中での一戦の時にやられたのだろう。今こうしている間にも流血は止まらず、あの様子では当分片腕は使えないだろう、それほどフランの傷は相当なものだった。
「大丈夫です・・・片腕でもたたかえ・・・ます」
「無茶だフラン! その傷で戦うなんてそんな!」
「ですが・・・戦わなかったらここで終わりなのです。例え私のこの身が果てようとも・・・貴方に召喚されたパートナーとして、貴方だけはお護りすると決めたのですから」
「フラン・・・」
ギルバートはとてもゆっくりこちらに歩いてくる。まるで、こちらの打ってくる対応策を待っているようだ。ギルバートは勝利を確信している・・・だが、そこにこそつけ込む隙はある!
「フラン、一旦森の中に引くぞ」
「ですが、一体どうやって!? あの相手がみすみす撤退を許すとは思えませんが・・・」
「あいつの戦法を少し利用させてもらう。ついでに成功するか分からないが、前にアニメで見た知識も利用していちかばちか試してみたいこともある・・・フラン、僕が合図したら一緒に横の森の中に飛び込むぞ!」
「・・・何か策があるのですね。分かりました、ここはマスターに従います」
「おや、相談はもう終わりですかな? さてさて、一体どういう手を打ってくるのか見物ですな! ここまで楽しい戦いは久しぶりなのです! もっともっと私を楽しませてくだされ!」
最初の落ち着いていた老執事の態度はどこへやら。今のギルバートは目を血走らせ、鼻息も荒く、口ではハァハァと息をもらしていた。
「こんの変態殺人鬼めが、、、これでもくらえ!」
颯太は小さな丸い球体を五個程具現化させ、それを全てギルバートに向けて投げつける。
「む!?」
身構えるギルバート。光り輝く球体はもう少しでギルバートに当たると言うところで一際大きく輝いた。次の瞬間
ボフン。
ボフン。
ボフン。
ボフン。
四つの弾が弾け、当たり一体を覆い尽くすほどの煙幕がまきちらされる。
「ほう! 私の戦法を真似してきましたか! いいでしょうどこからでもかかって来なさい!」
「フラン! 今だ!」
煙幕を利用して、フランと共に横の森の中に逃げ込む。
「おや、この感じは・・・引きましたね。ですが逃がしませんよ!」
声のした方向にギルバートはダッシュする。しかし、もう遅い。既に準備は整っているのだから。
地面に転がっていた白い球の内の残り一つが一際強く輝き出す。
それに気づいたギルバートは、すぐさま敵の狙っていた事に気づく。
「!? もしや粉塵ばくは・・・」
ドゴォォォォォォン!!!!
爆発した白い球体から飛び出た火花が、舞っていた煙幕の粉に着火して連鎖的に爆発を起こしていく。俗に言う粉塵爆発という現象がここに起こっていた。
「まさか本当に成功するなんて・・・せめて煙幕の中から攻撃できたら御の字程度だと思っていたのに・・・」
相対していた広場から少し距離が離れた大きな木の影の裏で、フランを抱きしめるように伏せていた状態から少し身を起こす。
「凄いですマスター! あの状況でとっさにこのような判断が出来るなんて・・・まるでプロの傭兵のようです!」
「そんな褒めないでよ・・・アニメで見た知識の応用だし、何より反撃しなきゃ殺されていたとはいえ人を一人殺してしまったかもしれないんだ・・・後味が悪いよ・・・」
「すいませんマスター・・・そのようなつもりは無かったのですが、不愉快な気分にさせてしまったことを謝罪します。・・・あのそろそろ動きづらいので私の上からどいてもらっても構わないでしょうか?」
頬を少し褒めながら、フランは恥ずかしそうに言う。
「え?」
改めて自分の今の状況を冷静に分析してみると、仰向けになっているフラン(しかも戦闘で服が若干乱れている)に、自分が上から覆いかぶさっている。
その上、あろう事か片手はフランの胸におかれていた(もちろん意図してのことではない、たまたま手が当たっているだけだとここで弁明しておく)。
「わわわっ!? ごごごゴメン!! すぐ退かすから!!」
すぐさまフランの体から飛び退き、その勢いで後ろの木の幹に頭をおもいっきり強打する。いってぇ・・・
「大丈夫ですかマスター!?」
「いつつ・・・まぁなんとか大丈夫・・・。それよりフランは大丈夫?」
「大丈夫・・・と言いたい所ですがそうもいかないみたいですね。私は精霊なので、傷の治癒も比較的早い方ではあるのですが、後数日は動かないと見ていいでしょう」
「そっか・・・無理させて本当にゴメン。今包帯と消毒液を具現化させるから待ってて」
「その心遣い、痛み入りますマスター」
フランの言う通りに包帯を巻いていき、一応の応急処置は完了。
「フラン大丈夫か? 動ける?」
「はい!お蔭さまでなんとか平気です!」
「よかった・・・じゃあとりあえずここからはな」
突風が吹く。今までとは比べ物にならない程の突風を受けて、颯太とフランは必死に近くの木に縋り付く。
「な、なんだこの風!?」
「まさか・・・!?」
先程粉塵爆発が起きた広場へと目を向ける。先程まで爆風で何も見えなかった広場だが、今の突風の影響で全て綺麗に晴れていた。
そして、その中心に佇む影が一つ。
「全く、自慢の髭がすこし焦げてしまったじゃないですか。一体この髭を整えるのに毎朝何時間かけてると思っているのかね」
ギルバートであった。服装に若干の焦げ跡が見られ、髭もほんの少しだが黒ずんではいるものの、ほぼ無傷と言って差し支えない状態であった。
「ウソ・・・だろ・・・アレを食らって無傷だなんて・・・」
最早アレは人間ではない。人間の皮を被った『バケモノ』だ。
「そこですか!」
すぐさまギルバートはこちらの位置を察知し、二丁拳銃でありったけの魔弾を叩き込んでくる。
銃声が止んだので顔を上げてみると、周りに生えていた木の殆どが木っ端微塵に破壊されていた。
「これで隠れる場所もありませんぞ? さあ! 先程の続きと行きましょう。髭のお礼もたっぷり返さなくてはいけませんしね!」
ギルバートは落ちていた剣を拾い上げ、再び急速に接近してくる。
「マスター! 離れて下さい!」
フランが僕の前に立ちはだかり迎撃を試みる。しかし、
「くっ!?」
やはり応急処置では先程の傷は完治させる事はできなかったためかフランの動きが一瞬止まる。その隙を見逃すギルバートではない、ギルバートが欲しいのは僕とノートであって召喚された精霊はそれに含まれていない。故にその一太刀はただ命を刈り取るためだけのものであった。
「獲った!!」
「フラァァァン!!」
「くっ、最早ここまで・・・か」
ギルバートは勝利を確信し、僕は叫ぶ事だけしか出来ず、フランも諦めかけたその時
キィン!
何処かから放たれた銃弾がギルバートの剣を弾き返した。
「なんですと!?」
ギルバートは慌てて後退する。
「え?た・・・助かった・・・のか??」
「間一髪ギリギリセーフって所ね。颯太!!大丈夫だった!?」
いきなり目の前に現れた女性の正体は
「ひ、翡翠! なんでお前がこんな時間にこんな所にいるんだよ!」
僕の幼なじみ、川澄翡翠であった。
「それはこっちの台詞よ! あんた、またどうしてこっち側の世界になんて来たの!? 」
翡翠もテンションが上がっていたのか、普段からは考えられないような声の大きさでハキハキ喋ってくる。
「僕だって入りたくて入ったんじゃない! ノートを探してこいって言われてノートに絵を描いてたら女の子がいきなり現れてそれからそれから!」
「待った、一回ストップ。とりあえず落ち着いて、ね?」
「う、うん。色々まくし立ててゴメン」
「取り敢えずあいつを追い払うわ、後は私達に任せて! それにしても貴方達はよく頑張ったわ、二人だけでエアデの幹部から十分以上も生き延びるなんて勲章モノよ」
そう言い残すと、翡翠はギルバートの元へ歩み寄っていく。
「さあ観念しなさい! お前は完全に包囲されているわ! 抵抗なんかせずに投降しなさい!」
「おやおや、まさか『チェイン』まで出張ってくるとは。流石にこれは一人だと分が悪いですね、ここは素直に退散させていただきますかな」
ギルバートは二丁拳銃をホルスターに戻し、逃げる体勢を取る。
「それでは皆さん! またどこかでお会いいたしましょう!」
ギルバートはそう言い残すと、黒い影に包まれてどこかへ消えてしまった。
「逃がすか! 総員、やつを追跡しろ!」
翡翠の号令の元、影に隠れていた何人かがギルバートの追跡に向かう。
「ひ、翡翠・・・これはいった」
一体なんなんだと言おうとしたが、最後まで言い切ることは叶わなかった。普通の一般人が、命のやり取りをしていた極限の緊張状態の最中に気絶しなかっただけでも上出来であろう。途端に体中の力が抜けていく。
「あ、あれ・・・体がうごかな・・・い・・・」
前に倒れるその体を翡翠が抱きとめる。
「全く・・・こんなに無茶ばっかして・・・馬鹿なんだから。死んじゃったらどうするのよ全く」
言葉とは対象的に、翡翠の表情は優しさに満ち溢れていた。
夜はまだまだ更けていく。その中で、颯太は泥のように眠り続けるのであった。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございます!
初戦を終えた颯太やフラン、翡翠は今後どうなって行くんでしょうか!?
そんな第4話は明日、若しくは二日後の更新を目安にしています。