第2話 共同戦線
今回文章の量が通常より少し多くなってしまい、二つに切ることも考えたのですが、戦闘シーンの駆け抜けるイメージを崩したくなく一気に載せることに致しました。是非とも楽しんで頂けると幸いですorz
静かに佇む黄金の少女。僕は呼吸をする事を忘れ、ただただ具現化した黄金の少女をじっと見つめ続ける事しか出来なかった。
「私を召喚したのは貴方ですか?」
その小さな唇から紡がれた言の葉は、鈴の音のように綺麗で、とても愛おしく思えた。
「え・・・・・・あっ、た多分僕だと思い、、、ます?」
なぜだか疑問形になってしまった。本当に召喚したのは僕なのか? いや、でもまんま姿形はフランだし、僕で合ってる・・・と思う。
それにしても一体何が起こっているんだ? これは夢なのか?? 颯太は、目の前に起きている出来事を未だ飲み込めずにいたのであった。
その様子を、遠くの家の屋根からスコープ越しに除く怪しい影が一つ。颯太がノートを持ち出すのを監視していたあの影である。
「魔道具『サモンノート』の起動を確認・・・いやはや、それにしてもまさか一番最初から人型の召喚を成し遂げるとは思わなんだ。
人型一体を形作る召喚には、文字通り、無から人一人を形作れるだけの圧倒的認識力が必要だと言われているが・・・それを最初からこなしてしまうとは・・・まことに恐れ入った。感服感服」
その影は、観察している少年の行動に心からの讃辞を送り、手に持っている魔道狙撃銃を置いてパチパチと拍手した。その姿を、今まで雲で隠れていた月が照らし出す。
執事服に身を包み、白い髭を蓄え、姿勢正しく拍手を続ける老人の姿が、そこにはあった。しかし、その老人にはいくつか普通の老人とは違うところが目に付いた。
腰には細身の剣を帯刀しており、右目には眼帯を付けている。加えて、腰に巻かれたホルスターには不思議な装飾が施された拳銃が二丁ささっており、静かに威圧感を放っていた。中でも目を引くのは、足元に置いてある大型の魔道狙撃銃であろう。老執事の背丈程あるそれを、老執事は軽々と持ち上げて構え直し、再びスコープに目を通す。
「ふむ・・・半殺しにして連れ去る予定でしたが、あれ程の才能に傷をつけるのはとても勿体ない。是非とも話し合いで穏便にすませたいものですが、あの召喚されたモノの能力が分からない以上、策無しに接触するのは危険ですな。はてさてどうしたものか」
あたりをキョロキョロと見渡す老紳士。そして、近くにある大きな森林公園に目をつけ
「取り敢えずあそこまで来てもらうとしますかな。あの少女がどれ程の力を持っているのか、せいぜい期待外れではないといいのだが・・・」
老執事は魔道狙撃銃の弾丸に火の魔力を少しばかり通し、着弾時に爆発するようにセットする。
スコープの中心に少年を捉え、一切迷うことなく引き金を引くのであった。
「了解しました、ではマスターと呼ばさせて頂きます。さて、此度はどのような要件で私を召喚したのですか?」
えっ、何で召喚したかって? そんなん僕が知りたいよ! でも召喚した理由・・・理由か。強いていうなら
「なんとなく・・・・・・かな?」
「なるほど、なんとなくでしたか。む、なんとなく??・・・って、えぇっ!? なんとなく!? それってどういうこ・・・っつ!? マスター!伏せて!!」
颯太の体にレーザーサイトの光が当たっているのを確認したフランは、咄嗟に颯太に飛びかかって床に伏せる。
瞬間、部屋が爆炎に包まれる。つい先程まではごくごく普通の部屋だったのが、一変して地獄に変わる。
「えっ」
颯太はいつも自分が目にしていた当たり前の光景が、一瞬にして変わってしまった現状を飲み込めずにいた。だが不思議な事に、最初は勢いよく燃えていた炎が次第に小さくなっていくのが目に映った。
「この火の消え方は、弾丸に少量の火の魔力が込めてあったようですね。でもどうして? 最大火力で撃ち込めばこの家ごと吹き飛ばせた筈なのに・・・いや、あえてそうしなかったのか。マスター! 取り敢えずここから脱出しますよ!」
目の前の状況が飲み込めず、固まっていた颯太にノートを持たせ、フランは颯太の手を引いて家を飛び出す。
そして、ようやく状況を把握した颯太が取り乱しだし、二度目の狙撃を受け、その影響でフランにお姫様抱っこされながら必死に逃げている現在に至るのである。
フランが僕を抱き抱えながら逃げ始めた瞬間、狙撃は一段と激しくなった。これをフランは器用に避けながら逃げ続ける。
そんなフランの、必死に前を見据えて、襲い来る銃弾をものともせずに駆け続ける少女の顔を、僕は下から眺め、そして見とれていた。仄かに香る甘い匂いも脳を麻痺させる。
こんな状況だというのに、僕は僕を抱いている少女から目が離せなかった。ドキドキと心臓が早鐘を打つ。こんな現象を今まで一度も体験したことがなかったせいか、颯太はこの感情をどう定義したらいいのか分からなかった。
「これは明らかに誘導されていますね。しかし、退路を絶たれている以上このまま進むしかありません。マスター、どうしますか?」
「えっ!? た、退路を絶たれているんならフランの言う通りこのまま進むしかないんじゃないかな!?」
「?? マスター、何をそんなに動揺しているのです? もしや、どこかに銃弾が掠りましたか!?」
「そ、そんな事ないよ! 大丈夫! 大丈夫だからこのまま進んで!!」
「マスターがそう言うならいいのですが・・・」
そして時間にして10分ほど駆け続けた後、近所にある大きな森林公園に辿り着いた。
「ありがとう、もう降ろしてくれて大丈夫だよ」
そうして、フランのお姫様抱っこからようやく解放される。本心を言えば、もうちょっと抱き抱えられていてもよかったのだが流石に恥ずかしすぎる。
そして、森林公園の内部に踏み込もうとした時、ポケットの中の携帯電話がいきなり鳴り始めた。
『もしもし! 颯太、大丈夫!! 生きてる!?』
電話の主は翡翠からだったが、そのあまりの普段とのテンションの違いに思わずビビる。
「なんとか生きてるよ・・・何か不思議な事が起こりすぎてもう何が何だかわからないよ・・・」
『無事で良かった・・・今の居場所は森林公園ね!! すぐに向かうから10分程何とか耐え』
ブツッ
「あれ、翡翠! もしもーし!」
電話がいきなり切れてしまった。それと同時に森林公園の奥から一人の影が姿を現す。
「電波遮断の結界も張っていたのですが、一体誰とお電話をしていたのですかな? もしや、こちら側の世界の友人でもいたのですか?」
「マスター下がって! なにやら危険な感じがします!」
フランが僕を庇うように僕の前に立つ。目の前に現れたのは一人の老紳士であった。
「誰だお前は!? 僕のことを狙撃したのもお前の仕業か!?」
「私ですか? おやおや、これは失敬。ご挨拶を忘れていました」
老紳士は優雅に一礼して、颯太達に身の上を明かし始める。
「私の名前はギルバート。魔術結社『エアデ』の幹部を務めさせて頂いてます」
魔術結社『エアデ』?? 聞いたこともない。そもそも人の部屋を勝手に爆撃するやつがまともなわけがない。
「一体こんな事をして何が目的なんだ!? いきなり狙撃されるような覚え僕には無いぞ!」
「その件については謝罪を。一応少し火力を抑えさせていただいたのですが、あれではご満足いただけませんでしたか?」
「そんな事聞いちゃいない! 僕が聞きたいのは何で僕なんかを狙撃したかってことだ!」
「それは勿論、そのノートに関係しての事でございます。本当だったら、あなたは生きてさえすればいいので半殺しにして無理矢理連れ帰っても良かったのですが、私は貴方に興味が湧きましてね。出来るだけ傷をつけたくなかったので、この話し合いの場を設けたのでございます」
背筋がゾッとした。この老紳士は冗談でも何でもなく、本気で僕の事を半殺しにしようとしていたのが本能的に分かってしまったのである。
「ではそろそろ本題に入るといたしましょう。単刀直入に申します。颯太君、君には是非ともエアデに入ってほしい。我が組織には、君とその『サモンノート』が必要なのだよ」
はい? もしかして、もしかしなくともこれって、勧誘されてるのか??
「勿論タダで入ってくれとは言いはしない。それなりの待遇を約束しよう。君の欲しいものは何でも与えよう! どうかね? 悪い話ではないと思うのだが」
この人、本気で僕の事を勧誘してるのか!? 先程まで殺そうとしてた相手を自分の組織に勧誘するなんてイカれているとしか思えない。それに、そんな危なげな組織に入るのなんかまっぴらゴメンだ!
「マスター! あんな誘いに乗っては行けません!!」
「分かってるよフラン、僕もそんな如何にも闇の組織みたいなものに入りたくはないよ。ギルバートさんと言いましたか、その話丁重にお断りさせていただきます」
「ふむ、望んだものが何でも手に入るのにですか? 富も名声も思いのままですぞ」
「僕は正義か悪かと言われたら、勿論正義の方が好きでして。人を平気で殺そうとするような奴らの組織になんか死んでも入る気はありません!」
それに、こうやって闇の組織に入った奴の末路なんてたかが知れてる。最後に待つのはいずれも破滅だ。
「交渉は決裂・・・ということでよろしいでしょうかな?」
「何度でも言います! 僕は貴方の組織には入りません!」
「そうですか、では仕方ありませんね。当初の予定通り半殺しにして連れ帰るといたしましょう」
ギルバートの纏う雰囲気が一変する。先程までの礼儀正しい朗らかな老紳士から、一人の殺戮者へと変貌する。まるで抜き身の刀のようだ。触れるだけで切り刻まれる、そんな錯覚を感じてしまう程、目の前の老紳士の豹変ぶりは恐ろしいものだった。
「ひっ!?」
「マスター下がっていて下さい。この男、只者ではありません。私も今持てる全力で戦いますので、マスターはどうか隠れていて下さい」
「そんな!? それじゃフランが!!」
「大丈夫です、私を信じてください。決してマスターを死なせたりなんかしません」
そう言ったフランの表情は見えなかったが、死を覚悟してでも迎え撃つという気迫を、颯太は肌で感じた。
「女の子一人戦わせられるわけないだろ!? 僕も一緒に戦うよ!! 囮になって逃げ回るぐらいなら僕にだって!!」
「いいえ、残念ですが囮にもなりません。あれ程の使い手・・・恐らく彼の間合いに入った瞬間に瞬殺されてしまうでしょう。大丈夫ですマスター、私を信じてください」
そう言ってフランはにっこりと微笑みながら僕の方に振り向いた。その笑顔はとても綺麗で、そのまま抱きしめてしまいたくなった。しかし、その笑顔とは対照的に、彼女の身に纏う空気は死地に赴く戦士のそれであった。
「そんな・・・フラン、本当に僕には何も出来ることは無いのか?」
「・・・・・・ありません。マスターは、ただ自分が生き残る事を第一に考えてください。マスター、また後で会いましょう」
そう言い残すと、フランはギルバートへ向けて一直線に突き進んでいった。
「ここであなたを止めます!マスターには一歩たりとも近づけさせません!」
「おや?颯太君は一緒に戦わないのかな? 君一人の戦闘力なんてたかが知れてる、君はあのノートとマスターのバックアップがあってこそ輝けるというのに・・・む、さてはあのノートを使った真の戦い方を颯太君に教えていないな!」
「うるさい! 私一人でも戦えるし、たとえ死んでもマスターには指一本触れさせない!」
「・・・その心意気、まことによし! 私はこれでも武人の端くれ、その気高き志には全力で応じねば失礼であろう!」
ギルバートが抜刀し、彗星のような速さで襲い来るフランを迎え撃つ。フランはこの一撃を紙一重でかわし、刀を振り終えて隙が出来たところに渾身の一撃を叩き込もうとする。
「今の一刀を避けるとはなかなかやりますな! だが!」
気づけば、剣を持っていない方の手には二丁拳銃の片割れが握られており、ギルバートは渾身の一撃を叩き込もうとするフランに絶妙のタイミングでカウンターを合わせ、容赦なくその引き金を引いた。
「くっ!?なんのぉ!!」
だが、フランも負けず劣らずの反応を見せる。銃口から射出されるであろう弾丸の軌道を読み切り、限界ギリギリの所でこれを回避。そのまま地面に倒れ込みつつ受け身を取り、ギルバートと距離を取り直す。
「数多の敵を葬り去ってきた全力で首を狩りに行く一刀からの、ほぼ回避不可能な超至近距離からによる銃撃を耐えるとは・・・久しぶりに血が滾りますのう!」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・つっ!?」
脇腹当たりからたらりと血が流れる。流石に完全に回避することは出来なかったようだ。しかし、この程度の傷なぞ障害になどなりえない。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ふん!」
再び両者が激突する。その後何度も激突しては距離を取ってを繰り返していたが、実力差はギルバートの方が一枚上手であった。激突する度にフランの体には傷が増え、流れる血の量も増えていっているようだった。
「くそ! このままじゃフランが本当に死んじゃう!! 何か、何か僕に出来ることは無いのか!?」
必死に思考を巡らせる。考えろ、そしてよく観察しろ。この状況を打破する何かを探し出せ。
「む?」
そして颯太はある一つの事実に気づく。最初からそうであり、それが当たり前と思っていたが、フランには一つ欠けているものがあった。
「あいつ、剣は一体どうしたんだ??」
そう、剣である。僕はフランを描いた時に剣も一緒に描いた。なのに何故それが具現化されていない?
急いでノートを開き、フランを描いたページを開く。そこには、自分の描いたフランは消えており、フランが持っていた剣だけがそのページには残っていた。
「何でだ!? このノートは描いたモノを全部具現化するんじゃなかったのかよ!?」
いや、焦っちゃダメだ。落ち着け僕。よく考えろ。何でフランは具現化されて、剣は具現化されていないのかを。
フランが召喚される前、僕は何をしていた?・・・・・・そうだ、妄想だ! フランがもし召喚されたらどうしようか妄想して、色々イメージを膨らませていたんだ!
あの時の妄想には、確かに剣のイメージなどこれっぽっちもしていなかった。もしかして、モノを具現化する条件は描くだけじゃなくて、その描いた対象が具現化されたらどうなるかという強いイメージが必要なのではないか!?
「この仮説が正しいとは限らない、但しやってみる価値はある!」
僕は懐からペンを取り出し、剣を強くイメージしながらノートに剣を描き始める。
フランが持つにふさわしい、とても美しい宝剣を。そしてこの宝剣を携えて、目の前の敵を切り伏せるフランを強くイメージする。
「剣のイラストが光り始めた! やっぱり僕の思った通りだ!」
颯太は光るノートを持って、フランとギルバートが激突している渦中に目掛けて一目散に走り始め、上空に向かって勢いよくノートを放り投げた。
「フラァァァァン!! お前の愛剣だ! 受け取れぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「マスター!? それにその光は!? 全く・・・自分で気づくなんて大した人ですね」
ギルバートに蹴りを叩き入れ、その勢いで後ろに後退。そのまま空中へ大ジャンプ。
「させませんよ!」
持っていた刀を投げ捨て、ギルバートはフランに向けて二丁拳銃を乱射する。その手捌きの早さは、恐らく人間ができる範囲での行動限界を超えているほど凄まじく早かった。
だが
黄金の宝剣を手にしたフランの剣裁きは更にその上を行く。襲い来る弾丸全てを叩き落とし、地面に着地する。
「フラン! 遅れてごめん! でもノートを使った戦い方ぐらい教えてくれてもよかっただろ?」
「申し訳ありません・・・マスターを戦闘に巻き込みたくなかったのです。無礼をお許しください」
「いいっていいって、フランが僕の事を考えてくれてたのは良く分かったから。じゃあ、こっからは共同戦線だ! フラン! 二人であいつを撃退するぞ!」
「はい!マスター! 我が剣は貴方と共に!」
「自力でそのノートを使った本当の戦い方に気づくとは、やはり大した方だ。本当に惜しい・・・その才能を摘み取らねばならない自らの運命を呪うよ」
再び闘気を全力で漲らせ、ギルバートは構える。
ここに新たに参戦者を一人加えて、決戦の火蓋は切られたのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございました!遂に願っていた共同戦線まで書けて幸福感でいっぱいです!次話も明日投稿予定なので、呼んで頂けたら幸いです!
追記
本当にすいません!私用で今日の更新は出来そうにありません。もう1日待って頂けると幸いです(´;ω;`)