第1話 運命の日
遅くなって申し訳ありません。第1話です。今回はフランの召喚まで書きましたので、皆様に楽しんでいただけると幸いです!
僕が不思議なノートを手に入れ、不思議な少女と出会い、いきなり部屋を爆撃されて死にそうになった日曜日の朝。思い返してみれば、この一連の事件は全てこの日の朝に届いた一通のメールから始まったと思う。
『お義父さんの家にある蔵の中から、黒くて中身が何も書かれていないノートを探してきて』
差出人は母さんからだった。両親は今は2人揃って一週間程温泉旅行に行っており、僕は学校があるからと断っていたのである。
「えー、そんなん休んじゃえばいいじゃないー」
とは母さんの談だが、高校生という正に青春真っ只中である時期の一週間とは非常に大事なのである。
そんなこんなでここ一週間程は悠々自適の一人暮らし生活を満喫していた訳だが、そんな生活ももうすぐ終わりという時にこのメールは届いたのである。
「うーん、何でいきなりノートなんか探してこなきゃいけないんだ?? それにそんなもの見つけてどうするんだろう? ?」
『別に探してくるのはいいけど、そんなもの一体何に使うのー?』
と、メールの返信を送ってみたが1時間以上経っても返信は帰ってこなかったのである。
「うーん、まぁいいか。別に今日はなんも予定無いし、探してこなくて後でなんか言われるのも嫌だしなぁ」
不思議なメールに不信感を抱きながらも、やってきました祖父の家。祖父の家は自分の家から徒歩5分程の所にあるので、ちょっと走れば2分ほどで着いた。
「じいちゃんの家ひっさしぶりに来たなー、それにしてもじいちゃん今度はいつ帰ってくるんだろう?」
颯太の祖父は有名な探検家兼古代学者であり、これまでにも多くの歴史的遺物の発見に携わったりしている凄い人だ。今こうしている間もどこかにある遺跡で発掘作業でもしているのであろう。
そんな祖父の家の蔵の中には、今までに色んな遺跡やらなにやらで拾ってきたモノがたくさん眠っており、この中からノート一冊を見つけ出すのは至難の技と思われた。
「はぁ、あの中からノート一冊見つけ出すのは相当しんどいな・・・・・・」
などとぼやきながら、颯太は蔵の扉を開く。
蔵の中に太陽の光が差し込み、蔵全体が明るく照らされる。瞬間、『それ』はすぐに目に付いた。大量にあるモノの中で『それ』はひっそりと、しかし確かな存在感を持って蔵の中心に近い所に置いてあった。
「ノートってあれの事だよな・・・多分」
特別な装飾が施されているわけでもない、ただの黒いノートでしかない『それ』は、一般人である颯太にもこれはおよそ自分の知っているような普通のモノでは無いことは肌で感じ取れた。
「触ったら死ぬとか無い・・・よな・・・?」
恐る恐るノートに触れてみる・・・が、特段不思議な事は何も起こらなかった。それどころか、触って手に持った瞬間にノートからは不思議な威圧感は消えていた。
「あ、あれ。何でこんなただのノートに僕はビビっていたんだ??」
先程までの自分の動揺具合に、一抹の不安を覚えつつも取り敢えずノートの回収には成功した。
「取り敢えずノートは回収できたし、なんか怖いから早く家に帰ろう・・・」
颯太はそそくさとノートを開くことなく自分の鞄の中にしまい、蔵の扉を閉めて自分の家へと小走りで帰っていった。
と、そんな颯太の様子を他の住宅の屋上から観察する影が一つあった。
???「フォッフォッフォッ、取り敢えず最初のステップであるノートの持ち出しは成功したようですな。続いてはノートの『起動』を待つのみ・・・颯太君、期待していますよ」
そう呟くと、黒い影はたちまち姿を消したのであった。
「それにしても不思議な感覚だったなぁ・・・本当に一体何だったんだろう。まぁ、ノートも回収したし日曜を謳歌しま」
PRRRRRRRRRRR
「む、電話か。相手は・・・なんだ翡翠か。なんか用事でもあるのかな?」
今かかってきた電話の主は、僕の小さい頃からの女幼なじみである川澄翡翠からだった。家もすぐ近くの所にあり、家族絡みの付き合いもある。
「もしもし、颯太・・・昨日宿題の分からない所教えて欲しいっていうから私ずっと待ってるんだけど・・・今日はいつ家に来るの?」
え?・・・・・・あああああああそうだった!! 翡翠の家で宿題を見てもらう約束してたのすっかり忘れてた!
「今日はちょっと朝から忙しくてすっかり忘れてました・・・すぐ向かうから待っててくれ!」
「ん、そんな事だと思った・・・取り敢えず分かったから、来るならなるべく早く来てくれると助かる・・・私も夜には用事があるし」
「本当にゴメン! 今度なんか奢るからそれで勘弁して下さい!」
「そんな気遣いいらないよ・・・じゃあ待ってるからね〜」
翡翠は大人しい性格だから電話でも怒ってるような雰囲気なかったけど内心どう思ってるか怖いなぁ・・・
これ以上待たせると幾ら翡翠でも怒りそうだから急いで向かわねば!
宿題と筆箱を持って翡翠の家にダッシュで向かう。あのノートは机の上に置きっぱなしにしてきたけど、まあ平気だろう。
ピンポーン
「翡翠ー、来たぞー」
『鍵開いてるから入ってきていいよ〜』
インターホンからくぐもった声で翡翠の声が聞こえてきた。
「おじゃましまーす」
「待ってたよ・・・」
「あの〜、やっぱりというかもしかして怒ってる?」
「別に怒ってなんかないよ・・・約束してた時間から2時間以上すぎてるけど本当に怒ってなんかいないよ・・・」
「マジですいませんっしたああああああ!!」
翡翠に全力で土下座をする。十割十分自分が悪いので全身を使って謝罪の意を表す。
「・・・・・・もう、しょうがないなぁ。今度から約束はきちんと守ってね。出来ないとは思うけど、もし颯太に彼女が出来たとして、時間にルーズな男の子はすぐに嫌われちゃうからね」
「う、うううるさいなぁ。余計な心配しなくていいよ!」
「フフッ、そうよね。颯太に彼女なんか出来るわけないよね」
「〜〜〜!! もうこの話は終わり! とにかく宿題手伝ってくれ!」
「はいはい。じゃあ早速始めよっか」
全く、翡翠のやつったら余計な心配ばっかして。僕だって彼女の1人や2人すぐに作ってみせるさ!可愛い彼女作って翡翠に自慢してやる! ・・・と、頭の中で意気込んでみたものの、彼女いない歴=年齢の僕には彼女なんてすぐにできそうにないのも自明の理であった。
「それに、翡翠より可愛いやつなんてそうそういないよ・・・」
翡翠のルックスは、多分十人見たら十人が「可愛い!」と言うであろう。すらりと伸びた細長い脚に、見目麗しい青い髪、整った目鼻立ちは通りがかった人が思わず二度見する程だ。そして何より、翡翠は『声』がとてもキレイだ。山の中に流れている澄んだ川のせせらぎのような声で、聞いているだけで癒される。性格も大人びており、それもまたこのルックスにベストマッチしているのも高ポイントである。
こんな完璧美少女と一緒に休日に二人で勉強出来るなんて僕には勿体ないぐらいである。翡翠こそ彼氏の一人や二人、今すぐにでも作れるだろうに。
「ん、何か言った?」
「べ、別になんでもないよ!」
「そんなに慌ててヘンなの・・・じゃあ早速始めよっか」
翡翠との勉強会はとてもスムーズに進み、宿題も1時間程で終わってしまった。それからは談笑したり、一緒にゲームをしたりして過ごし、夕方には翡翠の家を出た。
「くそー、久しぶりに翡翠とマ〇オカートで対戦したけどやっぱり上手かったなぁ。帰ってから練習しなきゃ」
家に帰った後、お湯を沸かしてカップ麺を作り、ゲーム機の電源を入れる。
「カップ麺食べながらやるゲームは最高だぁ・・・これこそまさに王道!」
自分でも流石にだらしないなぁと思うが、それはそれこれはこれ。楽しければ全てよしなのである。
「ふあぁ〜、ん、もうこんな時間か」
気づけば時計は二十一時を過ぎており、夕焼けで赤色に照らされていた外はもう真っ暗だった。
「明日は学校だし、明日の準備してそろそろ寝るか〜。と、その前に『アレ』やっとかなきゃな。今日は一体どんなポーズで描こうかな」
『アレ』とは、颯太が毎日日課にしているオリジナルキャラクターのデザインをする事である。
イラストレーターを目指し始めた中学生の頃より、颯太はフランと名付けた自分のオリキャラのデザインを一日毎に違うポーズで描く事を決めていたのであった。
「今日のフランは一体どういうシチュエーションでどういうポーズにしようか?」
この新しいシチュとポーズを考えている時の時間が一番楽しい時間である。
「よし! 今日は王道に倣って剣を持ったカッコイイポージングを描くか!」
方向性も決まり、「さあ、書こう!」って気持ちになった所で、一つの事実を思い出す。
「あっちゃあー・・・そういえば昨日でノート全部使い切っちゃったの忘れてた・・・今日買いに行く予定だったんだけど色々あってすっかり忘れてたなぁ」
むむむ、これは困ったぞう。何か余ってる紙かノートなかったかな。
「あ! ノートと言えばじいちゃんの蔵から持ってき
たあのノートがあったじゃん!」
机の上に置いてあったノートを手に取る。
「一ページぐらい使っても別に平気だよね。ノートなんだから使ってあげなきゃ可哀想だしね!」
と、勝手に一人納得しつつノートの一ページ目を開くと、そこには
『このノートに描いたモノは全て現実となる』
という一文が書かれていた。
「なんだこりゃ? 描いたモノが現実になる?? 一体何を言っているんだ???」
『描いたモノは全て現実となる』
この言葉から推測するに、多分描いたモノが具現化されるって事だろうけど・・・
「馬鹿馬鹿しい、そんなラノベみたいな事起きるかってーの。じいちゃんの落書きかな? ああ見えて意外とお茶目な所あるからなぁ・・・ま、描いたモノが具現化されるって言うんなら、こっちも今まで以上に全力で描いてやんよ!」
勿論具現化されるなんて話を本当にアテにする程、僕は頭お花畑じゃないけれど、一種のモチベアップだと思えばなかなか面白い状況ではある。
「うおおおお! ここまでペンが動くのは久しぶりだああああ!! もし本当にフランが現実に現れたら一体どうしよっかな? 勿論この家に一緒に住むだろ? 一緒に学校に通ったり、帰りにはデートとかしちゃったりなんかして! 父さんと母さんにはフランの事どう説明しよっかな? まぁなんとかなるだろおおお!」
頭の中でもしフランが具現化した後の事をあれこれ妄想してみる。妄想ってこんなに幸せな気持ちになれるんだぁ、最高だなぁとか色々考えてるうちに時間は経ち、遂にイラストが完成した。時計を見るともう二時を回っていた。
「よ、ようやく完成したぞ・・・今までで一番の自信作が出来上がった・・・あぁ・・・疲れた・・・」
ペンを置き、フラフラとした足取りでそのままベッドに倒れこもうとする。が、ここで異変は起こった。
「ん?何だ?」
机の上に置いてあったノートが光っていた。やがてその光は徐々に強まり、目を開いていられない程激しく発光し始めた。
「うわっ!?」
目を閉じていても、光が瞼を貫通して自己主張してくる。その中でも一際強い輝きを放った後、徐々に光が収まっていくのを感じた。目がチカチカするのを堪えながら、恐る恐る目を開いていく。
「ううっ、目がチカチカする・・・今の光はいったいなんだ・・・っ・・・たん・・・だ・・・」
目の前に『ソレ』は立っていた。 まず目を惹かれたのはその砂金のような、この世にこれ以上美しいモノなどないと断言出来る黄金の髪。可愛らしい目元に小さく引き結んだ唇。身長は僕より少し小さい程度で小柄と言えるだろうが、その体型の割には静かに自己主張している胸。輝くような白い肌。そして、仄かに香る甘い匂い・・・
そう、先程まで僕が一生懸命描いていたオリキャラ、自分の情熱や妄想全てを注ぎ込んだ僕の相棒。フランが、そこには静かに佇んでいた・・・
ここまで読んで下さり、本当にありがとうございました!第2話はついに、フランとの共同戦線が始まりますよ!第2話は明日の投稿を予定しております。