表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リーグアルティーナ ~異世界サッカーリーグ~  作者: 庵字
第1節 ズメウスブレス戦(アウェイ)
9/20

他会場では ~第1節 ズメウスブレス戦(アウェイ)Part8~

 ドワーフの里である山中。岩山ひとつを丸ごとくり抜いて建造された〈スヴァルトスタジアム〉でも試合終了の笛が鳴った。瞬間、この日先制点を挙げたドワーフチームの9番ヴォーイーは吠えた。

 試合は3対1で、ヴァンパイア代表チーム〈ノスフェラトゥ〉を見事下していた。


「……ふん、ドームを閉じて試合をしていれば〈真祖(しんそ)〉が試合に出られたものを」


 ノスフェラトゥの女性DF3番ブルンヒルダは忌々しそうに吐いた。

 スヴァルトスタジアムは開閉式のドーム天井を持つスタジアム。この日はドームを全解放し、燦々と陽光が降り注ぐ中での試合だった。


「おい、アーカード」


 試合後の握手を終え、いち早く控え室に捌けようとしたアーカードを、ノスフェラトゥのMF11番オルロックが呼び止めた。FW12番アーカードは無言のまま立ち止まり、振り向く。


「貴様、何回決定機を外した? あんなどぶドワーフども相手に一点しか挙げられないとは」

「まあまあ、オルロック」


 鋭い目で睨み返したアーカードとオルロックの間に、ノスフェラトゥDF14番ヘルシングが割って入った。


「フォアザチーム、だぜ」


 ヘルシングは丁寧に整えられた髭を生やした顔で、にこり、と笑う。が、アーカード、オルロックは、ともに鋭い視線で互いを睨み合うだけだった。


「ふん。ハーフとインフェクションで、仲の良いことだな。真祖が出られれば、お前らなど、どうせベンチ要員だ」


 言い残して歩き出したオルロックを、


「オルロックさん」


 アーカードが呼び止めた。振り返ったオルロックに、アーカードは、


「『どぶドワーフ』って、差別用語ですよ」


 ぷっ、とヘルシングが吹き出した。

 オルロックは、知るか、と吐き捨てると、「ハイホー! ハイホー!」と観客のドワーフたちの()(どき)が鳴り止まぬ中を歩き、控え室に向かった。



 ケンタウロス代表のホームスタジアム〈テッサリアスタジアム〉では、1対5と大敗したケンタウロス代表選手たちに、スタンドから容赦のない罵詈雑言が浴びせられていた。ケンタウロス族は特に気性の荒い種族として知られている。ホームで5失点を喫して負けたともなれば、この状態は必至だった。

 対して満面の笑みを浮かべているのは、アウェイチーム、ホムンクルス代表チームの監督パラケルスだった。パラケルスは、この試合ハットトリックを達成したFW10番エクスカリバーの肩を叩き、入道雲のような真っ白な髭を揺らしながら笑っていた。


(※ハットトリック:一試合でひとりで3得点挙げること)


「さすがだ、カリバー、やはりお前は私の最高傑作だ」


 パラケルスは嬉しそうな声を掛けるが、エクスカリバーは全くの無表情だった。エクスカリバーは瞳のない、真っ白な目を監督に向けて、


「私ひとりで取った得点ではありません。チームの勝利です。それに、グングニルとルーンも得点しました」


 そのグングニルとルーンは、他のメンバーと一緒にすでに控え室に戻っていた。

 パラケルスは「いいんだ、いいんだ」と言いながらエクスカリバーの手を取り、激しく振った。


「監督、もういいですか。私も早く仲間のところに行きたい」


 エクスカリバーが言うと、ようやくパラケルスは手を離して解放する。エクスカリバーは早足で控え室に向かった。無表情だったその顔に僅かに笑みが浮かんでいた。



 巨大な亀、アスピドケロンの甲羅の上に建造された、その名も〈アスピドケロンスタジアム〉では、ホームの人魚(マーマン)代表チーム〈トリトナメーア〉が、迎えたアウェイチーム、リザードマン代表〈ペルフェットスクアーマ〉相手に1対1のドローで試合を終えていた。

 試合後半、ペルフェットスクアーマDF5番ルルムにセットプレーから失点を喫したが、直後に同じくセットプレーからトリトナメーアMF7番ヴィヴィアンが同点ゴールを決め、追いついてのドローだった。

 ヴィヴィアンはチームメイトとともに、ピッチ外周に掘られた海水で満たされた堀を泳ぎながら、同じように水が湛えられた観客席からの声援に応えていた。試合中は二本の脚に変化させていた下半身を人魚本来のそれに戻し、悠々と泳いでいる。

 下半身先端の尾びれを水面から出したヴィヴィアンは、


「あーあ、この姿で水中で試合出来れば、私たち連戦連勝よね、きっと。脚のままでいるのって結構窮屈だし」

「仕方ないわよ」


 と、キャプテンであるFW10番のローレライが近づいてきて、


「私たちは地上に上がれるけど、他の種族には水の中に入られないんだもの。優位種族の私たちマーマンがあいつらに合わせてあげなきゃ」


 ピッチ上から引き上げつつあるリザードマン選手らを見ながら言った。


「私、あいつらキライ!」


 ヴィヴィアンは頬を膨らませて、


「試合中、何回も変な目で見られてた。スケベ! あ、ほら! また見てる!」


 ヴィヴィアンが指をさした方向では、この日は無得点に終わったリザードマン代表エースのFW10番リーパーが、鱗に囲まれた黒い目をヴィヴィアンに向けていた。


「……魚、うまそうだな」


 呟いたリーパーは、他のリザードマン選手に腕を取られて控え室に戻った。



 ゴブリンの国。ホームスタジアムである、〈バスラルスタジアム〉の試合は、アウェイの巨人(ジャイアント)代表チーム、〈ヘカトンケイルス〉が虎の子の1点を守りきり、ホームのゴブリン代表チーム〈バルバールサル〉を下していた。


「早く帰ろうぜ。俺はこのスタジアムが一番嫌いだ。臭くて仕方ねぇ」


 アウェイスタジアムまで駆けつけてくれたサポーターに挨拶をしたあと、得点を決めたMF6番エンキドゥは顔を歪ませた。スタンドでは、巨人族のサポーターも早々に帰り支度を始めている。

 平均身長四メートルに届こうかという巨人族の選手たちは、ピッチを出るゲートをくぐる際に大きく体を屈めなければならない。


「へっ、木偶の坊が」


 ゴブリン代表チームの10番フェーは、ピッチをあとにする巨人代表選手たちの背中を睨み付けた。


「その木偶の坊から1点も取れなかったのは、どこのどいつだ!」


 監督のポルキュスは大きな鼻と弛んだ頬を揺らし、真っ赤になって叫ぶ。


「あんま怒んなよ監督。豚の丸茹でになるぜ」

「何だその態度は! これだからゴブリンどもは!」


 ゴブリン代表チームは、ゴブリンの他にオーク、コボルトを加えた混合種族で結成されたチーム。〈闇の眷属(けんぞく)〉と称され、過去の戦争で人間、エルフらと激しい戦争を繰り広げたゴブリン、オーク、コボルトの三種族は、戦争の中でいつしか、ひとつのまとまりとしたグループを形成していた。音頭を取ったのは最大人口を誇るゴブリン族だったが、代表チーム監督は、オーク族の英雄ポルキュスが務めることで満場の一致を見ていた。代表選手も、ゴブリン、オーク、コボルトそれぞれの種族が入り交じっている。


「フェー、飲みに行こうぜ」


 コボルト族のDF3番バグベアがフェーに声を掛けた。フェーは、ああ、と答えると、真っ赤な顔をしたポルキュスをよそに、バグベアと肩を並べて歩いて行った。

 ポルキュスの説教の矛先は、たまたま横を通りかかったFW9番オーク族のブルベガーに向いた。

 過去の戦争においてオーク族がゴブリン、コボルトと比較していかに勇ましかったかについて、ポルキュスは延々と語っていた。



 エルフの森の中にそびえる美しい白亜の競技場、〈アーマンスタジアム〉でも試合終了を告げる笛が鳴った。

 エルフ代表チーム〈クウェンディアーブル〉は、開幕戦でダークエルフ代表チーム〈アスワドナール〉をホームに迎えた。いきなりの〈エルフダービー〉となった開幕戦に、四万人を越える観客は熱狂した。


(※ダービー:サッカーの試合では、同一地域にあるチーム同士の試合は、○○ダービー、と称され、通常の試合以上に盛り上がりを見せる。ダービーは地域だけでなく、共通するパーソナルを持つチーム同士の対戦でも用いられる。チームカラーがオレンジ色同士のチームの試合を、オレンジダービーと称するなど)


 試合は1対1のドローに終わっていた。

 前半、クウェンディアーブルの司令塔MF10番ディードリーが先制し、アスワドナールのエースFW11番アルシオーネが後半に1点を挙げて追いつくという結果だった。


 試合後の控え室にスタッフのエルフの少女が入室し、


「アージャスレプリゼントが引き分けたそうです」


 と告げた。


「引き分けた、って、相手は確かズメウスだろ?」

「しかも、異世界から召還したアージャスのチームは、キックオフ直前にやっとスタジアム入りしたそうじゃないか」

「異世界から来た人間……何者なんだ?」


 控え室のそこかしこで雑談が成された。


「……しかも、試合終了直前に2点を挙げて追いついたそうです」


 少女が試合の得点経過を告げると、おお、というどよめきが起こった。

 10番のユニフォームを着たディードリーは、雑談に参加するでなく、黙ってそれを聞いていた。


「面白くなってきたじゃない。ねえ、ディード」


 FW11番ローラナが話しかけて笑うと、ディードリーは、


「そうね。確か次は私たちとやるのよね」

「ええ、あいつらのホームに乗り込んでね」

「ふふ、楽しみね」


 ディードリーは含み笑いをすると、長く煌びやかな金髪をかき上げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ