試合終了、そして ~第1節 ズメウスブレス戦(アウェイ)Part7~
「むかーい! 行ってくれると信じてたぜ!」
「てめー! このやろー!」
武戒は背中から柊、正面から生田、それぞれ走ってきた二人にプレスされ、
「うぼぉっほ!」
と異様な声を上げた。
ファブニルがボールをセンターマークに向かって蹴り、ドラコがそのボールをセットすると、主審は笛の音を三階鳴らして腕を上げる。試合終了の合図だった。
引き分けにも関わらず、両チーム選手の様子は対照的だった。呆然と立ち尽くすズメウスブレス選手に対して、アージャスレプリゼントことU-21日本代表選手たちは抱き合って喜びを露わにしていた。
地響きのような歓声をこだまさせていたスタンドも、武戒の同点弾が入った瞬間から、打って変わり静まりかえっていた。
ズメウスブレス監督スマウグはベンチから立ち上がり、テクニカルエリアに立っている明智川に向かって行く。それに気付いた明智川も歩み寄り、センターライン付近で両者は対した。
「……やるね」
「どうも」
スマウグと明智川は握手と短い言葉を交わすと、手を解いてそれぞれのベンチに戻った。
両チームの選手はピッチ中央に整列すると、キックオフの際と同じように歩きながら握手を交わしていった。
引き上げる武戒を、
「14番!」
と、ドラコが呼び止めた。武戒が振り返ると、
「やられたよ」
ドラコは笑った。終始鋭かった目は若干緩んでいた。
「やられたのはこっちさ。凄いものを見せてもらった」
「フフ、まだまだ、俺たちのようなチームがたくさんいるぞ」
「もう何が出てきても驚かない。むしろ楽しみだよ」
武戒はドラコが差し出した手を改めて握り返した。
「10番の坊や」
スロルグは柊に声を掛ける。柊が振り向くと、
「凄いキックだったわね。惚れたわ」
と片目をつむった。
「え? え……?」
疲労で上気した以上に顔を赤くした柊を残して、スロルグは手を振って控え室に戻った。
「おい、あれ」
ベンチに戻る途中、天野はスタンドの一角を指さして立ち止まった。他の選手たちも目をやる。
「あ? あれって……」
「人間……ですよね?」
武戒と柊も、その方向を見た。
そこには、竜人たちで占められたスタンドにぽっかりと穴が開いたように、十数人の人間の姿があった。皆、一様に笑顔で武戒たちに手を振っている。
「全然気付かなかったな。俺たちのサポーターだ」
「悪ーことしたな。挨拶に行こうぜ」
柳塚と生田が言うと、選手全員が十数名の人間が座るスタンド席に向かって駆け出した。
「ほとんどの人間はもう、過去全大会で連戦連敗に終わったアージャスレプリゼントに全く期待をしてくれていませんが、中にはああいった奇特なファンの方もいるのです」
ゼップもそのスタンドを見ながら、同じように視線を向けている明智川に言った。
「今度の大会は期待してくれていいですよ。ゼップさん、次の相手はどんなやつですか?」
明智川は、スタンドに向かって手を振る武戒たちを見て、微笑みながら力強く口にした。