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リーグアルティーナ ~異世界サッカーリーグ~  作者: 庵字
第1節 ズメウスブレス戦(アウェイ)
3/20

驚異の異世界サッカー ~第1節 ズメウスブレス戦(アウェイ)Part2~

 ウォーミンングアップ時間が終わり、選手は監督とともに一旦控え室に戻った。

 全員を前に、監督明智川(あけちがわ)は、


「先ほど一緒にいた男性、ゼップさんから聞いた。今日の相手の竜人チームは、過去二大会を連覇しているチームだそうだ」


 選手の間からどよめきが起こったが、それはすぐに収まった。明智川はさらに、


「そんな相手が、ファイブトップなんていうふざけた布陣を敷いてきている。これがどういうことか分かるか?」

「相手は、それに絶対的な自信を持っている、ということです」


 (ひいらぎ)が答えると、明智川は頷いて、


「そういうことだ。いいか、今回はスカウティングもクソもない、いきなりの本番だ。作戦はいつも通りで行くが、相手の出方に合わせて随時お前たちで修正しろ。だが、絶対にブレるなよ!」


 選手全員は「はい!」と大きな声で答えた。


「柊、頼むぞ」


 明智川はチームの司令塔、柊に声を掛け、柊も表情を引き締めてしっかりと頷いた。


「よし! 行ってこい!」


 明智川の声で、選手らは次々に控え室を出て行った。

 最後にドアをくぐろうとしたセンターバックの生田(いくた)が、


「アッコさん、女があんまり、『クソ』とか言わないほうがいいぜ」

「うるさい! 集中しろ!」


 明智川は生田の臀部を蹴り上げた。



 ピッチのタッチライン(ピッチを囲う四角の長辺のライン)近くに両チームの選手が並んだ。その間には、石膏で出来た彫像のような無表情な人間が四人立っている。


「彼らが審判ですか?」


 ベンチで明智川がゼップに訊いた。


「そうです。彼らは神が使わした使者。人間ではありません。彼らのレフェリングは決して間違うことはありません」

「四人ということは、主審と二人の副審、第四の審判ということですか。我々のサッカーと同じですね」


 明智川は、その無表情な審判団の顔を見て呟いた。


 その四人の審判のうち主審が、手振りで両チームに握手を促す。アウェイチームの武戒(むかい)たち、アージャスレプリゼント側が一列になって歩き、対戦相手、ズメウスブレスの選手たちと握手を交わしていく。

 竜人の選手は誰も長身だった。一番低いFWの一角を担うスロルグでも、百八十センチに届くかといったところ。しかも、スロルグは他の選手に比べて体つきが細く腰はくびれ両胸が突起している。顔の作りを見ても明らかに女性だった。


「よろしくね」


 スロルグは、透き通るような青白い肌に開く桜色の唇より声を漏らしながら、アージャスレプリゼントの選手らと握手を交わしていく。


「よろしくな」


 10番ドラコも握手と同時に声を掛けていた。柔らかなその言葉に似合わず、やはり視線は鋭いままだった。ドラコは竜人メンバーの中で二番目に背が低い。とはいえ、それでもその身長は百八十強。人間を基準に見れば十分な長身といえた。

 アージャスレプリゼントの中では、百八十八センチを誇るセンターバックの生田が最長身の選手だった。


「くそ、俺より低いのが二人しかいねえ。こんなチームとやるのは初めてだぜ」


 握手を終えた生田はぼやいた。


「頼みますよ、生田さん」

「おお、任せとけって」


 柊に声を掛けられ、生田は表情を和らげて身長百六十五センチの柊の頭を撫でた。

 生田の年齢は二十八歳、オーバーエイジ枠で加わっている選手だった。


(※オーバーエイジ枠:オリンピック本戦に望むU-23代表メンバーには、三人まで規定の年齢以上の選手を入れることが出来る。これをオーバーエイジ枠という。本来であればオーバーエイジ枠が適用されるのはオリンピック本戦メンバーのみだが、本作では独自設定として、その二年前のU-21代表にもオーバーエイジ枠が適用されているという設定とした)


 柊は生田の手をそっと払って、


「生田さん、頭撫でるのやめてくださいよ……」

「はは、いいじゃねえか。こっちこそ頼むぜ、司令塔」


 生田は笑って、さらに柊の頭を撫でた。


「もう……」


 柊は今度こそ生田の手を振り払うと、


「武戒!」


 と14番のユニフォームを着る武戒の名を呼んだ。呼ばれた武戒は柊のそばに寄っていき、二人は右手同士をパチンと打ち鳴らした。二人はU-21より下の世代の代表からメンバー入りしていた同期で、これはいつの間にか二人の間で交わされるようになっていた試合前の決まり儀式のようなものだった。


 キャプテン柳塚(やなぎづか)の声に集まり、メンバーは自陣で円陣を組む。十一の顔が円陣の中に並び、柳塚が、


「今日は生田さん、お願いします」


 柳塚から指名を受けた生田は、


「よっしゃ。……何か気の利いたことを言おうと思ったが、特に何も浮かばねぇ。アッコさんの言った通りだ。ブレんなよ。行くぞおめーら!」

「はい!」


 一斉に返事をすると十一人は円陣を解き、ダッシュで自らのポジションについた。

 武戒たちが円陣を組んでいる間に、ズメウスブレスはすでに各ポジションに立っていた。


 センターサークルに置かれたボールのそばにFWの天野(あまの)倉光(くらみつ)が立つ。目の前には、竜人のFW五人が並び、中央のドラコだけが若干前に出張っている。



ズメウスブレス布陣


FW 7ドレイク 9バアン 10ドラコ 17スロルグ 11ヴルム

MF      14ラドン    8ニーズヘッグ

DF     2ロボロス 4イルル 5ハムート

GK          1ファブニル


控え

GK 18タラスク

DF 3ヴィヴル

DF 6ダハーカ

MF 12オロ

MF 13マハル

MF 16アマトー

FW 15ハッシュ



アージャスレプリゼント布陣


FW      9倉光 11天野

MF 5根木島 6柳塚 14武戒  10柊

DF 3弓   4生田 2木住野 15梶江

GK       1源馬


控え

GK 18刑部

DF 12鄕原

DF 16竹之井

MF 8沖

FW 7菅生

FW 13菊本

FW 17片桐



 主審の笛が鳴り、キックオフが宣言された。


 天野が自陣側に軽く蹴ったボールをボランチの一角である武戒が受け取る。

 天野と倉光はそのまま敵陣に走り、武戒は首を振って右サイドの柊、左サイドの根木島(ねぎしま)の位置を確認する。


 相手は中央のドラコは動かず、その両側のFW、バアンとスロルグが武戒にプレスを仕掛けてきた。

 武戒はボールをボランチでコンビを組む柳塚に預け、相手プレスをかわしつつ同時に前線へ走り出す。柳塚からはワンタッチでボールが返ってきた。再びボールを受けた武戒の前に残っていたドラコが立ちはだかる。

 武戒は足の裏でボールを保持しながら、ドラコの体の動きを窺う。

 ドラコは両脚を大きく開き、若干膝を曲げ姿勢を低くしている。その体は微妙に左右に揺れ、武戒が両脇を抜いて仕掛けるドリブルに対応するかのような体勢を取っていた。

 武戒はボールを蹴った。そのボールの行き先は、ドラコの両脚の間に空いた空間だった。同時に武戒はドラコの右側を走り抜ける。


「股抜き!」

「あれだけ空いてりゃあな……」


 柊と生田が口にした。

 その間に武戒はドラコの後ろに抜けたが、


「ううっ!」


 武戒の足が止まった。ドラコの股の間を抜けたボールは、しかし、武戒が想定した位置に転がる前に、ドラコの尻尾により絡み取られていた。

 ドラコは一瞬武戒を見て口角を上げると、尻尾の先でボールを前方に弾き、ドリブルに移行する。


「くそ!」


 武戒もすぐにドラコを追う。

 ドラコがドリブルを始めると同時に、他の四人のFWも前線に走り出していた。


「やらせっかよ!」


 ドラコの前にセンターバックの生田が立ちはだかったが、ドラコは生田と一対一になる前にボールを右に蹴り出した。

 女性FWのスロルグがそのパスを受ける。スロルグには左サイドバックの(ゆみ)が対応したが、そのマークを惑わすように、最右翼のFWヴルムがスロルグと併走していた。

 左サイドハーフの根木島が弓のサポートのため自陣に戻る。スロルグを弓と根木島が挟み込む形となったが、スロルグは絶妙なタイミングでボールをヴルムに預けた。ボールをほぼゴールラインまで運んだヴルムは、ゴール前にクロスを上げた。

 ペナルティエリアには、GK源馬(げんま)、センターバックの生田と木住野(きしの)に右サイドバックの梶江(かじえ)を加えた四人が、攻め込んでくるドラコ、バアン、ドレイク、三人の敵FWの相手をしていた。

 ヴルムが蹴り込んだボールはドラコに合わせられた。そのドラコのマークに付いているのは生田だ。


「こいつなら、高さで負けねぇ……」


 ドラコとほぼ同身長の生田は、激しく体をぶつけ合いながらボールの落下位置に入る。

 ドラコが跳んだ。それを追って生田も跳ぶ。ジャンプ力だけなら生田は勝っていた。ドラコの頭よりも生田の頭頂部のほうが数センチ上に出る。


「このまま跳ね返す!」

「フッ」


 ドラコは笑うと、畳まれていた背中の羽を広げ、ばさり、と音を立てて羽ばたかせる。


「何だとぉ!」


 生田が叫ぶ間に、そのひと羽ばたきでドラコはさらに数十センチ上昇した。当然、先にボールに触れたのはドラコの頭だった。

 ドラコのヘディングから放たれたシュートは完全にGK源馬の虚を突いた。体を投げ出して手を伸ばすも遅く、ボールは源馬の背後に張られたネットに突き刺さる。


「ゴォォォォォォーーール!!!」


 場内アナウンスが絶叫し、観客は大歓声を上げた。

 ドラコは片手を上げ、ゴール裏にひしめき合う観客の声援に応える。その周囲にクロスを上げたヴルムを始め、スロルグ、バアンも駆け寄る。


「只今のゴールは、1分。ズメウスブレス10番、ドラコ選手のゴールでした!!!」


 コール記録を伝えるアナウンスに、もう一度スタンドは湧いた。


 源馬、生田、木住野は呆然とした表情で、チームメイトから、観客から祝福されるドラコの背中を見つめる。二枚の羽は雄々しく広げられていた。

 ペナルティエリア付近で、武戒は柊と目を合わせた。


「こ、こんなの、ありかよ……」


 武戒が呟いた。柊は、それに答えるでなく、悲壮な顔で武戒を見つめ返すだけだった。


 明智川はベンチでその様子を見つめていた。腕を組み、硬い表情を顔に貼り付かせたまま。 

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