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リーグアルティーナ ~異世界サッカーリーグ~  作者: 庵字
第2節 クウェンディアーブル戦(ホーム)
17/20

エルフの門を開けろ! ~第2節 クウェンディアーブル戦(ホーム)Part4~

 エルフチーム、クウェンディアーブルも二人の選手を代えてきた。4番MFアリオネに代えて、13番FWバルテュス。7番MFルビンに代えて、16番MFグレースを入れてきた。

 両チームとも二人の選手を入れ替え、フォーメーションの変更はなし。


クウェンディアーブル布陣


FW 14レイナー 12ローラナ 9ラゴラス

MF 13バルテュス 10ディードリー 16グレース

DF 11ソフィー 2ヤール 3ドール 6リオーネ

GK       1イザベル


アージャスレプリゼント布陣


FW      13菊本 11天野

MF 5根木島 6柳塚 14武戒  10柊

DF 12郷原  4生田 2木住野 15梶江

GK       1源馬


 後半はエルフチーム、クウェンディアーブルのキックオフで試合は再開。

 FW12番ローラナ、9番ラゴラス、14番レイナーのスリートップにMF10番ディードリーを加えた四人で、クウェンディアーブルは攻撃に出る。

 ボールを保持したローラナがドリブルで攻め入り、センターバック生田(いくた)と対峙した。


「ふん、どうせ引きこもってカウンター狙いだろうが。お望み通り攻めてやるから、さっさとそのボール寄越しな」


 二メートルほどの距離を置いて、生田がローラナに話し掛ける。


「私たちのやり方がお気に召さないのか? 坊や」

「誰が坊やだ! どう見てもいいとこ同年代だろうが!」

「ふふ……坊やはこういうのが好きなんだろ? ――レイナー!」


 叫ぶと同時にローラナはボールを自分の左、レイナーに向かって蹴り出し、自らは生田の右を抜けた。大きく迂回するように回り込んだため、生田はローラナを捕まえることは出来なかった。

 ボールを受けた小柄な若い男性エルフであるFWレイナーは、止まったままボールをワンタッチで攻撃方向に出す。生田が脚を伸ばすも僅かに触れられず、ボールはローラナに渡った。

 ローラナはそのままゴールに攻め込むかと、守備陣の誰もが思ったが、ローラナはボールをもう一度走り込んだレイナーに渡す。レイナーには右サイドバックの梶江(かじえ)が付いたが、レイナーは小さい体を滑り込ませるように梶江の脇を抜ける。


「打つか?」

「いや! クロスだ!」


 センターバック木住野(きしの)はシュートを警戒してコースを切ったが、GK源馬(げんま)の判断が正しかった。レイナーは浮き球のクロスをゴール前に放り込んだ。

 ラゴラスが郷原(ごうはら)柳塚(やなぎづか)を引きつけている間に、ディードリーがペナルティエリアに侵入してピッチを蹴った。

 そこではないだろう、と誰もが思った位置でディードリーは跳んだ。彼女には風が運ぶボールの位置が分かっていた。とんっ、とボールは軽くディードリーの白磁のような額に当たり、ゴールポストとクロスバーの内側に向かって空中を転がる。

 だがボールはラインを超えなかった。飛び上がった源馬が手を伸ばし、かろうじてボールを弾いたのだった。ボールはクロスバーの上を越えピッチの外に放り出される。

 源馬が体側面から鈍い音をさせて落下したのに対し、ディードリーはふわりと音も立てずに、見えない階段を下りるかのように着地した。広がった金髪がユニフォームに覆い被さった。


「ナイスセーブだ、源馬!」


 生田が源馬の好セービングを讃えながら近づいていった。


「……やるわね」


 ディードリーは倒れたままの源馬に手を差し伸べたが、源馬は即座に自分で立ち上がった。ディードリーは、ふふ、と笑みを漏らすと、コーナーキックに供えてポジション取りに入った。

 コーナーにセットされたボールの前には、FW9番のラゴラスが立った。ペナルティエリア内にエルフの選手はローラナ、レイナー、ディードリーの三人しか入らず。残りの選手はハーフウェイラインより自陣側でずっと待機している。


「セットプレイでもこれしか出て来ないとは……徹底しているな」


 キャプテン柳塚は相手ゴール側に目をやってから守備位置に入った。アージャスレプリゼント側からは、カウンター要員として右サイドバック(ひいらぎ)とFW菊本(きくもと)の二人だけをピッチ中央に置き、残り九人で守備に入る。九対三。数の上では圧倒的だが、選手たちは当然ディードリーの能力を知っているため、一切の余裕は見られない。

 ラゴラスが手を上げ、短い助走をつけてボールを蹴った。

 アージャスレプリゼントの選手はボールの軌道とディードリーの挙動、両方に目を配り蹴り込まれたボールを待ち構える。


「レイナー!」


 ディードリーが叫んだ。FWレイナーはその声にペナルティエリアを抜け、ペナルティアーク(ペナルティエリア前方に書かれた半円状の線)付近に移動する。武戒(むかい)と郷原、二人にマークに付かれていたのだが、その小柄な体で、縫うように二人のマークを振り切っていた。


「そっちに行くか?」


 生田が叫んだ。ボールの軌道はどう見てもそこまで到達するとは思えなかったが、マークに付いていた武戒、郷原に加え、ローラナとディードリーのマークからも柳塚と梶江が離れてレイナーを追った。


「フェイクだ!」


 柳塚がディードリーの狙いに気付いた。ボールはごく当たり前の軌道を描き、ゴール前に到達しようとしている。

 ひとりが離れたが、尚も自分には根木島(ねぎしま)木住野(きしの)、二人のマークが付いている。が、ディードリーは風に乗るかのように屈強な男性二人のマークを剥がして、跳んだ。

 今度はディードリーは側頭部にボールを当てた。撥ねたボールはまたも枠内を捕らえる。が、今度も源馬はボールに飛びつき、ラインを割ることは死守した。飛びついた勢いで源馬はコーナーポストにしたたか脇腹を打ち付けた。


「大丈夫?」


 ディードリーは屈み込んで源馬を気遣った。チームメイトも駆け寄って源馬に声を掛ける。柳塚が担架を要求しようとしたが、


「行ける。大丈夫だ……」


 またも源馬はひとりで起き上がった。チームメイトに、ディードリーの顔にも安堵の表情が浮かんだ。

 ローラナは近くにいた生田に、


「坊やのところのキーパー、やるな。頑丈さはドワーフ並みだね」


 生田はローラナを向いて、


「んだよ『どわあふ』って? それにお前、いい加減、坊やって呼ぶのやめろよな! そう言うおめーはいくつなんだよ? ええ?」

「二百二十三だ」

「……はあ?」


 唖然とした顔の生田を残し、ローラナは笑いながら自陣に戻った。



 試合展開はその後も一進一退、いや、人間チーム、アージャスレプリゼントの三進一退、という具合の攻防が続いた。エルフチームクウェンディアーブルが積極的に攻め込むのは、カウンターのチャンスを得られた場合のみ。その攻めも、GK源馬を始めとした守備陣の奮闘で何とか防いでいた。

 攻撃に至っては、ほぼノーチャンス。シュートこそ三本放ちはしたが、そのいずれも相手DFやGKに阻まれ続けていた。

 試合時間は残り三分に差し掛かった。


「そろそろか……」


 武戒はボールを保持しつつ、ハーフタイムでの監督の指示を思い返した。



「いいかみんな、聞いてくれ……」


 監督|明智川は後半の戦術を指示した。


「まず、ファウルは犯さず、相手にも犯させるな。試合が止まるような行動は極力避けろ」

「どういうことですか?」


 柳塚が訊いた。


「後半はアディショナルタイムをゼロにしたい。アディショナルタイムは時計が止まって、主審の裁量で時間が決まるからな。ピッチ上のお前たちには、試合残り時間を時計通りに正確に把握しておいてもらいたいんだ。だから、傷んでもなるべくすぐに立ち上がれ。もちろん、どうしても駄目だという場合は素直に申し出ろ。体のほうが大事だからな。で、だ。これは相手も同じ考えでいるだろう。最後の最後の一発で試合を決めたいのであれば、残り時間を正確に把握するという作業は必須だからだ。恐らく、試合終了五分、いや、三分前くらいに相手は勝負に出てくるだろう」

「それまでの堅守を解き、一斉に仕掛けてくるというわけですか」


 柳塚の言葉に明智川は頷いて、


「それを封じるんだ。試合時間が残り三分になる直前、お前たちは攻めつつマンツーマンで相手選手をマークしろ」

「攻めつつマーク?」

「そうだ。相手選手を全員、相手陣内に釘付けにするんだ。対人に強い菊本と郷原を入れるのもそのためだ。ボールのキープは武戒、お前がやれ。お前が一番ボールの扱いに長けている」

「はい」


 武戒が返事をした。明智川は続けて、


「そうなったら相手が取ってくる行動は二つにひとつ。まず、是が非でも得点して勝ち点3を取りに来るか、ここまで来たら勝ち点1を持ち帰ることを優先するか。後者の判断をした場合、お前たちが釘付けにするまでもなく、相手選手は自陣にどっしりと構えて門に鍵を掛けるだろう。そうなったら、こちらも門を破ることは難しい。勝ち点1を分け合う結果になるかもしれない。だが、私は攻めてくると思う。さっきも言ったが、連中は初戦をホームで引き分けている。ここでは勝ちにくるはずだ。それに後半終了間際ともなれば、柊の言葉じゃないが、まともにやってもいける、と思い始める頃合いだと思う。そうなると、相手はどう行動してくるか」

「どうなるんです?」

「考えろ武戒。と言いたいところだが、もう時間がないな。いいか、相手陣内にいるということは、相手のほうがひとり多いってことだ」

「あ、キーパー」

「そうだ武戒。相手は数的優位を生かしてボールを取ろうとしてくるはずだ。ボールを保持してる武戒、お前に複数人のプレスを掛けてボールを奪いにくるはずだ」

「他のフィールドプレーヤーは全員俺たちがマークしているから、キーパーが行かざるを得ない?」

「そういうことだ。そうなったら当然、相手ゴールはがら空きになる。そこを……」



 スタンドが沸いた。アージャスレプリゼントの選手は、GK以外全員が敵陣に入り込み、マンツーマンでエルフチームのフィールドプレーヤー各人のマークに付いた。十の一対一が敵陣内で繰り広げられる。


「くそ、武戒には、よりによって……」


 自分は右サイドハーフのグレースに対しながら、柳塚は暗澹たる声を漏らした。武戒にはなるべく対人に弱い相手を付けさせて、ボール保持を楽にしてやりたかったのだが、その武戒に付いたのは10番ディードリーだった。

 ディードリーは相手選手の動きから、いち早く危険な兆候を察知し、マークが付き揃う前に自らボールを持つ武戒に当たっていったのだった。


「何を考えているの?」


 ディードリーは武戒と競り合いながら問うが、武戒は返答しない。ディードリーの長い脚を振り切ってボールを保持することで精一杯で、とてもそんな余裕はなかった。


「ディード――!」

「おっと!」


 スコアボードの時計を見て、ディードリーの加勢に向かおうとしたローラナだったが、生田のマークに阻まれた。


「坊や、どいてよ!」

「ここは行かせられないぜ、大先輩」


 ローラナは苛立ちを隠さない声を放つ。生田は飄々とした声で返したが、彼自身にも余裕はなく、精々の強がりだった。

 第四審がボードを掲げる。予想通り、アディショナルタイムの表示はゼロ分。時計が九十分を指したら即座に試合が終わるわけではないが、残り時間の計算はしやすい。


 巧みなシザーズフェイントで武戒はディードリーの脚を躱し続ける。


「うわっ! 危ね!」


 デイードリーのつま先が掠り、ボールが武戒のエリアから逸脱しかけた。武戒は足の甲で掬うようにボールを動かし、かろうじて保持を続ける。横目で時計を見る。

 試合時間が残り一分を切っても、エルフチームのGK1番イザベルは動いてこなかった。ペナルティエリアに構え、十箇所で鎬を削っている一対一を見守っている。

 ベンチの明智川の頬に汗が流れた。


「ドロー狙いなのか……」


 明智川はアウェイベンチに座るエルフ監督、オルウェンの横顔を窺い見た。向こうも顔を向け、両者は目が合う。「ドローでも致し方なし」そういう表情がオルウェンの顔に張り付いていた。

 明智川はスタンドを見回した。試合中に比べて空席が目立つ。すでに席を立った観客も多いのだろう。帰り支度を始めている観客の姿も目立つ。



(武戒……!)


 柊が声に出さずとも、アイコンタクトで武戒に告げた。柊は自身がマークしているDF2番ヤールを引きつけ、ゴール前に空間を作った。武戒はそれに気が付いた。

 ボールが蹴り出された。武戒が空いたゴール前にボールを蹴り込んだのだ。だが、低い放物線を描くそのボールに勢いはなく、とてもシュートと呼べるような一打ではなかった。エルフ陣内にいる全員の視線がボールに集まった。ボールはペナルティエリアに差し掛かった辺りに落下した。

 GKイザベルはボールを拾いに走る。ペナルティエリア内のボールは当然GKは手で触れることが可能だ。イザベルは飛びついたが、その掌中にボールを掴むことは出来なかった。ピッチに落ちると同時に、ボールはイザベルから逃げるように転がった。武戒の蹴り込んだボールには強烈なバックスピンが掛かっていたのだ。


 スタンドが沸いた。自分の足下に戻ってきたボールを武戒が自陣に向けて蹴り込んだが、観客が沸いたのはそのせいだけではなかった。ハーフウェイライン目がけて猛烈に走り込んで来る選手がいた。このピッチ内でそれが出来る選手はただのひとりしかいない。アージャスレプリゼントGK源馬だった。


「止めて!」


 ディードリーは敵の狙いを察し、声を張り上げた。武戒からのボールを足下でぴたりと合わせた源馬は、ハーフウェイライン上で右脚を振り抜いた。

 イザベルは起き上がってゴールに戻るが、どんなに俊足のGKも、蹴り飛んでくるボールの速度に追いつくはずがない。

 ボールは大きな放物線をピッチの上に描いて、ゴールネットに突き刺さった。

 アナウンサーの絶叫と試合終了を告げる主審の笛の音は、スタンドの大歓声にかき消された。 

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