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リーグアルティーナ ~異世界サッカーリーグ~  作者: 庵字
第2節 クウェンディアーブル戦(ホーム)
16/20

ハーフタイムにて ~第2節 クウェンディアーブル戦(ホーム)Part3~

 ハーフタイムの控え室は、ピッチ上の閉塞感をそのまま持ち込んだかのような空気に満ちていた。


「まんまと術中に嵌っているぞ、お前ら」


 明智川(あけちがわ)の声が選手たちに浴びせられた。その言葉に反論するものは誰もいなかった。ピッチで実際に戦っている彼らが一番よく分かっていたためだろう。


「くそ! とんでもねぇドン引きしやがって! ああいうのを、アンチフットボールって言うんだぜ!」


 |生田が吠えた。


(※アンチフットボール:自陣に引きこもってひたすらカウンター狙いの戦術に対する皮肉の言い回し)


「でも」と、柊が、「あいつら、普通に上手いですよ。前節戦った竜人みたいに尻尾も羽もないから、余計にそう感じる。まともに正面からやり合っても、結構いいところ行くんじゃないですか? いや、いいところ行くなんてものじゃない。はっきり言って危ないですよ。まともにかかってこられたら」

「あの10番もやっかいだしな」


 武戒が付け加えた。それを聞いた生田は、


「あの姉ちゃん、風を読むって、とんでもねえやつだな。見た目あんなでも、やっぱ人間じゃねえな。お前ら、後半はもっとガツガツ行こうぜ。もっと積極的にシュートをだな……」

「下手にそんなことしたら、あっさりとカウンターの餌食になっちゃいますよ」

「そして、もし先制点を取られようものなら、さらに深く引きこもられて終わり……」


 ツートップの天野(あまの)倉光(くらみつ)が言った。


「何だ何だお前ら。そんな弱気で勝てるわけねーだろが! 男なら一発ぶち込んでみろ! あの金髪の姉ちゃんに、どでかい一発をだな……」


 そこまで言った生田は、きょろきょろと控え室を見回し、明智川に眼鏡越しに強烈な視線を刺され、すごすごとベンチに座った。


「生田、お前は風じゃなくて空気を読め」


 明智川のひと言に選手たちは笑った。「うるせー!」と生田は真っ赤な顔で怒鳴る。

 監督、と左サイドバックの(ゆみ)は顔を向け、


「どうしてあいつらは、あんなに徹底してカウンターにこだわるんでしょう? 柊が言ったみたいに、まともにやってもこっちはやばいっていうのに」

「……菊本(きくもと)、どう思う」


 明智川は控えのオーバーエイジ枠選手、菊本に振った。菊本は、そうですね、と少し黙考してから、


「ベンチで見ていた限り、相手もこちらの戦力を計りかねているような印象を受けました。ましてやアウェイ戦。下手に勝負に出る博打を犯すよりも、手堅い戦術を選んだのでは?」


 と答えると、明智川は、


「そうだな。私もそう思う。それに加えて、さっき柊が言ったことは、あくまでこっちの主観だ。恐らく、同じことを向こうも思っている」

「俺たちとまともにやりあったらやばい、って?」


 武戒が訊くと、明智川は頷いて、


「そうだ。前節の結果は当然向こうだって知っている。いきなりぽっと出の、異世界から来た馬の骨が、三連覇した竜人チーム相手にアウェイでドローに持ち込んだ。この世界にはビデオみたいなものはないから、彼らが試合の様子を見ることは出来ない。後半試合終了間際に追いついたと聞いて、彼らは私たちを、差し馬タイプのチームだと見ているんじゃないか? 差し馬って知ってるか? 競馬で、レース途中までは中位集団に混じっているが、ゴール間際になると猛然とスパートを掛けてトップを抜き去る馬のことだ。知ってたか? 木住野(きしの)

「ええ、知ってます」

「馬脚を現したな木住野。お前まだ十九だろ。馬券を買えるのは二十歳になってからだ。お前、元の世界に帰ったら逮捕されるぞ」

「一般的な知識ですって! ――違! 買ってない! 本当に買ってないって!」


 必要以上に慌てふためく木住野を見て選手たちは笑う。笑い声を収めて明智川は、


「だから、彼らは下手に先制点を取るつもりはないのだと思う。変な時間に先制点を取ったら、お前たちの闘志に火が付き、すぐに同点、さらには逆転されてしまうことを恐れている」

「じゃあ、あいつらの狙いは、あくまでスコアレスドロー?」


 武戒の言葉に首を横に振って明智川は、


「いや、そこまで消極的じゃないだろう。下手に先制点を取りたくないってことは、上手くなら先制点を取りたいってことだ。何てったって、得点しなきゃ勝てないんだからな。エルフチームは前節ドローだったと聞く。なら、アウェイだとしたってなおさら勝利が、勝ち点3が喉から手が出るほど欲しいはずだ」

「上手い先制点、って?」

「追いつかれる心配のない先制点ってことさ。つまり、試合終了間際の得点」

「最初からウノゼロ狙いってことですか?」


 武戒が言うと、明智川は大きく頷いた。


(※ウノゼロ:1対0で勝負が決する試合のこと。守備に重きを置くイタリアサッカー界で理想的な勝ち方とされている)


 二人の会話を聞いた生田が立ち上がって、


「じゃあよ、お望み通り先制点をくれてやろうぜ! そっから俺たちの怒濤の反撃で大逆転だ!」

「バカ! むざむざ失点を許す戦術がどこにある! 追いつける保証だってないんだぞ」

「アッコさん、じゃあ、どうしたら」

「乗ってやろう」

「乗る、って?」

「この試合、ウノゼロで決着をつけてやるのさ。ただし、虎の子の1点をもぎ取るのは私たちのほうだがね。まず、後半、二人交代する。倉光と菊本、弓と郷原(ごうはら)を代える。そしてだ、いいかみんな、聞いてくれ……」


 明智川は後半の戦術を指示した。

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