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始まりの風

作者: パプリカ

読みにくくてすみません!

 孤児院の砂場にいたはずなのに、瞬きをしたらまるで、どこかの国のお城のような部屋にいた。


「おお! 召喚成功だ! 『生け贄の御子』だ!」

「これで国が助かるぞ!」

 たくさんの人が私を見つめ、何十歳も年上の男達が手を取り合ってはしゃいでいる姿は、十歳の私から見ても異様な光景だった。


 

「何……?」

 意を決して疑問の声をぶつける。偉そうな格好をした銀髪男は興奮冷めやらぬ様子で答える。

「これは失礼致しました。貴方はこのオルベニア王国に『生け贄の御子』として異世界より召喚されたのです!」

「いけにえのみこ? オルベニア?」

 初めて聞く言葉の数々に理解が追いつかない。ここ、日本じゃないの?

「オルベニア国を救う希望の光、それが『生け贄の御子』なのです!」

 言葉を口にする度ににじりよってくる銀髪男に、私は恐怖した。

 

 銀髪男はその後、私をとても豪華な部屋へ連れて行った。

「儀式は明日執り行います。御子様はこちらのお部屋でお休み下さい」

 銀髪男はそう言うとさっさと部屋を出て行ってしまった。

 まだ、私は何も理解出来ていないのに。

 それから少しして女の人が食事を運んで来てくれた。私は思いきって訪ねてみる。

「生け贄の御子って何ですか……?」

 女の人は少し驚いた顔をしたけど、すぐ笑顔になり答えてくれた。

「自らの身を犠牲にし、オルベニア王国に幸福をもたらす尊い存在のことですよ 」

「自分の身を……犠牲に……」

 私、死ぬの……?


 気がつくとベットの上に寝ていた。窓の外は真っ暗。どうやらあの後気絶してしまったみたいだ。

 周囲に眼を凝らすと、机の上に冷めた食事がのっているのが見えた。それを見たら、孤児院での温かい食事を思い出し、涙がこぼれた。


 翌日、私は今までいた城から離れたとても大きな湖の畔に連れていかれた。

 私が着くと直ぐに昨日の銀髪男が話しかけてきた。

「御子様、これから貴方は喋ってはなりません」

「どうして?」

「理由などいいのです。とにかく喋ってはならないのです」

 嫌だ!と言おうとしたのに声が出ない。はっとして顔を上げると、銀髪男は口を歪ませ笑っていた。

「貴方は喋らなくていいのです」


 私が喋れないまま儀式は着々と進んでいった。

「では、御子に枷を!」

 銀髪男の言葉で、鎧を着た人が私の手と足に鉄球のついた輪をはめようとする。私は昨日の女の人の言葉を思いだし、抵抗しようとした。しかし、今度は何かに押さえつけられているかのように身体が動かなくなっていた。

 私、本当にこのまま死んでしまうの?


「御子を舟へ!」

 銀髪男は鉄球のついた私を数人がかりで舟に運び込ませると、自分も舟に乗り込んだ。すると舟は勝手に岸を離れ、湖の中央へと進んでいく。

 舟が停止すると、銀髪男は立ち上がり声高らかにこう言った。



「我が国の希望の光『生け贄の御子』よ! その身を犠牲にし我らに永久(とわ)に続く幸福を授けたまえ!」

 


 その瞬間、私は湖に落とされた。

 慌てて水面に顔を出そうと必死にもがくが手足についた鉄球のせいで、身体は沈んでいくばかり。息が出来ないーー。

 私、このまま死ぬんだ。

 そう覚悟を決めた瞬間、枷が弾け飛ぶ。驚く暇もなくとてつもなく強い力で押し上げられ、私は水から勢いよく飛び出した。そして大きく温かい腕が私を抱きとめる。


「おいおい、神官長ともあろう人が、こんなちっちゃい子供を殺していいのかい?」


 私を助けてくれたのは茶色い髪と瞳をした三十代くらいの男の人だった。

「ルドウィック・バイツァー! 貴様何のつもりだ! 御子を返せ!」

 銀髪男の怒鳴り声に自然と身体に震えがはしる。心なしか私を抱える手に力がこもった気がした。


「やだね。子供を見殺しにするくらいなら死んだ方がマシだ」

 

 そう言った途端、私達は風の渦にのみこまれ空に浮き上がった。

 地面はどんどん遠くなり、雲がどんどん近くなっていく。不思議と恐怖は感じない。それどころか風に乗って空を飛んでいるという状況に心が弾んでさえいる。

 しかし、何で飛んでいるんだろう?


「おっ怖くないのか! いい度胸してんな坊主!」

 弾んでいた心が一瞬で地面にめり込んだ。ぼ、坊主って……。

「私、女です……」

「そいつはわりぃ。髪の毛が短いからつい男だと思っちまって」

 この人はとても楽天家なようだ。間違えたことをちっとも気にしていない。

 私の地面にめり込んだ心はいつの間にか乾いていた服に気がついて再浮上した。

 べちょべちょの服は気持ち悪いからね。


「少し城によるけど、いいよな?」

 そう言って私が降ろされたのは、とても大きなテラスのような場所だった。硝子のドア越しにみえる部屋の中には高そうな家具がたくさん置かれている。

 男はドアに近寄るとリズミカルに硝子を弾く。

 すると、家具の隙間から私より少し年上ぐらいの男の子が這い出してきた。金茶色の髪に翠色の瞳をしている。

 男の子は急いでドアのカギを外し、私達を中に招き入れた。

「その様子だと成功したんだな、ルド」

 そう言って男の子は私のことを見る。

 私は無意識に男ーールドさん?ーーの後ろに隠れた。男の子は少し傷ついたような顔をしている。悪いことをしてしまった。

「まあ気にすんなよリゼル。お嬢ちゃんは少々疑心暗鬼になってるだけだから。な、お嬢ちゃん?」

「うん、ごめんなさい」

 疑心暗鬼という言葉の意味はわからなかったがとりあえず頷き、謝る。

 しかし、男の子は難しい顔をしている。怒ってるのかな?

「お前、女の子なのか?」

 私は男の子の言葉に唖然とした。

 そんなに私は男に見えるの? 

「わ、悪い!謝るから泣くな!」

「うわー。リゼル泣かしたー」

 別に泣きそうになんかなってない……たぶん。

 なのに、男の子ーーリゼル君?ーーは慌ててポケットから出した包み紙を私に握らせる。

「これやる! おれが初めて市場に行った時に買ったんだ!」

 包み紙を開いてみると翠色の石のついた腕輪が入っていた。石はキラキラと光を反射している。

「きれい……。これ、くれるの?」

一応、聞いてみたがダメと言われても手放す気はなかったかもしれない。

「ああ。気に入ったのか?」

「うん! とってもきれい!」

「そうか。良かった」

 リゼル君は嬉しそうに笑っている。私もつられて笑ってしまった。


「おい。イチャイチャすんなよリゼルー」

 ルドさんが半笑いでリゼル君を見下ろしている。

 リゼル君は真っ赤になって怒った。

「ち、違う! 別にそんなんじゃない!」

「まあまあ、そんなに怒るなよー。俺はリゼルが恥ずかしがり屋だってこと分かってるから!」

「なっ!」

 リゼル君は言葉が出てこないようだ。

 リゼル君がもごもごしているうちに何か思いだしたのか、ルドさんが真面目な顔をして言う。

「そう言えば、エド達の方はどうなってるんだ?」

 リゼル君もまだ少し顔が赤いが真面目な顔をして答える。

「エド(にい)達はちゃんと準備を進めてる。もうすぐ父の……現王の時代は終わる」

 げんおう……?

 よく意味がわからない。一体何の話をしているんだろう。

「何も出来ない自分が情けない……」

「リゼルはちゃんとやってる。現にリゼルが情報流してくれなかったらお嬢ちゃんは今頃死んでた」

 そうだ。空を飛んだりしていて忘れていたが、私はあのままだったら確実に死んでいた。今ここで二人に会うこともなかったのだ。

 見たこともない場所にいつの間にか来ていたこと。銀髪男に変な術みたいなのを使われて身体の自由を奪われたこと。湖に放り込まれ死にかけたこと。

 とてつもなく怖かった。そこからこの二人が助けてくれたのだ。

「お、おい! 何でお前が泣いてるんだよ……」

「ひっく……。助けてくれてありがとぅ……」

 リゼル君は一瞬ポカンとしたあと、照れたように笑った。

「よしよし。お嬢ちゃんもあんな目にあって怖かったよな。もう大丈夫だ」

 ルドさんは私が泣き止むまで頭を撫でてくれていた。



「お嬢ちゃんも泣き止んだし、そろそろ出発するかー」

「そうだな、外も騒がしくなってきたし行った方がいい」

 私の手を引いてルドさんはテラスに出た。

「俺は田舎に引っ込むつもりだ。しばらく遊んでやれないが……泣くなよ?」

「泣かない!」

「くくっ。じゃあな、リゼル!」

「バイバイ。腕輪、大切にするね!」

 空いている方の手を小さく振る。リゼル君も手を振り返してくれた。

 瞬間、私達はまた風の渦に飲み込まれ空を飛んでいた。

 今までいた城とリゼル君が豆粒のように小さくなっていった。



「そう言えば、お嬢ちゃん名前なんてゆーの? あ、俺は『(かぜ)大魔導(だいまどう)』ルドウィック・バイツァー。気軽にルドって呼んでくれ!」

 かぜのだいまどう?

 聞いたことのない言葉だ。ことわざか何かだろうか?

「あ、ごめんごめん。風の大魔導っていうのは神に選ばれた風の魔法使いのことだよ」

「へ?」

「他にもそれぞれ火と水と地の大魔導がいるんだ」

 この世界には当たり前のように魔法が存在しているみたいだ。

 確かに、言われてみれば今飛んでるのもそうだし、あの銀髪男が私に使ったのもきっと魔法だ。

 魔法か……。絵本の中だけの存在だと思ってた。もしかして、私も使えるようになったりするのかな。

「私も魔法使えるようになれますか?」

「ん? ああ。魔力も結構あるみたいだしな。何かしたいことでもあるのか?」

「孤児院に帰ったら皆に自慢するんです!」

 皆は魔法を使えないから羨ましがるだろうなー。

「…………。戻れないんだ。元の世界には」

「えっ……」

「生け贄の御子は元の世界に帰る必要がないから、帰すための魔方陣がないんだ」

 孤児院に帰れない。少なからずいた友達にも会えない。私はこれからどうすればいいの? 

「…………。あのさぁ、突然だけど俺んちの子にならないか?」

「え」

「本当はどこか信用出来る奴のところに預けようと思ってたんだけど、お前のことなんだか気に入ったし」

 短い間だったけどルドさんのことが私は好きだった。助けてくれたし、空も飛ばせてくれた。

 ルドさんちの子。いいかもしれない。

「本当にルドさんちの子になっていいの?」

「おう、大歓迎だ!」

「あの、これからよろしくお願いします」

 ひとりぼっちだった私に家族ができる。嬉しさのあまり変な顔をしてるかもしれない。


「よろしく……ってまだ名前聞いてなかった。名前なんていうんだ?」

 そういえばまだ言ってなかった。

「私の名前は風香(ふうか)です」

「フーカか。何か意味とかあったりするのか?」

「えーと、風の香りのように清々しく自由気ままに生きられるようにいう願いが込めてあるって死んだお父さんが言ってました」

「清々しくて自由気ままか。いいな、そういうの」

「ありがとうございます」

 お父さんのことを思い出したら、何だか胸がポカポカしてきた。



「よーし。そうなったら、フーカは今日からフーカ・バイツァーだな」

「なんかすごい」

「そうか?」

 フーカ・バイツァー……。やっぱりすごそう。

「あっー!」

 私が名前について思考を巡らせていると急にルドさんが大声を出した。驚いて、思わず手を離しかけた。

 危なかった。

「どうしたんですか?」

「エミリーに言うの忘れてたんだよ!」

「誰ですか?」

「俺の愛しの奥さんで、フーカの次期お母さん」

 奥さん? お母さん?

「えっー!! ルドさん結婚してたんですか?」

 予想外過ぎる……。

「失礼な。俺みたいないい男には奥さんがいて当然だろ?」

「そ、それより大丈夫なんですか? 何も言ってないのって……」

 突然、家に子供が来たら驚くに違いない。

「勝手に決めたことは怒られるかもーははは」

 ルドさんの乾いた笑い声が悲しすぎる。

 だが、さすがルドさんだ。立ち直りがとても早かった。

「こうなったら、さっさと家に帰るぞ! 手ぇ離すなよフーカ!」

「え、うわっ!」

 さっきまでの速さとは比にならない位の速さで飛んでいる。

 とても風が気持ちいい。自然に笑いが込み上げてきた。

「笑うなよ! 力が抜ける!」

「だって、楽しいんですもん!」

 こんなに笑ったのは初めてかもしれない。

 きっと、これがこれからの日常になる。そんな気がした。




この六年後、田舎で暮らしていたフーカにとてつもない事件が起こり、この話では影が薄くなってしまった、あの人と再会したりする

予定!

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