第4章
<Mr.ロバートを探しています>というサイトを立ち上げてから約一週間後、訪問者数の極めて少ないこの場所に、一通のメールが舞いこんだ。
相手のHNはマスターで、言うまでもなく、<マリー・ド・サガン>の店長だった。
>>本当にサイトを立ち上げたんだね。<F>さんから連絡のあることを心から願っています。
ほんの短い文章ではあるけれど、わたしはなんとなく心がほっこりするものを感じて、嬉しくなった。
実をいうとわたしは、マキとは違って――心密かに、このMr.ロバートなる人物は実在するのではないかと、そんなふうに思っていた。
もちろん、ロバートというのは本名ではないだろう。けれど、ノートに書かれた断片的な文章から推察するに、<F>とロバートは同じ職場で働いているらしいのだ。
>>ロバート、今日もあなたの青い眼差しがわたしを捕える。きのう、あなたの指は、すべてが終わったあとで、どんなにわたしの髪を優しく撫でてくれたことだろう……「祖国へは帰りたくない。ずっとこのまま君とこうしていたい」と言ったあなたの言葉を、わたしは信じてる。ああ、ロバート……でも仕事中はそんなことは忘れて、忠実に日々の業務をこなさなくては。仮に時々、あなたがわたしのことを官能的な眼差しで見つめていたとしても。
何度も読み返したその文章を、わたしはこの時吹きだしもせずにとりあえず真顔で読んだ。
実をいうと、うちから歩いて五分くらいのところに、<カナダ政府領事館>なる建物があり、さらにはそこから十分くらい歩いていったところには、<アメリカ総領事館>なる場所があった。
もちろん、だからどーしたという話ではあるのだけれど、ロバートがもし仮に外国人であるとした場合、彼はどんな場所で働いていたのだろうとわたしは想像する。
なんとなく、ロバートか他の重役の秘書を<F>はしていたように読める箇所もあるし――それらの記述から、彼らの職場がどこか、突き止められないだろうかとわたしは考えていた。
「でもやっぱ、無理だよねえ。名前がロバートっきゃわかってないわけだし、しかもこの名前自体が仮名っぽいんじゃ……」
わたしはベッドの上を右へいったり左へいったりしながら、やがてそのまま眠ってしまった。
夢の中ではわたしの想像するロバートとフジ子が、何か花畑の花びらを背景に、手に手を取りあって笑ってた気がするのだけれど――目が覚めた時、わたしは彼らの顔をまったく覚えていなかった。