第四花 その目に少女は何を見る
六天金剛「今回は書くのに時間がかかったな。」
幽香「…そうなの?」
六天金剛「ああ。だが、その分いつもより長く書けた気がするぜ。」
幽香「気がする、じゃなくて、実際に長くなってるんでしょ。」
六天金剛「という訳で、いつもよりちょっとだけ長い、【第4花】をお楽しみ下さい」
ーーーめこぉっ!
俺の拳が蜘蛛にめり込み、身体の形を変え、バネの要領で吹き飛んでいく。
断末魔を上げることなく命を落とした蜘蛛は音速を軽く超え落下し、遠く離れた大きな山に轟音を上げながら着弾した。
…やっぱ、なあ。
今さっきから思ってたんだけど、やっぱりだ。
ゆうかりんって、ここまでぶっ飛んでいたか?
いや確かにね?ゆうかりんがすげー強いのは知ってるよ?肉弾戦に限った話で言えば、それこそ腕力最強の種族【鬼】の大将ともタイマン張れるんじゃね?とか自分の中では思っていたりした。
だが、これは度が過ぎている。
これじゃあ、鬼の大将もめじゃないようなーーー…
「ーーって、うおわっ!」
やべぇ!落ちてるの忘れてた!
気が付くが時既に遅し。
俺の身体は徐々に速度を上げながら落ちて行く。
じたばたともがくが当然意味は無く。
そして…
ーーーべしゃあ…!
「ぬが…」
無様に顔から地面に落下した。
「あー…顔が汚れちまった。」
うんざりげに呟きながら、破れたカッターシャツの袖で顔を拭く。
「ーーそうだ、あの娘は?」
言いながら振り向く。すると後ろには俺の日傘を持ちながら、ひょこひょこと妙な足取りで此方に近付く少女の姿があった。
「お、お姉ちゃん…あのおっきな蜘蛛は……?」
…ああ、心配して来てくれたのか。これは嬉しいことだ。
「ああ、あの蜘蛛はお姉ちゃんが退治したからな。もう安心だ。」
「………ふぇ」
…ああ、これは泣く流れか?
まあ、しょうがないよな。汚れだらけの少女の服装を見るに、相当な距離を逃げてきた見たいだし。
そんな状況下じゃ泣く暇もないもんな。
うん、しょうがない。
ーーースッ…
少女を抱き締める。
ロリコンじゃないよ!本当だよ!
「ふぇ……?」
「うんうん、嫌だったよな、怖かったよな。よく泣かなかったな。よく我慢したな。……でも、もう大丈夫だ。
ーーだから、もう泣いてもいいんだぞ?」
優しく、諭すように語りかける。
「ふぇ、え………ーーうわあああああん!!!」
少女が勢い良く抱き着いてくる。
「よーしよしよし、良く頑張ったなー。思う存分泣けー。」
少女の背中をぽんぽんと叩き、彼女が泣き止むまで、抱き締め続けた。
「ーーもう、大丈夫か?」
「…うん、ありがとう。お姉ちゃん。」
…やっぱ、お姉ちゃんって呼び方はなんかやだな。
まあそれはともかく…
「怪我、してるのか?」
「うん、転んじゃって…。」
どうやらこの少女、蜘蛛に追われていた時に転んでしまい、足を挫いてしまったようだ。
まあ、それも歩くのが辛い程度のものらしいが。
しかし、怪我をした少女を置いていく程俺も鬼じゃない。
この少女を彼女の住む場所までおぶって連れていこうと思います。
上手くいけば、自分がこのあとなにをすべきか見つかるかもしれないし。
「お姉ちゃん、重くない?」
「…あのな、こちとら妖怪だぞ?少女一人おぶる位造作もありません。要らん心配はしなくてよろしい。」
「えっ」
「えっ?」
なにその反応。
「…お姉ちゃん、妖怪なの?」
……えー…
「今更?」
「だ、だってだって!!お姉ちゃん、わたしを助けてくれたし!抱き締めてくれたし!
…普通の妖怪はそんなことしないよ?」
……あー…まー…
「確かにしないけどな…」
「…なら、なんで?どうして、助けてくれたの?」
「…えーと…それはだな……」
お前を助ける前に面倒臭い葛藤があったことなんて言えないしなぁ…。
…そうだ!
「…気まぐれだよ、気まぐれ。それだけさ。」
「えー……?ほんとにそれだけ?」
「そーそー。あんときの俺は機嫌が良かったからな。もし機嫌が悪かったら、さっきの蜘蛛をぶっ殺して俺が嬢ちゃんを食べていたかもしれないぜ?」
「…ふぇ」
「おおう!冗談冗談!!よーしよし、泣くな泣くなー。」
全く、子供をあやすのは疲れるな。
まあ、それはともかく。
「ここは何処だ。」
「わかんなーい。」
……また迷った。それだけさ。うん、それだけ。
「嬢ちゃんよぅ…、本当に自分の住む場所が解らないのか?」
「うん…麓にあるっていうのは分かるんだけど…」
ナンテコッタイ。
「どうすっかなあ…ずっとこんな中に居るのも嫌だしなぁ…。」
クイクイッ
「…どうした少女。なにかいい案でも出たか。」
考え込んでいると少女が呼んできた。もしやとは思うが、この絶望的(?)な状況を打ち破る案を思い付いたのか。
「お姉ちゃん、妖怪さんなんでしょ?お空を飛んでいけばいいんじゃないかな。」
その発想は無かった。
「…んー。でも、なあ。」
「?どうしたの?」
「いや…ちょっと、ね…。」
さしあたって、空を飛ぶことに問題が一つ。
どうやって飛ぶん?
STG や同人アニメではホイホイ飛んでたけど、元一般人な俺はしょうじきよくわかんないです。
飛ぶという動作は妖力なんかを使うのだろうか。そうなったら俺にはお手上げである。だって使い方知らねーもん。
なんかこう、自動で妖力を使ってふわっと飛んでくれんかな、ふわっと。
すると……
ふわっ
「ぬわぁっ!」
「きゃっ!もう!飛ぶなら飛ぶっていってよ、お姉ちゃん!」
「あ、ああ。悪い…。」
マジかよ…すげぇな俺の想像力。
俺は今、宙をぐんぐん上がっている。そして、上空百メートル程まで上がったところで俺が止まれと念じると、ぴたりと止まった。
何故念じた通りにいったのか甚だ疑問だが、好都合なので深く考えるのは止めにする。
「嬢ちゃん、怖くないか?」
「全っ然!色んなところが見れてすっごく綺麗だよー!」
成る程、この少女は中々に肝据わっているらしい。
妖怪に襲われるなんて異例中の異例だしな。あれは泣いても仕方無いだろう。
…さて。
「嬢ちゃんの家は何処かなっと…」
「あ!あそこだよお姉ちゃん!右の下のほう!」
…お、ほんとだ。
見れば、俺から2時の方向に大きな集落が有るのを見つけた。
あそこが、少女の家のあるところなのだろう。
「んじゃ、行くぞー。」
「あっ!ちよっと待ってお姉ちゃん!
…もうちょっと、ゆっくり行ってくれる?」
………?
「何でだ?」
…ああ、怖かったのか。悪いことをしたな。
そう思い謝ろうとした直後。
「えっとね…。もっとこの景色を見てたいの。こんなすごい景色、もう見れないかもしれないから。」
…何だ、そんなことか。
「そんなの、俺に言えば何時でも乗せてやるぞ。」
「えっ!?いいの?
…でもお姉ちゃん、怒っている時は人をたべちゃうんじゃないの?」
「まだ信じてたのか貴様は。…冗談って言ったろ。
嘘だよ嘘。」
「…そうなの?」
「そうなの。…さて、乗せてもらえると判ったところで急ぐぞ。
…お前の家族も心配しているだろうからな。」
実は、あれから数時間が経っている。
俺がこの世界に来たのが大陽が燦々と輝く昼頃だった。…ということは、今はもう夕方なのである。
日は傾き、緋色が空を染め上げている。
「んじゃ、行くか。」
「はーい!」
進行方向は人里へ。
ゆっくり、ゆっくり降りていった。