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鬼と仏  作者: 快丈凪
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壬生の狼〜宴会の後始末〜

補足説明(1)

・免許皆伝(者)

師が武術の奥義など全てを伝えたと認めること(認めた者)。


・目録

習得した技と、歴代の宗家の名前が記されたもの。





 歳三は目覚めた。

 彼は長い夢を見ていた。しかも、自分が初めて負けたという嫌な思い出の夢を……。


「おや、土方君、起きたかい?」


 声のする方を振り返ると、山南が居た。机にロウソクをともして何か難しそうな書を読んでいる。

 自分は布団に寝かされていた。……なぜ?


「山南さん、俺……」

「君と私と総司で話をしていたが、気づいたら君だけ寝てたんだよ」

「なっ……なら起こせば良かっただろ……」

 土方は布団から飛び出た。

「長旅だったから疲れたと思ったし、総司も土方さんは寝起きが悪いですからって言うし……」

 山南は少し申し訳なさそうだ。

「総司が?あの野郎……。山南さん、悪かった。自分の部屋に戻る」

 歳三は立ち上がって山南の部屋を出た。

 後ろから、

「おやすみ」

と小さく聞こえた。



 歳三や山南たちは京都に居た。しかも今日着いたのだ。歳三と山南の出会いから6年の月日が流れていた。


 6年の間に色々な事が起きた。

 勇は嫁をもらい、タマという娘も生まれた。また天然理心流の4代目を正式に襲名し、名実共に試衛館の道場主になった。そしてその試衛館にも新しい食客が増えたのだった。



 歳三が自室へ帰ろうとした時、後ろから呼びとめる声が聞こえた。

「土方さん!土方さん、お待ちください!」

 振り返ると平助が居た。

 彼は藤堂平助(とうどう へいすけ)。年は総司よりも2歳下で、試衛館の食客では一番若い。山南と同じ北辰一刀流で、目録の腕前だった。


「どうした?」

「それが……近藤先生が酔いつぶれてしまいまして……」

 平助は弱々しく言った。

「なっ……総司は居なかったのか?源さんや左之助や新八は?」

土方は怒り気味に言った。

「それが、芹沢先生と付き合って飲んでいたら皆さん酔って寝てるんです……沖田さんは飲んでないのに騒ぎ疲れて寝てます。私にはどうしようもなくて……」

「まぁ、良い。お前は酔わなかっただけマシだ。ったく、初日だっていうのに何を考えているんだか……」

 歳三は頭が重かった。京では八木源之丞(やぎげんのじょう)氏の屋敷に居候させてもらっているのだ。なのに初日からこの様では印象が悪い。


「平助、行くぞ。全員叩き起こす……」

「はいっ!」

 歳三と平助は宴会の催されていた部屋へ急いだ。


 部屋へ行くと、報告どおりの状況だった。

 まずは酔っていない総司を起こす。


 バシッ!!


 歳三は勢いよく総司の頭を叩いた。

「ひ……土方さん、もう少し優しくしても……」

 平助は、ビクビクしながら言う。

「コイツに甘やかしは無用だ、平助」

 歳三はしみじみと言う。

 するともぞもぞと総司が起きた。

「なんなんですかぁ……土方さん、起きたんですか」

 総司は叩かれた辺りをさすり、欠伸をしながら言った。

「ったく、何でこうなる前に近藤さんを止めなかった?」

 歳三は呆れながら言う。

「良いじゃないですか。今日はめでたい席なんですし、先生だってきっと騒ぎたかったんです」

 ケロッと言う沖田。

「限度があるだろう。みんな酔いつぶれるとは、情けない。お前も近藤さんたちを起こして部屋まで連れて行くんだ」

「分かりましたよ。……これだから土方さんは寝起きが悪くて困るな……」

 ブツブツと小さな声で総司が言ったが、歳三にひと睨みされて近藤と源三郎を起こしにかかった。


「原田さんっ起きてください!」

 平助がいびきをかいて寝ている男を必死に起こしている。その隣には既に目が覚めてボーッとしている男が居た。

 先に目覚めた方が永倉新八(ながくら しんぱち)で、いびきをかいているのは原田左之助(はらだ さのすけ)だ。


 永倉は歳三より4歳下で、松前藩士の家に生まれた、れっきとした武士だが、脱藩して試衛館の食客になる。剣は神道無念流の免許皆伝の腕前だ。


 横の原田左之助は歳三より5歳年下で、種田宝蔵院流で槍術を学び食客になった。


 この二人も平助同様、この6年の中で出来た同志である。

 土方は一番厄介な者を起こしにかかった。


「芹沢先生、起きてください。お部屋に戻りましょう」

 歳三が声をかけるものの、起きる気配が全く無い。

 横ではこの芹沢の手下の平間と平山も一緒に寝入っている。


 この男、名を芹沢鴨(せりざわ かも)という。彼は水戸の尊皇攘夷派集団に所属した後、歳三たちと出会った。永倉と同じ神道無念流の免許皆伝者でもある。横で寝ている平間、平山は芹沢についてきた者たちだ。


 歳三はいっこうに起きる気配を見せない酔っぱらいに腹が立ってきた。

「芹沢先生!起きてください!」

 つい怒鳴ってしまった歳三の後で声が聞こえた。


「あー、先生はそうなってしまってはもう無理だ。部屋までお連れする」

 見てみると芹沢の残りの手下・新見錦(にいみにしき)野口健司(のぐちけんじ)だった。

「野口。お前は平間たちを」

 と命令すると、野口は二人の方へ小走りで近づき、声をかけはじめた。


 新見はゆっくりと歳三の方へ歩み寄ると、芹沢の前へしゃがみこんで言った。

「あとはこっちでする。世話になった」

 新見は面倒くさそうに言った。

「分かりました」

 と歳三は告げて一礼し、平助が苦戦している原田を起こす方へまわった。


 新見は常に芹沢と行動を共にしている。しかし歳三は彼から芹沢への尊敬の気持ちを感じていなかった。きっと彼が芹沢一派の中で一番頭が良いのだろうが、新見が芹沢の手下で居るのは地位だけが理由の様な気がした。

 野口は芹沢一派の中で一番年若い。そのせいか、少し浮いた感じがする。


 歳三たち、試衛館の面々が芹沢たちに出会ったのは今日が初めてだったが、この出会いは後に深く・重要なものになった。





補足説明(2)

・北辰一刀流

千葉周作を流祖とする流派。


・神道無念流

福井平右衛門嘉平を流祖とする流派。


・宝蔵院流

奈良の住僧を流祖とする槍術(ヤリ)の流派。『種田宝蔵院流』は分派。

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