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鬼と仏  作者: 快丈凪
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鬼の回想〜真剣勝負〜

 道場には、物盗りではなく、一人の男が竹刀で素振りをしていた。歳三は一目見て誰か分かった。

「……アイツ……」


 アイツとは……そう、山南敬助である。


 細く華奢な体と弱々しそうな青白い肌の見た目からは想像できない力強い素振り。しかし、それは天然理心流とは異なるものだった。


 歳三は道場の死角になる柱の陰に隠れた。隠れるつもりも隠れる理由もないのだが、山南に声をかけようとは思わなかった。


 山南は黙々と素振りを続ける。


 その時、声が聞こえた。


「そんな所にいらっしゃらずに、こちらへお越しください」


 歳三は驚いた。

 山南が急に声をあげたからだ。


「そちらにおられるんでしょう?」


 しかも、歳三に気付いている。


 ギシッと、古い道場の床が軋む。

 歳三はゆっくりと柱の陰から現れた。

 山南はやはり笑顔だった。

「何かご用ですか?」

 山南が尋ねる。

「明かりが見えたんで来ただけだ」

 歳三はぶっきらぼうに言った。

「すいません。ただ、素振りがしたくて……」

「そうか。俺は物盗りか何かかと思った」


 歳三がそう言うと山南は苦笑いで

「そうでしたか、それはお騒がせしました」

と謝った。


 二人の間に沈黙が流れる。


「あんた、かっちゃんに負けて入門したって本当か?」

 歳三が沈黙を破る。

「そうですよ。よくご存じですね」

「あんたが言ってたんだろ。かっちゃんがあんたを紹介してた時に」

「そうでしたね」

 山南はまた苦笑いだ。


「俺と戦わねぇか?」


 山南は驚いて歳三を見た。

「私とあなたがですか?」

「そうだ。北辰なんとかって流派も見てみたいし、何よりかっちゃんが戦った男と戦ってみたい」

 歳三は山南に近づきながら言った。


 山南は少し考えると、またいつもの微笑みを歳三に向けながら、

「分かりました」

と言い、側にあった竹刀を歳三に渡した。

 歳三はそれを少し強引に受け取ると、棚から自分の防具を取り出した。


 山南と歳三は互いに向かい合い、正座をして防具をつける。


「あなたは赤い面紐ですか。珍しいですね」

 すでに準備が整った山南が歳三に言った。

「悪いか。俺の好みだ」

 歳三はその面紐をしっかりと結び、立ち上がった。

「いいえ。良いご趣味ですよ」

 山南も立ち上がる。


「では、相手から面を取れば勝ち。その時点で試合終了……でどうでしょう?」

 山南は構えながら言う。

「意義なし。じゃあ……始めようか」


 歳三はそう言うなり、山南に飛びかかった。

 歳三は一応、試衛館の門下生だ。ところが彼は型にはまるのを嫌い、天然理心流を高めるのではなく、自己流の戦い方を身につけていた。そのため実力はあっても道場の中では下の方だった。


「君は天然理心流かい?近藤先生とは違う感じがするが……」

 山南は歳三の竹刀を受けとめながら聞いた。

「俺は試衛館の門下生だけどなぁ、自己流なんだよっ!!」

 竹刀を山南から離し、間合いを取る。


「成程。これは面白い」

 山南は防具の向こうで笑った。それはいつもの微笑みではなく、少し不敵な笑みだった。


 山南にスキは無い。 鋭い殺気すら感じる。

 そして……自分はその殺気に怯んでいる。


 山南の剣先は小刻に揺れている。それが嫌に目につく。

 これが北辰一刀流というものなのか?


 ……しゃらくせぇ!


 歳三は再び山南に突っ込んでいった。

 山南の頭上を狙う。

 山南は受けとめようと竹刀を上げる。


 歳三の狙いはそこだった。


 竹刀を上げる事で山南の意識は頭上に集中する。その時に一瞬出来るスキを……。

 歳三は寸前で竹刀を胴に向けた。


 ……もらったっ!!


 歳三は山南を突き飛ば………



 ―――その時、歳三の天と地が引っくり返った。


 気づいたら歳三は道場の床に寝そべっていた。

 同時に激痛を感じた。

「うぐっ……痛てぇ……」

 左の脇腹を押さえ、うずくまる歳三。


 一体何が起こった?

 絶対に山南をとらえたと思ったのに……。


 山南が駆け寄ってきた。

「大丈夫ですか?すいません、怪我は……」

 山南は歳三を起こし、壁にもたれさせた。


「つい力が入ってしまいました……」

 山南は歳三の面紐を外して防具を取り、怪我がないか調べられる範囲で調べた。


「目立った怪我は無い様ですね」

 山南は少し安心して自分の防具を外し始めた。

「なんで……なんでダメだったんだ……?」 歳三は痛みを堪えながら山南に聞いた。

 山南は微笑んで答えた。

「アナタは自分の戦略に自分でかかったんですよ」


 どういうことだ?サッパリ意味が分からない……。

 歳三が考えていると山南は続けた。


「アナタは私の頭に打ち込むフリをしてスキを作り、私の胴を狙った。ところが私はアナタの剣を見きったんだ」


 ……何っ?

「アナタの剣先は私の頭上に向けられていたが、視線は胴にあった。だから私はその時にがら空きだったアナタの脇腹を突いたんですよ」


「……そうだったのか」

 完全に歳三の負けだ。スキを作ったのは自分自身で、しかも山南が自分の剣を見きっていたとは気づかなかった。


「でもアナタは強かった。だから私は本気になったんです。それで自己流とはもったいないです」

 山南は歳三の目を見て言った。

「俺は自己流だが試衛館の門下生だ。今は薬売ったりもしてるが、本業はそれなんだよ。だから表向きの流派は一応、天然理心流だ」

 歳三は山南に言った。

「そうですか」

 山南は微笑んだ。


 すると歳三は不意に山南に言った。


「お前、ワザと負けたろ?かっちゃんに」


 山南の動きが止まった。

「図星か?こう言っちゃ何だが、あの人は4代目とはいえ、それほどの剣の腕は持ってない。免許皆伝の腕前なら簡単に倒せただろ?」


 すると山南は笑って言った。


「私はね、面白いことが好きなんですよ」


 そう言うと山南はくるりと向きを変え、屋敷の方へ歩きだした。


 今まで喧嘩に負けたことのない歳三の、初めての敗北だった。





ここまで読んで下さってありがとうございます。いかがでしょうか?4話にしてやっと作者挨拶です(汗)

実はまだ内容としては全体の10分の1も進んでいません(苦笑)まだまだ続きますので、よろしければ今後も読んで頂ければ幸せです。

ではまた5話でお会い致しましょう!

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