浅葱色の誠〜大坂にて〜
勇たちは今、大坂にいた。とある目的のため……。
全ては、芹沢の一言から始まった。
「そろそろ隊服が必要だな」
芹沢のこの発言を、歳三はよく思わなかった。まだまともに隊務を果たしているとは到底言えないし、隊服を着ることで目立つのも嫌だった。……ただでさえ壬生の人々から良く思われていないのに……。
しかし、歳三以外の者たちは隊服案に賛成だった。山南は、
「隊服で仲間意識が生まれ、皆が団結するのでは」
などと言うし、何より勇が一番張り切って
「幕府から折角授かった隊だ。それなりにキチンとした格好をしないとと、ずっと考えていたよ。隊服があれば気持ちも引き締まるだろう」
と、芹沢以上に乗り気だったのでロクに否定も出来なかった。
大坂に来た目的は……金策。実は壬生浪士組はかなり貧乏だった。その為、借金をしなければ隊服を揃えるなど出来なかった。
「……もう、土方さんっ。いい加減そのふてくされた顔、やめて下さいよ!」
総司の声に、歳三は顔を上げた。
今は昼。彼らは昼御飯を食べる為に料亭に来ていた。歳三はこれまでの事を思いだし、考え事に耽っていたのだ。
「うるせぇ、総司。ふてくされてねぇよ」
歳三はそう言うと目の前の食事を掻き込んだ。
「トシ、まだ怒ってるのか……?」
恐る恐る勇が尋ねる。すると歳三は勇を鋭い目つきで睨む。
「だから、土方君と呼べって言ってるだろ。それに、俺は別に怒ってねぇ」
歳三は食べ終わり、箸を置いた。向かい側の平助と目が合ったが、あからさまに反らされる。……それぐらい歳三は不機嫌な顔をしていた。
今回、大坂に来たのは7人。勇や芹沢の他に、歳三・総司・平助・野口・佐伯。彼らは昼過ぎから、色々な商家を駆け回り、資金調達をする予定だ。ちなみに芹沢たちは別室で食事をしている。
「ま、不満と言うならば……」
歳三は急に向きを変え、勇と向き合った。
「金策の事だ。俺は金策なんざ、無理言って借金を踏み倒してる不逞浪士と変わらねぇ気がする」
すると勇は厳しい表情をしつつも、
「俺らは何れ返す。奴らみたいに踏み倒しはしないさ」
と返した。歳三は深い溜め息をつきながら
「ま、近藤さんの決めた事だ。俺は言われたとおり動くだけさ」
と言うと横になった。
勇は苦笑いしながら
「すまんな。なんなら俺も行くが……」
と歳三に言う。しかし、それはかえって歳三を怒らせてしまった。
「局長が部下と一緒に借金しに行くんじゃねぇよ!みっともない」
歳三はそう言うと目を閉じた。
「……なんかおかしいですよ、土方さん」
不意に総司が声を出した。部屋に居た全員の視線が総司に集まる。
「何がおかしいんだ?」
歳三は起き上がり、今度は総司の方を向いた。
「最近おかしいです。何でこそまで"局長"にこだわるんですか?近藤先生は近藤先生なんだから、そんなに土方さんが強制しなくてもいいでしょう」
不満そうな総司の顔。
不安そうな勇と平助。
「今の近藤さんは試衛館の道場主とは違うんだ。ならそれに応じた態度が必要だろ」
歳三はあっさり言い返す。
「別に何の大将でもいいじゃありませんか!土方さんはこだわり過ぎです!」
何時もは穏やかな総司が珍しく食いかかってくる。
その時、今まで黙っていた勇が
「いい加減にせんか!」
と怒鳴った。歳三は何か言い返そうとしたが、勇の一声で言葉を飲み込んだ。
「総司もトシもいい加減にしろ。俺は俺の思うようにやってるつもりだ」
そう言うと勇は総司の方を向き、
「トシの言うことも一理あるんだ。昔の俺とは立場が違う」
総司は不満そうに口をつむぐ。
「……ま、しかしだな……」
勇は先程の厳しい顔を解き、人指し指で頬を掻きながら少し照れて言った。
「ワシはワシだ。立場が変わったぐらいでは中身まで変わらんよ。それにな……」
そう言って勇は歳三に近付き、肩に腕を回した。
「トシも昔のままだよ。あと、ワシは決めた!」
そう言って勇は歳三と総司を交互に見て、
「試衛館時代の仲間の前では、トシはトシと呼ぶぞ」
と言い、満足そうに笑った。
それを見て総司は平助と顔を見合わせて微笑んだ。勇に腕を回されている歳三は横を向いて
「好きにしろ……」
と少し照れていた。
外では桜の花が見頃を迎えている。季節は春、真っ盛。笑いあう勇たちはまるで閑な春の陽気の様だ。
しかし更なる悲劇が待ち構えていることを、彼らはまだ、知らない……。
前回からかなり時間が経ってしまい、申し訳ありません。
実は、当方ただ今受験生の為これからも更新が遅れるかと思います。
更新案内は『秘密基地』にてお知らせしていくつもりです。これからは今まで以上に不定期更新になりますが、読んでいただけると嬉しいです。これからもよろしくお願いします。