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鬼と仏  作者: 快丈凪
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浅葱色の誠〜露見〜


「そうか……まさか殿内さんたちが目付け役を任されていたなんて想像もしていなかった……」

 勇は腕組をして、どうしたら良いか考えていた。

「どうするもこうするも、本人たちから事情を聞かないといけませんよ……」

 勇の隣の山南はこう主張する。

「ま、事情によっては脱退だ。壬生浪士組を乗っとろうとしてる時点で許せないけどな」

 歳三はあぐらをかき、頬杖をつきながら言う。3人より少し奥の方で、佐伯が身を縮めている。


 そう、佐伯は家里に誘われたと勇たちに相談したのだ。彼は初めから仲間になる気は無かったのだが、彼等が目付け役だったということは聞いたことがなかったので本当かどうかを確認するためだ。


「すんまへん……わて、余計な事言ってしもうて……」

 佐伯は肩身が狭そうに、うつ向いた。すると山南は、

「とんでもない!我々は知らなかった事なので、かえって助かりましたよ」

 と慌てて言った。


「ま、何にせよ、事実確認が必要だな」

 勇がそう言った時、いきなり障子が開いた。障子が真後ろにあった佐伯は驚いて飛び上がる。


「よぉ、近藤。そりゃあ甘いんじゃねぇか?」

 そこに居たのは芹沢だった。右手には愛用の鉄扇を持ち、仁王立ちして勇を睨んでいた。

「芹沢先生……」

 歳三は怪訝そうな顔をしながら呟いた。


「殿内たちが俺らの目付け役だぁ?笑わせんな。アイツらみんな三流浪士じゃねぇか。それに、江戸に帰った腰抜け共は幕府の人間なんかじゃねぇよ。そんな奴らの命令なんぞ知るか!」


 まだ昼間だが、酒を飲んでいるのだろうか……芹沢は顔を赤くして怒鳴った。

 勇は反論しようとしたが芹沢は

「天誅だ!裏切り者は皆粛正だ!」

 と怒鳴り散らしながら部屋から出ていった。



 ……実は、この芹沢の言葉を恐れた者がいた。他ならぬ、殿内と家里だった。彼等は芹沢の声を聞き、事の次第を知ったのだった。


「家里!お前、とんでもないことを……」

 殿内は声を潜めながらも怒って家里を見た。

「申し訳ありません……まさか佐伯が芹沢たちに話すとは思っていませんでした……」

 家里は体を小さくして殿内と目を合わせずに下の方を向いていた。

「違う!そうではない!何故佐伯を誘わなければいけなかったのだと言っているんだ!」

 殿内は家里の肩を掴み、自分の方を向かせた。家里は殿内の迫力に恐怖を感じつつも、

「我らの今後を考えて……剣の腕がたつ者が居れば、何かと便利だと思ったんです……」

 と話した。殿内は呆れたように、

「佐伯は先日の試合のとき、参加していただろう。ならば近藤か芹沢のどちらかと繋がりがあるとは考えなかったか?」

 と言った。家里はハッと気づき、

「申し訳ありませんでした!」

 を繰り返した。


 殿内はそんな家里を見てため息をつきながら座りこんだ。

「これからどうしようなぁ……芹沢のあの様子では、穏便に解決はしないだろう……」

 殿内は対策を考えていた。目付け役を言われていたのは自分達2人だから、他の者に迷惑はかからないだろう。


 殿内はふと家里を見た。昨日、腹を立てていた時とは別人の様に震えている。殿内は、この家里という男を自分の弟の様に思っていた。年が離れているからかもしれないが、とにかくほっとけないのだ。


 ……仕方ないなぁ……。


 殿内は家里に近づき、そっと呟いた。

「家里、お前は確か大坂に親類が居たな」

 突然殿内に尋ねられ、家里は首を傾げながらも

「はい……母の兄上が居ます……それが?」

 殿内は家里を見ながら力強く言った。

「大坂へ行け。今すぐここから立ち去るのだ」

 家里は目を丸くし、反論した。

「そんな……殿内さんは?ならば殿内さんも一緒に逃げましょう!」

「家里、私はな、何も思い残すことは無い。正直、ご公義など……わからない」

 殿内は穏やかな顔をしていた。多分彼は、もう心に決めたのだろう。

「……殿内さん……」

 家里は今にも泣き出しそうな顔で殿内を見た。


「そんな顔するな。お前は俺よりも若いし志も高い。俺は死ぬかもしれんが、それならそれで本望さ。お前は大坂で強く生きて行け。俺のかわりに生きるんだ」

 殿内は優しいまなざしを家里に向け、笑顔になった。


 二人の男は声を出さないで暫く泣いていた……。




 皆が異変に気付いたのは日が傾いてきた頃。結局勇らで話し合った結果、事実を確かめ、脱退も視野に入れて話をするという結論になった。

 しかし勇、歳三、山南が殿内の部屋を訪ねると中はもぬけの空で、家里も姿を消していた。そして、殿内の文机(ふづくえ)には、達筆な字で"果たし状"と書かれた手紙が置いてあるだけだった……。





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