表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼と仏  作者: 快丈凪
1/25

鬼の回想〜出会い〜



 優しいそよ風。

 柔らかな陽射し。

 ……絶好の昼寝日和である。



 河原の土手添いに男が一人寝ていた。

 男は深く笠をかぶり、昼寝をしていた。


「もし、薬屋さん」


 男に声をかける者がいた。

 ところが男は、気付かないのか面倒くさいだけなのか、全く反応しない。


「薬屋さん?」


 男はうっとおしそうに寝返りをうつ。どうやら起きているみたいだ。


「薬屋さん!」

「うっせぇなぁ。お前、俺が今何してると思ってんだよ!」

 男はそっぽを向いたまま、かったるそうな口調で怒鳴った。


「昼寝ですか?」

「分かってるなら出直して来いよ!」

 そう言って寝息を立てはじめた男。


 すると声をかけた男は呆れたように言った。

「旗が見えたので薬を売っていたのだと思いましたよ」

「なんだと?!」

 寝ていた男は飛び起きた。見ると確かに『石田散薬』と書かれた旗が土手に差しっぱなしだった。


 しまった……。と、男は頭をかいた。


「薬を売って下さらないなら結構です。昼寝の邪魔をしてすいませんでした」

 声をかけた男は立ち去ろうとした。

「おい、待てよ!」

 今度は薬屋の男がよびとめる。

「どうしました?」

「確かに俺が悪かった。薬だろ?売るよ」

 そう言って男は薬の入れ物をごそごそ探りはじめた。

「いいんですか?」

「旗が立ってればまだ行商やってると思われてもしょうがねぇ。俺が悪い。だから薬を売るんだ」

「……そうですか。ありがとうございます」

 そう言って男は懐から財布を取り出す。

「俺はな、こういう男なんだよ。……さて、いくつだい?」

「では、3つ下さい」

「3つ……あんた、道場かなんかの小間使いかい?」

「ええ……まぁ、そんなものです。昨日からですが」

 少々、歯切れの悪い男。

「そうか、ならもう一個つけとくよ。何かと薬は要るだろ」

 そう言って薬売りは4つの包みを差し出した。

「ありがとうございます。では、これで……」

 男は小銭を薬売りに出した。

「へい、毎度あり。すまなかったな」

「いえ、こちらこそ。ではこれで失礼します」

 ペコッとお辞儀をして男は去って行った。

 そして薬売りの男は、男の姿が見えなくなると旗を下ろし、再び横になった。


 これが、鬼と仏の出会いになるとは……二人ともこの時は知るよしも無かった……。





補足説明。

・石田散薬

土方家に伝わる薬。手間暇かけて作られるものだが、酒と一緒に服用するため効果は不明。(酒と飲むから効果があった…という説もある)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ