ハロー・ウィン!
「なんで、吸血鬼は黒い棺おけじゃなくっちゃ
いけないんだろう。しかも、内側は趣味の悪いピンク」
ああ、うんざり~つかれたーって顔をして、
一人の吸血鬼は空を飛ぶ。
ヨーロッパ中、「トリック・オア・トリート」と
子どもたちがお菓子をもらいにうきうきしている中で、
”当の本人”は、お目当てを探しに遠征。
~そーんなに、黒いのが嫌なら、どうだ、
エジプト行って来いよ!~
吸血鬼仲間にしては珍しい、考古学に凝ってて、
しょっちゅう砂漠地帯に行く友人が教えてくれた
エジプトへとフライハイ。
気のせいか、満月がジャッコランタンに見える。
それでも、いいお棺が見つかれば、
帰りには面白いと思えるだろうと思って
飛び続けた。
いわゆる観光地扱いのピラミッドじゃなくて、
比較的目立たない”盗掘されてなさそうな”ピラミッドを
見つけた。
めっけものには、鋭い目を凝らしてみると、
半分砂漠に埋まったところに中への入り口を発見。
飛びつかれてへとへとだけど、
なんとか入り口の石を吹っ飛ばして、
通路をとぼとぼ歩き始めた。
かび臭くて真っ暗な通路。
でも、吸血鬼には慣れっこ。
いつもの寝床はそんな感じだしね~って、
鼻歌が出てくる。
やっと突き当たったところで、指をぱちん。
かつての松明に火が灯る。
「うん、あ、あった!」
部屋の奥まった真ん中に・・・
博物館で見たことのあるものより、品があって、
キレイな装飾が施されたお棺があった。
金ぴか~、色んな宝石の施され様が、
僕の好みだ~
吸血鬼は、思わずそのお棺に頬を摺り寄せた。
ゴトっ
ちょっと重いものがゆすれた音がした。
「うん?」
コンコンと軽く拳でたたく。
と、
「ガッターーーン」
頬を寄せていたお棺の蓋ごと、吸血鬼は吹っ飛ばされた。
「ちょっと!人が気持ちよく寝てるのに、
なによーーーー」
中から勢いよくミイラ・・・というには失礼な、
女の子が出てきた。
「な、な、なんだ」
「なんだは、こっちの台詞!あんたこそ、なによっ」
「ぼ、僕はお棺を探しに来ただけで・・・」
「は?で、私のお棺を捕ろうとしたわけ?」
「いや、まさか中に君が・・・人がいる・・な」
ふと吸血鬼は、その中にいた女の子を下から上まで見た。
お棺=中身は干からびたミイラだと思っていたのだが、
今目の前にいるのは、ぼろけた包帯をまとった
みずみずしい女の子だ。
ちょっと、血を吸いたくなるような・・・
「君、ミイラだよね・・・」
「まあね」
「なんで、干からびてないの?」
女の子は、きょとんとしてから、大笑いし始めた。
「あ、あんた、どうせ”お決まりのお話”しか知らないんでしょ。
ミイラはね、全部が全部干からびてると思ったら
大間違いよ。
正確には”干からびっぱなし”だと思ってるのは、
間違いだわね」
笑われるは、今まで思っていたことが違うと
言われた吸血鬼は、呆然とした。
「私は、若くして亡くなって、とうさまがそれはそれは、
惜しんで”できることなら、若く美しく生き返り、
人並みの幸せを”と願って、最高の魔法をかけてくれたの」
吸血鬼はやっと「はぁ」とだけ言った。
「私は、その魔法が相当上手くいった様で、
とうさまが色々用意してくれた”活きて行くための品物”の
おかげでこうしていられるの」
楽しげにニコニコする女の子に、吸血鬼はこの部屋に感じていた
違和感を言った。
「でも、ここで君は一人だったんだよね」
そうさほど大きくない声で言ったのに、女の子はシュンとした。
「・・・そうよ、ここで本読んでたまにそっと外が見えるかなって
覗いて見たり」
床にペタンって座る女の子が、これ以上小さくなりやしないかと
吸血鬼は妙な心持がした。
「ねぇ、外には出れないの」
「出れなかった、でも、あなたが入ってきたから、出れると
思う。だって、とうさまが”いつかお前をちゃんと迎えに来れる
男が外からやってくるだろうからね”って言っていたから」
そう言って笑う笑顔が、まだうれしさとは程遠い。
吸血鬼は思わず、抱きしめていた。
「僕と行こう」
女の子は、小さく「うん、でも」と言った。
「少しずつ、光になれないと・・・だって1000年以上、
外に出ていないもの」
「そうか・・・じゃあ、僕がこれから、ここへ来るよというか、
住む!」
「え?」
「だって、君のお棺気に入っちゃったし」
照れくさそうに笑う吸血鬼に、やっとミイラの女の子は
楽しげな声をあげて笑った。
それからかれこれ5年経って・・・
忘れかけそうな黒い森の影色の城に、やけに陽気な風を
封じた手紙が届いた。
屋敷の主は、ことさら眉をひそめてその手紙を読んだ。
「なになに・・・『とうさん、僕は今エジプトにいます。
やっと気に入ったお棺を見つけました。
ついでに、お嫁さんも見つけて、この前ふたごの男の子が生まれました。
かわいいもんです。足が達者になったら、連れて帰りますね。
ちょっと乾燥している空気には、ときに辟易しますが、
楽しくやってます』とな。
はぁ、あの子は昔から変わっているとは思ったが、
あんな日差しが強くて、乾燥のきついところにいつくとは」
飽きれて、暖炉の火にくべようとした手紙を
別の吸血鬼が拾って、「いいじゃないですか」と言った。
「彼がほっとできるお棺と家族が見つかったんですから」
「それにしても、はてどんな嫁を娶ったのやら」
呆れる父親に、手紙を手にした吸血鬼は、ただただ微笑んでいました。
エジプトに居ついてしまった吸血鬼は、
今日もピラミッドの上でサングラスをかけて日光浴、
奥さんの”ミイラ”は子どもたちにお乳をくれながら、
「お昼を買ってきて~」とダンナに声をかけてます。
ダンナは、悠然と黒い翼を広げて、
街へ、カイロのフライドチキン屋へ出かけるのです。
今では、お棺よりも奥さんの膝枕の心地が、
たまらないようです。
全くもって、この時期ならではの行事?から、
思いついたことを、思いつく先から書いてみました。
稚拙で、どうもいかんなと思うところもあるかと思いますが。
ただ、こんなこともあっていいんじゃないかと描いてみました。