異世界での思惑3
キクカの心臓が、一つ大きな鼓動を打った。
世界を救う事。
その方法がどうであれ、それはインテュバルの未来を守るという事。
――何を考えて生きているの?
キクカは、いつか授業で経験したディスカッションを思い出した。
グループごとに主張を戦わせる。
双方の意見を、主義主張をよく理解しなければならない。
「あの」
「はい、なんでしょう」
おずおずと手を挙げて発言するキクカに、サラへは笑顔のまま先を促す。
「あの、もしあたしが更科君を説得したら、殺さないでくれますか」
「……どういう意味かしら?」
「更科君は、あなたたちから逃げ切って内戦を終わらせるという契約をしているんですよね」
「サラシナクンって、王子の事?変な呼び方ね。まぁ、そういう契約らしいわね」
「もし、この契約が成立したとしても、あたしが説得してここの王子様に統治者の立場を譲るように言います!」
「なぁに?あなた私たちの味方になる気?」
味方。
そう言われて少し困惑した。
「だって、その方が被害が最小限になりませんか」
「被害ってあなた……」
「王様が交代する事で何かが変わるかもしれないのなら、やってみてもいいかと思って」
「……安易ねぇ」
サラへはため息をついた。
だが、その表情は笑っている。
「いいわ、ムルヒの王子が戻らなかったらそれも交渉手段に入れてみましょう」
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ラフテルは、国の要人たちを集めていた。
王子の帰還を知らせるタイミングをみてのことだ。
昔王子を逃がした事を知らないものも含め、室内には10名ほどの大臣や長官が集まっている。
城内に戻ったアヅマは、ユーキとともにラフテルの部下に案内されその部屋に入った。
「うわ……」
思わずアヅマの口から声が漏れる。
見覚えのある顔がそこに並んでいる。
アヅマの出現に、一部の者たちは表情をこわばらせた。
「長官……これは一体」
ユーキも怪訝な態度を隠さない。
「王城が襲われたのだ。我々が一丸とならずして事は運べぬと理解してくれ」
ラフテルがアヅマを部屋の前に誘導する。
「一同、お集まりいただいたのは他でもない。今回の反王党派の急襲について対策を講じる為だ」
「……内務長官、その者はまさか……」
一同の視線を集めながら、アヅマは居心地の悪さを感じた。
「もうお分かりの方もおられると思うが、この方は王子である」
ざわりと。
言葉はなかったが、それぞれの息遣いが動いた。
「まずは話を聞いてほしい」
ラフテルが噴き出しそうな場の雰囲気を抑え、さらに続ける。
「10年お姿を隠されていたのは承知の事と思うが、今日王城を襲ったムルヒの者を退けられたのはほかならぬ王子である」
――いや、ユースだし。
アヅマはそう思ったが、黙ってラフテルの言葉を聞き、集まる視線に耐え続ける。
「さらに重大な事は、王子が内戦を終わらせる”契約”をしたという事だ」
「ラフテル!」
会場に緊張の色が増し、さすがにアヅマも声を上げる。
まだ話していないが、自分が結んだ契約は、ムルヒ家とだけのものの可能性が出てきたのだ。
反王党派全体の意思とも思えないその契約が、どこまで履行されるかも不透明になっているという推測を、まだラフテルには伝えられていなかった。
「すまない、みんな。俺は勝手な契約をして、結果城を壊すことになってしまった。それをまず謝らせてほしい」
アヅマはまず深く腰を折った。
その間に、なんと言えばいいのか頭を整理する。
そして、契約の内容と、庭に拘束しているデュラの事、そして契約はムルヒとの間でのものでしかない事を伝えた。
首脳陣たちがざわつく。
王子を「避難」させた事情を知る者たちの中には、ラフテルに視線を送る者もいた。
「ひとつ質問をよいかな」
一人が挙手する。
「王子の話によると、反王党派はムルヒの暴走を知らぬ可能性があるな?それで事は決着すると思えぬがその時はどうなさるおつもりか」
「いや、知っていて暴走させているのかもしれんぞ」
別の大臣が割ってはいる。
「契約の履行は絶対だ!ムルヒに反王党派をまとめさせれば良い!」
さらに別の声もあがる。
「待ってくれ!」
アヅマが声を張り上げた。
「俺はまず契約を守るためにあと1日半逃げ切る!」
「……そのあとはどうされるおつもりか?」
静かに、最初に質問した大臣が言葉をかけた。
「あなたが王になって、世界を救うというのか」
アヅマを異世界に逃がした事実を知るその者の発言が、アヅマが王になれない事を暗に認識させる。
黙る王子を見て、大臣は続けた。
「聡明なあなたには似つかわしくない、急ごしらえの契約をされたものですな。世界の英雄になりたかったのか?子供の考えだな」
「テラルバッハ殿!言葉が過ぎますぞ」
ラフテルが制する。
「ラフテル長官、まずは王子が契約を履行されることは良いでしょう。我々はそのあとの事を考えるのが筋ではないか?」
「内戦を終結させることができたとして、それから?話し合いか?その調定も手を回さねばなるまい」
「そうだ!王政府としての方向性を固める必要があるぞ」
それから、各大臣たちはそれぞれに意見を言い合い、場が乱れ始めた。
ユーキがアヅマに耳打ちする。
「……どうする?」
「政治の話は、当面彼らに任せるしかない。まさか、こんな形で契約の事を話す羽目になるとは思わなかったからな」
「ああ、それに俺はお前に聞きたいことが他にもある。あとはみんなに任せるって言ってここを出よう」
「うーん、聞いてくれるか、この状況で」
アヅマは頭の痛くなる思いで、ラフテルをつついた。
「ラフテル、すまないが少し休みたい」
「これは失礼しました。この場は私が……」
「ごめん、頼む」
そういうと、アヅマはユーキを伴って会場を後にした。




