異世界での過去②
「私ね、研究者になりたいの」
二人で過ごす時間が多くなって、半年ほどが過ぎたころ。
彼女は唐突にそう宣言した。
折しも、世界崩壊の識者見解が発表された翌日の事だった。
「世界の崩壊を止めたいの?」
少年は、少女の言葉の理由をそう解釈した。
世界の崩壊を止める責任は、世界の統治者にある。
統治者の息子である自分も将来的にはその重責を負わなければならない。
「何を研究するつもり?」
世界崩壊の原因は、偏りすぎた資源利用に加え、その再生スピードが追い付いていないことにある。
環境保護には大きな利権が絡む。
それに、すでに研究者がごまんといる世界だ。
では新たな資源利用の研究か、技術の革新か。
一言尋ねる間に、彼は彼女の答えを類推した。
「高次元移動の研究よ」
「え?」
思わぬ回答に少し戸惑う。
「宇宙にでも出ようってことかい?」
現在も、太陽系内に小規模の宇宙ステーションと居住可能な衛星基地はある。
また、建造しようと思えば移住船団もあと200年のうちには完成するだろう。
だが、どこへ移住するのか。
もしくは移住先も定まらぬまま移住船団で宇宙を漂流し続け、その間に地球環境の改善を行うのか。
現実味を帯びない夢物語だ。
「あら、何も星間航行だけが高次元移動の活用場所ではないわ」
「なんだって?」
そこで初めて、少年は前世界への移住という少女の夢を知った。
少女、フェレン・ミーナが語った夢は、両親の影響が強い。
技術開発局に籍を置く彼女の両親が、その現実性を語っているという。
テラフォーミングしなくても良い住環境、そして高度な生活水準を持つ人類が生活していた歴史のある第3次世界。
「なぜ、第3の地球なんだ?」
「今の私たちの生活とほぼ変わらないからですって」
確かに、第4、第5の地球では人類の繁栄は限られたものでしかなかったとの調査結果は学んでいる。
その環境下で何十億人もの新人類が、これまで同様に生活できるとは限らない。
「しかし、多くの人類が前時代にいきなり現れればあちらへの悪影響もあるとおもうけど?」
「そこは計画的に、よ」
発言の子供らしさに、少しおかしくなった。
「あなたはどう思う?」
「……」
とても危険なことだと思った。
技術的な問題だけではなく、それは侵略にも等しいのではないかと。
自分が王だったら、絶対に許可できない。
まだ宇宙でさまようほうがマシだと思える。
崩壊は200年も先の話であって、今の自分たちがどうこうなるわけではない。
「私たちの子孫は、私たちが守らないと」
その時はまだ、少女の夢物語が大きな事件の嚆矢だとは気付かなかった。