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異世界での過去①

大地の守護者で、世界の統治者である王には二人の王子があった。


兄は、次代の統治者たるべく教育を施され18歳で正式な後継者となった。

生活を支える科学技術への関心が高く、その方面の専門知識も多く学んでいた。


弟は、期せずして生まれた為物心が付くころまでは世間に発表されることなく育てられた。

ただし、数理を教えれば飲み込みが早く、歴史を教えればただの1回ですべてを覚えた。

一時は兄より優秀ではないかと周囲も期待したが、王は弟を世に出すことをためらった。



弟が世間に広くその存在を知られるようになったのは、王妃が崩御したことがきっかけだった。


兄13歳、弟4歳の時である。




兄もこの時初めて弟の存在を知ったが、同じ城内にいながら二人が会うことは許されなかった。




「ねぇ、あなた弟がいたの?」


そう問いかけてきた少女の髪は、太陽の光に透けて桃色に見えた。


「……そうみたいだ」

「そうみたいって、あなたも初めて知ったってこと?」


学校の中庭。

木陰で電子工学の専門書を読んでいた少年は本の文字列に視線を戻しながら頷いた。


「じゃあ、会ったこともないの?」

「そう」

「そっか。残念」

「何がさ」

「どんな子なのか、教えてほしかっただけ」

「……興味があるの?」

「あら!だってあなたの弟でしょう?」


少女の答えに、少年は不思議そうに頭を傾けた。


「なんで?」

「ふふ、私、あなたに関する事だったらなんでも興味があるわ」


その時少年は、少女の出自を思い出す。

代々学者家系である少女の両親は、常々王室サロンへの参加を願い出ている。

つまりは、自分たちの権威付の為に王室との縁を結びたいがまだそれほどのレベルではない事を意味した。

一定以上の研究成果があれば、サロンから声がかかる。

それがない為に、娘を送り込んできたのかと邪推した。

同じクラスで学んではいたが、少女とはそこまで親しいわけではなかった。

それが、弟の存在が知られたことできっかけを与えたのかと思った。


「本当はね、お母様から言われていたの。あなたに不用意に近づくなって」

「なぜ」

「あなたも知っているのではないの?私の両親が熱心にサロンへの参加を願い出ているのを」

「……」

「娘まで利用して王室とコネを作ろうなんて、そんな恥知らずな親だと思われたくないって」


少年は、彼女の言葉がどこまで本当の事が測り兼ねていた。


「私、フェレン・ミーナ」

「知っているよ」

「もう!そんな冷たい反応はよしてちょうだい!」

「……それで?」

「私、お母様には悪いけど、個人的にはあなたと仲良くなりたいわ」



そう言って、桃色の髪を輝かせながら少女は笑った。


少年の記憶の中で、最初に残る彼女の笑顔だった。

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