異世界と現実の間4
恭介の日常は、静かなものになった。
若い高校生失踪のニュースはまだ周囲をざわつかせ、あることないことがうわさされてはいたが、その真実を知る恭介の心をざわつかせるものではなかった。
3日が過ぎた。
自室の作業机に向かい、電源の入っていないパソコンを見つめる。
机の端には、刊行された最新刊の見本が積み上げられている。
表紙は主人公フェレン・ミーナとユースミカエル。
ティーンズ向けの線の細い、柔らかな配色デザイン。
そっと。
指の腹で表紙をなでる。
アヅマの話す異世界の逸話。それにより、自分の記憶も鮮明なものになっていった。
最初ぞくりと背中を這っていた悪寒も、小説を書き始めるころにはなくなっていた。
自分の記憶と気持ちを落ち着けるために文字にした。
「フェレン・ミーナ……」
彼女の名を呼ぶ。
時空転移装置の実験中だった。
装置開発の即時停止が求められたにも関わらず、反王党派と技術者たちは最終実験を実行しようとしていた。
実験は、成功と失敗、二つの相反する成果を残す。
『私は、この技術で必ず人々の生活を守るの』
自分と、自分たちの研究を信じて権力に逆らった彼女の姿と声がよみがえる。
最後に見た姿。
「生きているのか……」
この世界に流れ着いて、違う空間で生きて。
アヅマが向こうの世界に戻ったと聞いたときも、今は何もできないと思った。
自分ではなく、アヅマを追って敵が来たという事実がある限り、今あちらの世界で重要なのはアヅマの生死であって、自分ではない。
世界を救うことも、内戦を止めることもできない。
ただ。
世界よりも大事なものがあった。
早季子は放課後の保健室に一人たたずむ。
第3の地球に来て、初めて時空転移装を使った。
この装置の難点は、双方向で情報の確認ややり取りができないという点だ。
最初にこちら側に来たときも、本当にあの人が流されてきて生きているのかという確信もなかった。
装置が順調に動き、戻ることができるかも不明だった。
しかし、追手が来た。
追手を差し向けることができるくらいに、装置は調整され精度を上げているという事だ。
賢い王子がインテュバルに戻る決断をするのは早かった。
もし、王子が5日後も戻らなければ。
早季子はすでに決意を固めていた。
「あの方を力づくでも連れて帰る」