異世界での葛藤6
地下の空気はひんやりとして肌に吸い付くようだった。
微かに水の流れる音がする。
しっかりと石で補強された地下道は、アナテイシアが祭事に利用する聖域につながる。
守護者としての慣例で、毎日の一定時間をここで過ごす。
行き止まりに据え付けられた鏡にアナテイシアの姿が映ると、それはゆっくりと透明になり見えなくなった。
通路の先に広大な空間が現れる。
中央には地上から差し込む光を浴びた小さな池があった。
アナテイシアはなんのためらいもなく自然な動作でその池に身を沈める。
浮力でふわりと彼女の衣装が水面に広がった。
寒さのせいではない。
小刻みにアナテイシアの肩が震える。
――ああ、王子。
契約の効果とキクカの言葉に偽証や誤認がないとすれば、王子は二つの元素を操る力を持っている。
それは大地の守護と水の守護に他ならないと推察できた。
そう推理させる根拠となる事件を、彼女は知っていた。
また、王子自身も自分が大地だけでなく水の守護を持つことを認識しているのだと知り、愕然とせざるを得なかった。
――もしこのまま王子が王位を継承したら、この世界はどうなるのだろう。
世界は、大地の守護者が中心となり、水と光が補助しあって支えている。
元素操作を生活に利用するようになって、何度か水と光の属性にある者が世界を統治したこともあったが、いずれも世界のバランスが崩れた。
理由はいまだに研究中ではあるが、一説には世界を構成する元素の主は大地であり、いわば多数決的な作用が働いているとされている。
もし、大地と水、二つの元素に属する人間が世界の統治者となったら。
世界は、より安定するのではないだろうか。
しかし、そういった事例がないのは、異なる属性を持つもの同士での婚姻が禁止されているからだ。
元素は交わってはならないし、交わるものでもない。
元素利用の初期段階で制定された古い法律だったが、特にこれまで改訂されもせず、大きな問題ともならず執行状態のままだ。
特に、別元素の者同士が婚姻する際はどちらかの元素属性に移るか無属性となるのが通例となっていた。
だから。
王子が二つの元素に属しているという事実は異例であったし、あのスキャンダルが要因だというのはすぐに推察できた。
王子が、世間には秘匿され続けている王の密通事件の落とし子だという、限りなく事実に近い推察を。




