異世界と現実の間3
「王子がこの世界に逃がされたことを、反王党派がかぎつけて追ってきました。王子は力を使い敵を退けました」
早季子はかまわず話を進める。
「ご存知かとは思いますが、この世界であの力を使うことは地球にどんな影響が出るかわからない……」
「確かにね。無理に使えばこの世界をゆがめてしまう。歴史なんて無視してものすごい勢いで世界が滅ぶかもしれない」
「王子は、こちらへ逃がされる前にそれを禁じられました。私を楔として」
「……まだあなたが生きているという事は、その約束は継続中ですね」
「ええ。しかし、その場に偶然彼女が、木場さんがいたのです」
「ははぁ……彼女を”楔”にして新たに”約定”を交わしたわけか。まさか口封じに殺すわけにはいかないしね」
「王子が交わした約定は、力を使ったことを一切口外しないかわりに、戦争を終わらせる手段を提示し実行するというもの」
「で?アヅマはなんて?」
「王子が5日間逃げ切ったら無条件和睦。逃げ切れなかったら統治権は放棄すると」
「それは大袈裟な鬼ごっこだな」
なんのひっかかりもなく進む会話。
早季子は確信する。
三月はほとんどすべての事を思い出しているのだと。
「二人が失踪する前の日、アヅマが僕に言ったんですよ……。約束を果たしに行くって。彼女は約定の禁を暴く、アヅマにとっては最も危険な人物になったわけだ」
「……あなたは本当に、どこまで思いだしているのですか……」
「自分が何者であるかは、小説を書き始める前に分かっていました」
「そんなに早く……なぜ打ち明けてくださらなかったのですか」
「まさか!そんなことをしても意味ないでしょう?」
「ではなぜここに来て下さったのです」
早季子の問いに、しばらく三月は無言だった。
「装置はここにあるんですね?」
「それは、我々に力を貸していただけるということですか」
三月の柔和な表情に影がさす。
「僕は今更何もできない、とさっき言いましたよね?」
「せめて!王子の力になってくださいませんか!」
「僕は、アヅマの生活を見ておきたかっただけなんです」
それは拒否の言葉。
「僕にできることがあるとすれば、あの子がそれを望んだ時だけですよ」