異世界での真実2
キクカの目にも、それは致命傷に見えた。
だらりと垂れるカルバの腕。
地に落ちる血液。
肺だけが大きく動く。
アナテイシアも肩で息をしていた。
それだけ力を消費したということだ。
美しい頬を汗が滑っている。
――怖い。
映画やテレビで散々見てきたはずなのに、目の前にするとそう実感する。
全身が小刻みに震える。
心拍数が徐々に早まる。
ぎゅ、と目を閉じた。
――やっぱり、怖い。
あの路地裏で見た暴力的なシーン。
緑の少年が命を落としたあの日。
それぞれに思い起こされては、心がよどむ。
足元を伝う振動が変わった。
顔を上げると、男の周辺の地面がせりあがっていた。
アナテイシアから逃げるように上昇した大地から、男が立ち上がって何かを言い放った。
そして、そのまま土に還るかのように姿が消えてしまう。
「キクカさん、大丈夫ですか?強引なことをしてしまって申し訳ありません」
音が聞こえるようになったと思った瞬間、キクカを包み込んでいた水の柱が消えていることに気付く。
呼吸が苦しい気がした。
アナテイシアに応える気力が湧かない。
「カルバは逃げました。もう大丈夫です」
「……死んではいないの?」
「ええ、時間を稼ぐだけ稼いで逃げたようです」
アナテイシアの手がキクカの背を支える。
「一旦我が家へ帰りましょう?」
優しい声で、自分の身が案じられているのだと分かる。
キクカは首肯し立ち上がった。
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デュラの外套が風に舞う。
シンクーからティエラ家の機動船を使っていれば、王都へは四半日といったところか。
デュラの足が地を蹴る。
それは大いなる加護により彼の身体を高く遠く飛ばす。
速さは機動船に劣るが、峰も谷も楽々と越えられる。
王都へ到達するのは同時か、若干先回りができるのではないか。
頭の中で地図を広げ目算する移動距離は機動船の航路と変わらない。
無言のまま正面を見つめる。
この世界の未来を真に憂い、そして救うことができるのは自分達だという自負がある。
なんの為に技術開発局があの装置を完成させようとしているのか。
姿をくらませていた王子が「向こう側」に居たことが、王党派が装置を独占使用した事の裏づけではないか。
さらに、約定は交わされた。
王子を打倒できれば、移住計画の遂行は今より容易になる。
殺せと命じた父の顔を思い出し、デュラは鼻を鳴らした。