異世界での真実1
::::::
今まで、深く考えることなんてなかった。
学校から与えられるカリキュラムを淡々とこなすだけ。
数回のテストで標準点を取り、そつなく学校生活を送るだけ。
それで充分だった。
だから。
今自分の考えていることがどういう結果になるのか、まだ分からない。
結果がでてどうこうなるものなのかも。
それでも。
「あなたたちは、なぜ更科くんを殺そうとするの?」
キクカのその言葉は、カルバに怪訝な表情をさせた。
ヴュラ同様、言葉が通じないのか。
「あたしの言葉、通じます?」
恐怖で、声がうわずる。
膝も震えている。
ちゃんと言葉を発することが出来ているのか。
「************?」
「あなたには関係ございませんわ」
やはり、カルバの言葉が理解できない。
「アナテイシアさん……」
不安でアナテイシアを見上げた。
「どうやら、あなたの耳には彼らの言葉が届かないのですね」
「……はい」
アナテイシアに思うところがあるらしい。
落ち着いた声で「心配ありません」と囁いた。
「彼らが我が王子を殺そうとする理由は分かります。王子がいずれこの世界の王となる力を持っているからです」
「ああ?王となる力を持っているのはデュラ様も同じだ!」
カルバがそう叫んだ声は、キクカにはただの「言語」としか伝わらない。
「あの、あたし……更科くんからいろいろ聞きました!もし、更科くんが勝ってしまったら、この世界はどうなるの!?」
アナテイシアが眉間を寄せる。
それでも。
聞いておきたかった。
世界の人々を救うために移住を計画しているという反王党派。
移住計画に反対し、世界を調停しようとしている王党派。
移住された地球への影響を考えると、現地球人としてはもちろん移住してほしくない。
だが、移住計画がなくなればこの世界の人々は一体どうなるというのか。
「……ははぁん?まさかその女、楔か」
「え!?」
カルバのせりふでアナテイシアの身体が硬直したのがわかる。
「お前、俺たちとあの野郎が交わした約定を知っているんだろう?」
「アナテイシアさん!あの人なんて言っているの?」
カルバの言質に青ざめていくアナテイシアが、かろうじて通訳する。
「キクカさん、あなたは王子が交わされたという約定をご存知なのですか」
「約定……?あの、5日間この世界であの人たちの攻撃から逃げ切ったら、移住計画をやめてくれとかいう約束ですか?」
がくり、とアナテイシアが肩を落とした。
柔らかな髪が割れた地面に落ちる。
「なんということを……!」
今までに無いくらい苦しい表情でアナテイシアが声を絞り出す。
「女神様のその様子を察するに正解ってことか。まぁ、言葉が通じないってことはアタリだろうがな」
にやりとカルバが不敵に笑んだ。
「キクカさん、あとで詳しく聞かせて下さい。今はこの男を倒します!」
キッと唇を結び顔をあげたアナテイシアの瞳が更に真剣な光を帯びた。
大きく水柱が立ち上がる。
「きゃっ」
それはキクカを包み込んだ。
攻撃性は感じない。
ただ、音が遮断される。
「ふふ、良いもん見つけたぜ!俺にも詳しい話をして欲しいもんだな!」
カルバの斧が振り回される。
粉塵を巻き上げ、大きく旋回する。
途端、衝撃が走った。
アナテイシアが作り上げた氷の矢が、矢というには大きすぎる塊が天頂からカルバに落とされたのだ。
防御したカルバの身体が地面にめり込み、斧にヒビが入る。
容赦なく。
最大の力をもって。