異世界での休息3
「お前、何をした?」
アヅマが今まで何をしていたのか半ば理解し、それでも問わずにはいられない。
「技術開発局は、あの装置を半ば実用化しているってことだよ」
「何…?」
「俺は地球に匿われ、そして反王党派も俺を追って地球にやってきたんだ」
「まさか、衝突したのか」
「見付かっちゃったから」
「なぜあんな弱そうな女を連れてきた!過去の世界でおとなしくしていれば良かったものを」
激しく。
ユーキは憤りを隠さない。
「勘違いだったんだって…。俺の力を知った彼女が、やつらに狙われると思ったんだよ。いろいろ事情があるの!」
だだっこのように、つんと鼻を上向けていい訳をする。
「地球で戦うわけにはいかないし、こっちの方が都合いいかなって」
ユーキも、地球で「力」を使う危険性は承知している。
インテュバルのように、大地の栄脈を利用する技術のない第3の地球での影響は計り知れない。
「…まったく…」
ユーキは腕を組み、大きくため息をつく。
「詳しい事情は聞かせてもらえるんだろうな?」
「お前が、オバさんを預かるって約束してくれるなら」
にっこりと。
確信に満ちた笑みでアヅマはそう言った。
「…わかった。お前が何をしようと、あの女の安全を確保すればいいのだな」
「うん、ありがとう」
「お前が帰ってきた理由を聞いてもいいか?」
「うーん、ただ、この戦いに終止符を打つ時期かなって思っただけだよ」
「世界の情勢も知らなかったのにか」
「だって、俺が地球に逃げていても、なにも変わらないじゃないか」
「…なんのために王はお前を地球へ逃したと…」
「俺は、力を封じ俺の存在を隠すためだけに地球へ匿われたとは思ってないよ」
「なに?」
「この世界を救う方法が、あの世界にあったんじゃないかって思ってる」
「どういう意味だ」
「確かに、地球はテラフォーミングなしですぐにでも移住できる最高の星だよ。だけど、今までの歴史も技術も捨てて、おいそれと移住するか?」
「移住よりも世界の調停を行う方がはるかにコストもかからん。それは分かっているから意見の衝突につながり、こんな消耗的な戦いになっている」
「この世界を守りたいのは、父上も同じだと思うんだ…」
::::
その時。
青年は荒野を行くようなフード付きのマントを翻していた。
デバリーの東。
比較的温暖な気候の都市デバリーに、その格好は似合わない。
しかし、誰も彼を奇異な目で見るものはいない。
その"緑"の青年が何者なのかを知らない者が、この都市にはいないからだ。
ムルヒ家の嫡男、デュラ。
デバリーで最高の権力と資金力を持つ一族に、この都市の誰もが恩恵を受けている。
デュラの後を、馬のような一角獣にまたがった男が追いかけてきた。
「デュラ様、お供いたします」
男は獣から降りると、屈強な体躯を折り曲げひざまづいた。
ガシャリと、重そうに鎧が鳴る。
「お前と騎乗せよというのか?」
デュラは片方の口角を上げ、慣れた口調で男をさげすむ。
「筋肉だけのお前では心地よくもない」
「は」
低頭するだけの男に、デュラは続ける。
「来るならお前も大地に足をつけて歩け」
そして返事を待つことなく再び歩き始めた。
デュラの後を、男は黙ってついていく。
残された一角獣はかすかにいななき、男達の会話を理解していたかのように来た方へ帰った。
「カルバ」
「は」
「俺はこれからこの戦いに決着をもたらしにいく」
「は」
カルバと呼ばれた男は、自分よりもはるかに若い青年に、承知といわんばかりに短く返答する。
「お前の力は当てにせん。だが、俺は勝利する」
どこから湧き出る自信なのか、何に勝利するというのか、そんなことは問い返さない。
「この世界を守り、民を守るのは、王ではなく我がムルヒ家だ」