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異世界での旅路3

聖都・シンクー

水の結界に守られた、白亜の都市。

小説の通りならば、そこを治めるのはコアンマサリーの盟主と呼ばれるティエラ家。

さっき話題になった、ユースミカエルの一族だ。

「…ということは、もしかしてユースミカエルは水を守護に持っているとか」

歩きながら、キクカはぼそりと声にだした。

確か、大陸宗教の神は、大地を潤す水の神だったはず。

「あー、そうそう。ずっと考えてたの?ま、実際ユースじゃなくてティエラ家が、だけど」

足元が石畳に変わり、城門の大きさが目視でも実感できるようになった頃。

「なんか、あたし、初めて来た土地なのにこんなにいろいろ知ってるって、実はすごいんじゃないかしら」

変な気分だ。

海外旅行をする前に、パンフレットを一生懸命読んで観光地の勉強をしてきたみたいな。

「もしかして、ユースミカエルのモデルになった人がいるんじゃない!?」

その考えに行き着き、テンションが上がる。

「…今から会いに行く知り合い」

アヅマは、複雑そうな表情。

「え!ホント!?」

「オバさんって、本気でユースが好きなんだ」

「何、いいじゃない。そういえば、先生は誰が好きなんだろう」

「…多分、フェレン・ミーナじゃないかな?」

先生とは、深月のことだと理解し、答えを返す。

「あー、先生の好みって繊細でかわいらしい女の子なんだ」

「…多分。聞いたことはないけど、扱いが特別っぽいし」

挿絵にも口を出したらしい。

あとがきに書いてあった。

「更科くんがモデルにした人、いるの?」

「いや、女の子との付き合いってさ、王宮では滅多にないから…。ミーナは恭介の創作」

「へぇぇ」

そんな話をしていると、城門の目の前までたどり着いた。

キクカは疲れも忘れるほどの高揚感に包まれていた。

城門に見張りはいない。

それほどに、結界が信頼され、また機能しているという事だ。

「これ、どうやって開けるの?」

素朴な疑問。

城門には、重そうな金属の扉があった。

アルミのような色をしているが、高さがかなりあり、3階建てのキクカ達の校舎よりも高いように感じられる。

「ん?こうやって」

す、と。

アヅマが手を伸ばした。

大地と水平に伸びたその腕が、扉に触れる。

パチ。

静電気のような音がキクカの耳に届いた。

すると、目の前の城門がみるみるうちに透明になっていくではないか。

「す、すごい!」

「これは幻覚なんだ。シンクーは何者も拒まない。入る理由のあるものは、必ず入ることができる」

「悪い人たちも?」

「そう。でも、悪い人達が入ろうとすると、この扉は重く感じられるって聞いた」

キクカの疑問に答えながら、アヅマが苦笑する。

「何?」

怪訝に思い、見上げる。

「いや、悪い人って…語彙が幼いなと思って」

口元に拳をあて、小さく笑う。

「ちょ、何よー!」

「いや、ミーナばりに可愛いんじゃない?」

そして笑い続ける。

なんだか恥ずかしくなる。

ただ、キクカには「語彙」という単語の意味もわからなかった。



城壁の中に入ると、そこはヨーロッパのような街並みだった。

実際のヨーロッパを見たことのないキクカには、なんとなくそんな雰囲気、程度の認識ではあったが。

「フランス映画の世界みたい」

キクカのその感想を得て

「…どのフランス映画だろうね」

ひねくれた所見を述べるアヅマ。

さっきの”幼い語彙”が尾を引いている。

そんなアヅマの態度に頬を膨らませ、キクカは対抗して「全部だもん」と言う。

面白い遊び道具をを見つけた犬のような目で、アヅマはキクカを眺めた。

実際。

キクカの反応が面白くてたまらないのだが。

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