魔法が解けたら次はなにする?
「どうして!」
私の声が結界で密閉された空間に響く。
すべてが停止している。私たち魔法少女が作れる、敵と私たち以外、誰も傷つかない空間だ。その結界の中で、私と彼女は対峙していた。
私が魔法少女になって一年が過ぎた。
中学生になったばかりで右も左もわからなくて、背伸びして入った中学校では早くも数学につまずきつつも友達も少しずつできはじめて、悪くない毎日を過ごして人生って大体こんな感じなのかななんて達観しつつ、ちょっとした非日常を求めていたところだった。
横断歩道でスマホを見ていた女の子が赤信号になったのに歩き出してトラックに轢かれそうになっていたところを偶然助けて、そしたら小さいクマのぬいぐるみみたいなポンちゃんが現れて、私がその、なんていうか、『善の心』があって、魔法少女に最適だからなってくれって言われたんだよね。
アニメで見たことはあったけど、魔法少女って本当に存在するんだ。ってことはこのままトラックに轢かれたら異世界悪役令嬢転生ルートだったりして?
戸惑ったけど、私にしかできないことだって言われたから引き受けた。
すでに同じような魔法少女が私以外に二人いて、別に私だけじゃないんだってちょっと思いつつ、二人はなかなか良い性格で(悪い意味じゃないよ!)、三人は季節を一回りする間、日常でも戦闘でも一緒にいた。秘密を共有する三人は一年のイベントを経て、公私(?)ともに親友とも言えるくらいには仲良くなった。
だよね?
私は私で人助けをするのは悪い気がしなかった。
全部魔法少女としての私であって、認識阻害の結界魔法のおかげで私たちの存在のことはすぐに忘れてしまうし、そもそも変身が解けたら私だとわからないけど、まあ、あの姿をいつまでも覚えられて、しかも普段の私を見つけて指さされるのも、ねえ、ハズいじゃん。
最終的にもう一度春が来る前になんやかんやあって、私たちはボス的な、なんか魔王っていうか、そういう存在をえいやって倒して、ポンちゃんのいる世界が救われて、私たちの世界もついでに良い感じになって、私たちの魔法少女期間が終わった。魔法少女ってやっぱり一年で終わるんだ。
ポンちゃんと向こうの世界の女王様にお礼を言われて、魔法少女に変身するためのペンダントを返す段階になった。
三人のうちいつもクールな彼女は青いペンダントをポンちゃんにさくっと返して、じゃあね、私もう高校受験の準備しなくちゃだからって私たちに言って、背を向けて去っていった。
それがいつも通りのクールさで、惚れ惚れするくらいだったけど、あ、これ、もしかしたら明日から向こうからは連絡来ないやつじゃない?
ちょっとあっさりしすぎじゃない?
進路に悩むお前と親との喧嘩の仲裁とかしたじゃん、その恩を忘れたのかよ!
もう一人の女の子、いつも私とクールビューティ(離脱済み)の後ろに隠れていて、戦闘もほとんど支援担当で、私たちの防御力を高めたり、相手の魔法を防ぐための結界を張ってくれたり、戦闘中の簡単な傷を回復してくれたりしていた、その大人しい彼女がペンダントを持ったまま、ポンちゃんに渡す前に私の方を見た。
「ねえ、どうして魔法少女になったの?」
彼女が突然聞いた。
「ポンちゃんに会ったからだけど、人助けをするって気持ちいいじゃん」
「そう」
「そっちは?」
「私は、誰かの役に立ちたかった」
「同じじゃん」
「違うよ」
「どこが?」
「私は誰かのためにじゃなくて、誰かの役に立っているっていう自分が好きだったの」
「ふーん」
違いはよくわからないけど、なんで今さら言い出すの、とは思った。
「それでね、私、みんなの役に立って、誰がどんな願望を持っているか、それがわかるようになったの」
それで?
「次は、あなたの役に立ちたい!」
冒頭に戻る。
彼女は黄色いペンダントを握りしめ、ポンちゃんに返さずに変身をした。
とっさのことで何が何だかわからなかったけど、ポンちゃんは彼女に吹き飛ばされてしまった。
ポンちゃんが私の名前を呼ぶ。
私はそれに応じて赤いペンダントを握りしめて変身をした。
変身が彼女の拳に間に合って、私もポンちゃんのところまで飛ばされた。
身体が痺れる。
ギリギリ怪我をしていない。
あのまま彼女の攻撃を受けていたらどうなっていたかわからない。
彼女は素早く私に近寄ってまた私のお腹を殴った。
かなり痛い。
彼女は支援要員だったじゃん、どこにこんな力が、と思って、彼女が何をしているのかわかった。
彼女は敵の魔法を防ぐことができる結界を張れる。
その結界を、彼女は右手にまとっているんだ。
魔法を防ぐ能力があるなら、それで私を直接攻撃ができる。
いつそれに気づいたのか、それを彼女はおくびにも出さず、支援を続けていたのだ。
でもどうして?
「何してるの、やめて!」
私が彼女に向かって叫んだけど彼女は首を振った。
「私はあなたの望みがわかる」
「何を言って……」
「あなたは魔法少女をしている間、ずっと生き生きしていた。私がうらやむくらい。私は、そんなあなたが好きだった。それで私、わかったの。あなたは人助けなんてしたいわけじゃない、魔法少女として敵を倒したかっただけなの!」
「そんなわけ……」
なかったか?
本当に?
ドキリとする。
魔法少女である自分を特別に思っていなかったか?
それを失うことを残念に思っていなかったか?
どうだ?
はっきり否定できるか?
いやそれを言ったら彼女もそうじゃないか?
自分の願望を私に転嫁しているだけじゃないか?
私の頭がグルグルしているところに彼女は立ちはだかる。
彼女は笑っていた、まるでさっき倒した魔王みたいな笑顔だった。
「さあ、一緒に魔法少女を続けましょう、永遠に、永遠に!」




