サイケデリックパーティー
空を覆うオレンジ色の夕焼け空が終わり、空は暗く、深い青色になってきた。夜の始まりだ。コオロギが鳴き、月が輝いている。駅前の広場は人気がなくなり静かだ。いったい私たちは何をしているんだろう。
「このままでいいのかな。こんなことをしていて大丈夫かな。」、アズが言う。
「このままでも仕方ないだろ。これしかないんだから。どうせオレ達には自販機の前でたむろするくらいしかできない。タバコを吸って不良じみたことしてるしかないだろ。」、ユウが言う。
私たちはこの広場に来てもう長い。小学生の頃から来ている。小さかった頃は遊具でみんな遊んでいた。それがだんだんと年を取り、高校生になってしまった。このまま卒業してどうなるのだろう。自分は小学生の頃とほとんど変わっていない子がする。年を取るに連れて、私たちは家に変えるのが遅くなった。意味もなく夜の広場の自販機の前で集まるようになった。街灯に群れる羽虫のようだ。
「こんなところにいても仕方ないんじゃない。寂れた郊外のニュータウンなんて。世界から取り残されているみたい。こんなところで育ったらグレるしか選択肢はないよ。こんなところ、視界に入る人工物はすべて醜悪よ。」。私は言う。
「一理あるな。そうしたら東京に行こう。都心の夜を楽しもう。今から行こう。電車に乗ればすぐだ。」、ミキが言う。
「そんなこと言っても、お金がないよ。」
「そんなん盗っちまえばいいだろ。おやじ狩りだ。どうせこんなところだ。それらしくいこう。お、丁度いいところに獲物が来た。
ミキが獲物の正面に立った。獲物が立ち止まる。私は獲物の真後ろにつく。獲物が驚いて固まる。そこでアズが獲物の財布を奪う。思いっきり引っ張られて獲物は転ぶ。ユウが獲物のかばんから財布だけを抜き取る。財布からお札を抜き取ってあとは、散らかす。獲物は自分の荷物に気を取られている。私たちは思いっきり疾走する。何度か気持ちがいい。ありえないくらいすんなりできた。もうここには戻っては来れない。
「財布の中けっこう入ってるじゃん。これならしばらくは心配ない。」
私たちは電車に乗って下北沢に行った。まだまだ夜はこれからだ。そこは人で溢れていた。享楽が街全体を覆っていた。私たちが歩いていると何処かから音楽が聞こえてきた。私たちは無言で歩いた。きっとみんながその音に引き寄せられていた。人々の歓声が聞こえてきて、感じたことのない熱気があった。地下の扉は開けっ放しになっていた。私たちは飛び込む。
入口の人に金を払い中に入った。そこは物凄い音と熱気だった。全身から汗と鳥肌が出まくった。歌っている人の声はどこまでも届くようだった。強烈な生命力を感じた。自分の中から湧き出してくるものがある。ユウはもう大声で叫んでいる。
「アイツもうあんなとこにいる。気持ちは分かるけどな。本当にすごいところだ。こんな場所が存在していたなんて。」
私は思い切り歌って、叫んで、踊った。私たちは全力で何かをしていた。私たちの方に男が来た。店の人と話している。葉巻を吸って、高級そうなスーツを着ている。何か持ってきた。
「よかったらこちらを。楽しんでいただけたようなので差し上げます。とても効きますよ。純度がとても高いので。一部の人にはエーテルとも呼ばれています。幻の品というような意味を込めて。ま、ただのコカインなのですが。熟成させたものでめったに出回っていないんです。」
私たちはおずおずと受け取る。男は使い方を説明している。男は嬉しそうに語る。男の声が何となく耳に入ってくる。不思議な感覚だ足元がふわふわするような。いや、まだ何もしていない。結構重たい器具に入っている。ずっしりとしている。
「やっぱり都会は違うな。すごいもんがあるんですね。オレ一番乗りしたい。」、ユウが言う。
「すんげぇえぇぇぇえぇえぇええええええええ、なんじゃこりゃぁああああああああ。」
麻薬をやったユウは叫びだした。ユウはフラフラで支離滅裂なことを喋っている。目がギラギラとしている。手を突き出したり、地面を思いっきり蹴ったりしている。
「気に入っていただけたようでよかった。常連のお客様に配っているモノですのでまた来ていただけたら、差し上げます。実はもっとすごいのもあるんですよ。」、男は言い、去った。
「さて、せっかくだから僕たちもやるか。もうここに来てしまった。後戻りはできない。こんなことはとっとと済ませてしまわないと。これからは自分たちでやっていくんだから。このままじゃ生活できない。修羅場だってどれだけ降りかかるか、おそらくこれからの自分たちには無数にあるだろう。考えたくもない。今日は忘れよう。せめて今日だけは。これで。」
そんな事言われても、私には抵抗があった。でもヤッた。やるしかなかった。いったいこれからどうなるのだろう。そう思いながらヤッた。
それは凄まじいモノだった。天と地がひっくり返るような。今までには経験したことがなかった。直接、脳に刺激が働きかけてきた。次から次にいろいろなことを思い浮かべた。一瞬を永遠に感じた。その一瞬で無限に頭が働いた。全部吹っ飛んだ。自分の中にある感情や思いが。のしかかるようにしてあった何かも。
夜が終わろうとしていた。気がつくと時間がしっかりと経っていた。私たちは店の前の路上で寝ていた。頭ははっきりとしていた。体は軽かった。何でもできるような気がした。でも何もできないということも分かっていた。とにかくどうにかしなければならない。私たちで。今はまだ抜け出しただけだ。ただそれだけ。
「ギターだ、ギターをやろう。いやまずギターを買おう。とにかくなんでもいいからギターだよ。ギターなんだ。」、ユウが叫びながら起きた。まったく、何を言ってるんだコイツは。いや、コイツめ。




