……本当は、最初から――
「ほら、ソレア。こっちこっち!」
「ははっ、今日も元気だねエルマは」
麗らかな陽光が優しく照らす、ある朝のこと。
キラキラ輝く澄み切った小川で、足をピシャピシャさせながら大きな声で手招きする私。視線の先には、陽光に溶け込む優しい微笑でゆっくりとこちらへ近づく清麗な男性の姿。
さて、そんな美男子たる彼はソレア――緑豊かで穏やかなこの街の市長であり、その寛厚篤実な人柄からみんなから尊敬を受けている。……まあ、みんなと言ってもごく一部には嫌ってる人もいるみたいだけど……でも、どこにでもいるしね、そういう人達って。
あれは、五歳の頃――両親に捨てられ孤児だった私はある日、ソレアと出逢い保護され育てられてきた。その辺りの経緯は少々複雑なので、ここでは割愛するとして……ともあれ、それからはや10年――私は、15の歳を迎えた。
ところで、あれ以降――捨てられて以降、両親に会うことはまるでなかったけど、全く以て寂しくなかった。むしろ、何処にいるかも知れない二人に心から感謝しているくらいで。だって、そのお陰で私はソレアと出逢い、こうして大切に育ててもらえたのだから。
――最初は、親愛のようなものだった。例えば、優しいお父さんに向けるような……きっと、そんな類の好意だった。だけど……いつしか、その想いが別の感情に代わっていたことに気付いて――
……いや、違うのかな? そもそも、それまで気付いていなかっただけで……本当は、最初から――
…………だけど。
「……ねえ、ソレア。まだ忘れられないの? あの人のこと」
「……いや、そういうわけじゃ」
ある昼下がりのこと。
窓からそっと陽光の差す穏やかなダイニングにて、ソレアお手製の美味しい昼食を嗜みつつそんな問いを掛ける。何のお話かと言うと、彼の想い人たる女性――恐らくは一度会っただけの、名前も知らない女性についてのお話で。
ところで、この些か唐突にも思えるこの質問には一応の理由があって。と言うのも……これでも、10年もの長い付き合い――今、その瞳に誰が映ってるのかくらいある程度は察せられて。そして、それは彼の反応からもあながち的外れではなかったかと。
ただ、それはそうと……ほんと、早く忘れればいいのに。たった一度会っただけの……それも、今度会えるかどうかも分からない女性のことなんて、早く忘れればいいのに。……私なんて、こんなに近くにいるのに。




