第8話 ハビタス
やって来た石柱の根本には、身長2メートルはある巨大なパフディがいた。
頭や羽根の羽毛は褐色だが、目元が少し赤く、お腹や足に生えた毛は白くてふわふわしている。
ライチョウ系のパフディだろうか。
たった一人で10メートルはあろう四角い石柱を担ぎ、こちらにやってきている。
後ろには通常サイズのパフディたちがぞろぞろとついてきて、
「ぽふだい!」
「ぽふだい!」
「えるでぃ・ぽふだい!」
と、お祭りみたいな声をあげていた。
わっしょい、わっしょい、じゃなくて、ライチョウパフディの名前を呼んでいるようだ。
堂々たる足取りを崩すことなくやってきたライチョウパフディのポフダイは、そのままゆっくりと石柱を降ろして、谷の間に橋を掛けた。
「ぽふだい!」
「ぽふだい!」
「えるでぃ・ぽふだい!」
パフディとしては桁違いの体躯に腕力、パフディの親分的な存在らしいポフダイは重々しくもぽふぽふした声で、
「ぽふたん」
と呼びかけてきた。
「ぽこだん」と告げたパファンの先導で石柱の橋を渡っていくと、パフディたちが「りゅみ!」「りゅみ!」「ぺる!」「ぺる!」と声をあげて群がってきた。
橋の向こうに残っていたガボガは「Gabogabo」と声を出し、目を警告灯のように黄色く光らせると背中の翅を広げて羽ばたき、激しい風音を立ててジャンプし、谷を飛び渡ろうとした。
飛行用、というよりは大きなジャンプができる、くらいの翅らしい。
ぎりぎり届かない、くらいのところでガボガは高度を失って落ちていったが、そこまで計算済みのようだ。
「ガボガ!?」
「ぽふ!?」
「ぽふふ!?」
「ぽ、ふ……?」
慌てて谷を覗き込むと、ガボガは谷の斜面にべったりと張り付き、六本足で這い上がって来ていた。
初見のパフディたちにはだいぶホラー寄りの絵面だったらしい。
「ぽ、ぽふ!?」
「ぽふぽふぽふぽふっ!」
パニック気味の声をあげて後ずさっていく。
そんな中、ひとり前に出たポフダイは崖から突き出したガボガの角をがっしりと掴むと、凄まじいパワーで谷の上へと引き上げた。
ガボガの目の色が警告モードの黄色から緑に変わり、パフディたちは再び「ぽふだい」コールを始めた。
片方の翼手をあげてコールに答えたポフダイは再びこちらに目を向けて「ぽふたん」と告げて、再び石柱を担ぎ上げた。
パファンにも促されて歩き出すと、前方に、薄い緑のドームが見えた。
樹高50メートル以上のトネリコの大樹。
半透明の葉が、薄い被膜のように見えているらしい。
ところどころに見える白いヤドリギのようなものはパフディの家屋のようだ。
樹上には鳥の巣や巣箱風の家屋が多いが、周囲の斜面にも樹皮の貼られた小屋が周囲の木々に溶け込むように立ち並んでいる。
ここがハビタス。
パフディ族の集落のようだ。
途中で石柱を降ろしたポフダイたちと一緒に緑のドームに入る。
半透明のトネリコの葉は、発光する性質があるらしい。
木陰に入るとふわりと明るくなった。
小さな家屋が並んだ通りを歩いていくと、トネリコの根本に、他の建物よりふたまわり大きな建物があった。
サイズが大きいのでポフダイの住まいかと思ったが、そういうわけでもないらしい。
使われていない建物なのか、生活感のようなものがないのと、建築様式が他の建物と違う。
パフディの住居というよりはクラフトロットの住居、あるいは人間のログハウスに似ている。
出入り口のサイズや様式もパフディより、人間が出入りするのにちょうど良さそうだった。
謎の建物の前を通り過ぎたポフダイは、木の枝を組み合わせて綿草をいっぱいに敷き詰めたかまくらのような場所に私を案内すると、大きな身体を折り曲げ、堂に入った動作で一礼をした。
「ぽふ、ぽぽ。ぽふだい。ぽふりゅ、ぷり。りゅみ。むい、るる、ぽよ?」
他のパフディよりも大きいせいか、他のパフディより年長感のある声だった。
「千川すい。どこからどうやってこの森に来たのかはわからないのだけれど、パファンにここまで連れてきてもらいました」
「むい。るる、ぷい、ぽそ。るふ。ぽは、ちょり。ぽふはび、ちゅも。りゅみ、ぽふ」
具体的に何を言われたのかはわからなかったが、こちらの言ったことは伝わったような気がした。
ポフダイは私の後ろのほうに集まって様子を見ているパフディたちに視線をやると――。
「みる。はび、りおー。ぱたぱた。はび、るる。ちょり、ぴま」
と声をあげた。
部屋の準備を、という指示だったらしい。
「ぽふ!」
と声をあげたパフディたちはさっき通り過ぎた丸太小屋のほうに集まり、大騒ぎで大掃除を開始した。
手際良く、というよりは小学校低学年の大掃除、みたいな空気感だった。
◇◇◇
パフディ族による大掃除が終わって案内されたのは、やはり人間サイズで作られた丸太小屋だった。
内部にはクラフトロットの手を借りたらしいベッドやデスク、棚などが並び、更には木の葉を薄く伸ばし、綺麗に裁断して作ったノートが置いてあった。
紙と言うより半透明のプラスチックのような質感だが、文字は普通に解読できた。
日本語である。
最初のノートの中身はパフディの言葉と日本語の簡単な対照表。
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いつか来るかも知れない探索者に向け
これを残していく
理王科虎 Rioh-Shinatora
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そんなメモが添えられていた。
「理王?」
「ぽこ、はび。ニンゲン、ちょり。ぬい、みる、ぴょ。ぽこ。カガク、ぷい、ももえ」
ポフダイはどこか遠い目をして言った。
ニンゲンとカガクは日本語だった。
他のノートを見てみると、名前の通り学究的、科学者タイプの人間だったのか、パフディ村を中心とした地理や特徴、生物などの姿が記録されていた。
だが残念なことに、いわゆる絵心についてはだいぶ壊滅的な人物だった。
パフディや村の様子、グラッドリングなどの絵を見る限り、文字や数値情報以外は参考にしてはダメだと判断せざるを得なかった。
少し気になっていたグラッドリング=ぐらどりゅんの音感が似すぎている件も、やはりこの理王氏が関わっていたらしい。
当初は「ぐらんぺる」と呼ばれていたのが、理王氏が「グラッドリング」と呼んだことがきっかけで「ぐらどりゅん」と変化していったようだ。
もう少し細かく、じっくり読み込んでみたいところだが、他にも色々見せたいところがあるらしい。
水くみに使う泉や、身体を清めるのに使う温水の滝、火を使い、煮炊きをする炊事場などにも案内された。
火事が怖いのか、住居内では火は使わないのがパフディの生活スタイルらしい。
ひとりだけ例外だったのが理王氏で、炭焼き小屋や陶芸小屋が残っていた。
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(・▴・)ぽふ
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