第7話 みんなで渡ればこわくない
遭難一日目の夜が明けた。
クラフトロットの集落近くとはいえ、例のペリカンのような大型モンスターがやってくることもあるようだが、カブトムシテントという謎オブジェクトのおかげかトラブルなく乗り切れた。
クラフトロットにとってはカブトムシテントの出現自体が大事件で、朝もクラフトロットの見物客に囲まれていたが。
あきらからの情報によると、カブトムシ型構造物ガボガはダンジョン考古学界隈で(多脚式移動補助遺物・B系)と呼ばれている。
A系は軍事・戦闘用とみなされるもので、B系は民生用。
現代社会でいうとキャンピングカーやキッチンカーなどに相当する遺物とのことだった。
残骸であれば結構見つかっているが、実際に動作しているものが確認されたのはこれがはじめてらしい。
お腹に収納があるばかりか照明がついていたり、収納の内に調理器具が入っていたり、冷蔵スペースがあったりして便利極まりなかった。
ただ、オルド文明種の平均身長はかなり大きかったようで、全体的にサイズが大きい。
朝食はクラフトロットが用意してくれた、生地を木の枝に付けて焼くホットケーキ風のパン。
生地の中に木の実や魚の塩漬けなどが入っているのが特徴になる。
ガボガには食品の安全チェック機能もあるのか、生焼けの魚が混じった枝焼きパンに赤いガイドレーザーを照射して「Gabogabogabogabo!」と警告音を発したりしていた。
あくまで民生用なのでビームで焼き払ったりはできないようだ。
朝食が済んだら出発である。
成り行きでクラフトロットの集落で一晩過ごしたが、パファンの目的地はもともとここではなく、ぽふはびという場所らしい。
村とかそういうニュアンスのようだ。
あれも持ってけ、これも持っていけ、というように渡された着物や干し魚、それと例のマナ・モス入りのうるかなどをリュックに入れ、給水ボトルに水を汲み、クラフトロットたちに別れを告げて出発すると。
きゅいん。
カシャン。
「Gabobobobobo」
当たり前のようにガボガもついてきた。
「連れて行って大丈夫?」
「ぺる、ぷる……?」
パファンはなんとも言えない調子で言った。
ダメではないけれど……、くらいのニュアンスだろうか。
ともかく謎のカブトムシロボ、ガボガを仲間に加えて歩いていくと、またグラッドリングらしき足跡に出くわした。
「ぐらどりゅん?」
「ぐらどりゅん、むい」
「Gabogabo」
パファンは警戒した様子で足跡を目で追い、ガボガも赤いガイドレーザーを光らせる。
「ぽふたん、ぱこら」
パファンと一緒に高台に上がって様子をうかがうと、森の木々がぱたりと途切れ、細い谷が口を開けていた。
木の板を繋いだ小さな吊り橋が架かっているが、その手前に、骨や石で作った原始的な槍や斧で武装したトカゲ風の亜人族、グラッドリングの一団の姿があった。
吊り橋の向こうに渡ろうとしているが、グラッドリングが使うには頼りないサイズの橋だ。
グラッドリング一行もだいぶ腰が引けているように見えた。
「ギャッ……? ガ、ガァ?」
「ピシッ! ……ガ……ギャ?」
「……ッギャウ……」
そんな声を上げながら、吊り橋の板や綱を石槍や石斧でつついたり叩いたりしていた。
やがて一体が勇気を出して橋の上に乗り——一歩で引き返してきた。
「ギャッ」
ならばと次の一体が前に出る。
今度は両足を乗せる気概を見せたが、ぶるぶると足もとが震えると腰が抜けたように尻もちをついて戻ってきた。
「ガァ!」
三匹目は石槍を白杖のように振って吊り橋を叩きつつ前進し――がたん、と板が外れかけた音で飛び上がった。
「ギャワワワワーーッ!?」
危険なモンスターのはずだが、遠目に観察する分には随分間の抜けた動きをしている。
強敵を前にしたように集合し、謎の密集陣形を組んだグラッドリングたちは――。
「ガルルルルゥーーッ!」
「ギャァァァァーーッ!」
勇ましい雄叫びをあげて吊り橋に突撃した。
「みんなで渡ればこわくない」という結論に達したようだが、相手は赤信号どころか細い吊り橋である。
ぎし。ガタガタガタッ……ばきん……。
「ギャアアアアアアアーーー!!?」
見事に吊り橋ごと、のこらず谷へ落ちていった。
十体のグラッドリングを葬り去った、もしくはグラッドリングの蛮行で破壊された吊り橋の正体は丸鳥人の生活用、もしくは防衛用の橋だったらしい。
橋の向こうの茂みがもぞもぞと動き出し、グラッドリングたちが落ちていった渓谷の底を見下ろした。
パファンと同じくらいのサイズの丸鳥人だ。
羽毛に大量の葉っぱを付けてカモフラージュをし、見張りをしていたらしい。
「るふ、ぴょ」
なにはともあれ、警戒していたグラッドリングがいなくなったので、吊り橋のほうまで歩いていくと、パファンの姿に気づいた迷彩丸鳥人が「ぽふ」と羽根をあげて挨拶をした。
後ろに私とガボガがついて来ているので少し驚いたようだ。
ぶわっと全身の毛を膨らませた結果、偽装用の葉っぱが一気に抜け落ちていった。
エナガ系の丸鳥人だったらしい。
身体は白系、背中や羽根は灰褐色になっている。
「ぽふ、ぽふぽふ」
「ぽふぽふぽふ」
「ぽふぽふ」
抜けた木の葉の偽装をやり直しながら、パファンと谷越しに会話する迷彩エナガ。
細かい内容はわからなかったが、目的地に到達するには落ちた吊り橋を渡る必要があったようだ。
「ぽて、みる、ちょり」
パファンは背負っていたリュックをおろして待機モードになった。
吊り橋の修理待ちのようだ。
ガボガも谷の間にレーザーを出して距離を測っていたが、計算結果は『無理』だったようだ。
一応全く移動手段がないわけではないが、一本だけ架け渡したロープをレスキュー隊のように這い渡る上級者ルートらしい。
パファンが開いたリュックの中身は森の中で集めたらしい木の実や果実、野草、翡翠と思しき原石など。
昆虫なども出てくるのではないかと心配したが、そういう食性はないようだ。
自慢の収穫物を見せて貰って時間を潰していると、村の外に出ていたらしい丸鳥族の一団が姿を見せた。
パファンと同じスズメ風の体毛の丸鳥人が半分くらいで、残りはシジュウカラ、エナガ、コゲラ、ヤマガラ、メジロなど。
顔と毛色の違いはあるものの、身長や体型の違いはあまり感じられない。
空を飛べる個体もいないようだ。
パファンと私、ガボガの姿に気づくと、恐る恐ると言った様子で近づいてきて「ぽふ?」「ぽふ?」「りゅみ?」「ぺる」「ぱふでぃ、ぱすん」「ぱふでぃ、ぽるぽ」と囀るような声をあげはじめた。
挨拶と自己紹介だろう。
パフディ、というのはやはり種族名、もしくは部族名らしい
パフディのパスン、パフディのポルポ、などと名乗っているようだ。
頭数が揃ったということでパフディ族たちは橋の修復作業に乗り出す。
資材は橋の向こうに置いてあるらしい。
迷彩エナガパフディが呼んできたトンビ風の鳶職パフディが谷の間にロープを投げ渡し、私たちの側にいるパフディたちがそれを杭につなぐと、ロープと板を結び、組み合わせて新しい橋を作っていく。
日暮れの少し前には無事に新しい橋が完成し、パフディたちはぴょんぴょんと橋を跳ね渡っていったが、私やガボガが渡るのは難しそうな橋だ。
パフディよりも大きく、重い生き物が渡って来れないように、わざと小さく、細く作ってあるのだろう。
「これはちょっと、私には渡れないわね」
「ぽふ」
パファンたちが同意の声をあげると、谷の向こうからずん、と太い音がして、巨大な石の柱が近づいてきた。
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