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レベル0のすい (・▴・)ぽふ(釣って暮らせる大陸ダンジョン滞在記)  作者:


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第6話 祖父が来た(兄視点)

 18時。


 妹、すいの遭難からおよそ11時間後。


 探索者協会に足を運び、ダンジョン遭難の届け出を出したが「ダンジョン遭難は原則自己責任」「救助活動などはご家族などの費用負担となります」という通り一遍の説明を受けただけで、有益な提案はなかった。


 正式な捜索依頼を出しますか、という提案もあったが、元S級探索者である母香澄が九州から戻ってきている最中であり、父清悟も自身が経営者を務める帝海グループ傘下の帝海探索者団に調査依頼を出しているので、この場は書類をもらうだけにとどめておいた。


 オレとすいの二人は探索者ではないが、探索者協会では有名人だ。


 探索者の名門千川家の長男でありながらレベル1という数字を出した兄、千川友優。


 オレの代わりにS級探索者になって、魔素レベル測定なんて制度は廃止するという意気込みを見せた後、前代未聞のレベル0という結果を出した妹、すい。


 二人まとめて脱落兄妹、生き恥兄妹などというふざけた名前で呼ばれていた。


 今も一部の職員がこちらの様子を窺ったり、ひそひそと話をしたりしている。


 とはいえ母親の香澄は元S級冒険者で、父清悟はダンジョン関連地域の都市開発を得意とする大手企業の総帥である。


 オレの職場の本部長みたいに当人に直接罵声を浴びせてくるような猛者バケモノはいなかった。


 良くも悪くも定型通りに手続きを終えた後は、警察にも遭難届を提出する。

「一応の連絡はついている」状況の上「ダンジョン遭難は探索者協会の担当」ということで届けを出した、という以上の進展はなかったが。


 一通りの手続きが済んだところで、すいが失踪したというお台場の海浜公園に足を運んだ。

 

 母香澄はまだ来ていないが、父清悟が手配した帝海探索者団の黒服探索者たちが先に現地入りをし、調査を進めていた。


 黒服探索者というのはなにかというと、黒服の探索者である。


 冗談はさておき、黒いスーツにサングラスという大昔の地上げ屋みたいなファッションの一団である。


 数が揃うと有名極道ゲームの葬儀シーンみたいな雰囲気で、通行人を驚かせたり警官に事情を聞かれたりしてしまっている。


 服装のせいで個人の区別がつきにくいが、父の腹心であるA級探索者の高足たかあしさんが「友優さん」と声を掛けてきた。


「おつかれさまです。暑い中申し訳ありません」

「いえ、いつもの仕事と変わりませんよ。公園内は一通り調べてみましたが、ゲートらしきものは発見できていません」


 高足さんは実直な口調で言った。


「海のほうも探っておきたいのですが、どうも近くをランサーフィッシュが泳ぎ回っているという話で」


 魔素の影響で巨大化、凶暴化したタチウオ型モンスター。


 体長約2メートル、文字通りに馬上槍ランスみたいな突進力で漁業者、サーファー、あるいは船舶などを襲撃して突き殺したり沈没させたりしてしまう。


 祖父がすいに調査を頼んだ原因らしいが、到着前にすいが遭難してしまったので、野放しになっているのだろう。

 

「そうですか」と呟いたとき、下の妹のあきらからメッセージが入った。


――――――――――――――――――――

 姉さんがいなくなる瞬間の映像を見つけた。

――――――――――――――――――――


 あきらが見つけて来た映像は海浜公園の遠景を捉えたライブカメラだった。


 6時15分。

 

 すいらしき人影が海浜公園に現れ、磯浜近くまで出る。


 その瞬間、雷でも落ちたように電線にスパークが走り、映像が一瞬途切れた。


 そこから映像が回復した時には、すいの姿は消えていた。


 具体的にどんな現象が起こったのかはわからないが、どのあたりで消えたのかは一応わかった。


 早速足を運んでみると、海で何かの気配がした。


 すいがここまで来るきっかけを作った『ランサーフィッシュらしきもの』だろう。


「磯浜になにかいます」


 高足さんにそう告げた瞬間。


 水面を撃ち抜いて、長い触手のようなものが突き出してきた。


 ランサーフィッシュ、じゃない。


 槍のように長くて尖った魚ではなく、異様に長い銛のような触手だ。


 驚きはしなかった。


 というかランサーフィッシュは通常陸地ぎりぎりにはやってこない。


 ランサーフィッシュはタチウオが魔素の影響で巨大化、凶暴化したものだが、タチウオが地上に向けてジャンプ突撃を敢行したら標的を直撃しても海にも戻れずジ・エンドである。


 そう考えると『ランサーフィッシュと誤認されるような別のなにか』の可能性が高かった。


 祖父がすいに調査を頼んだのも、そのあたりの見極めが目的だったのだろう。


 相手の正体がなんであれ、すいであれば不要な刺激を与えることなく調査が行える。


 何か・・の標的にされたのは、ダンジョン遭難届が出たということで現場の確認に来ていた探索者協会の調査員。


 無防備な背中を触手で突き刺し、水中に引きずり込もうとしたようだ。


 当たっていれば大惨事だが、直撃の寸前、高足さんが触手の前方にジュラルミンケースを投げ込む。


 バンッ!


 ジュラルミンケースが破裂し、狙いを外された触手が引き戻されていく。


 海中に、大きな岩礁のような影が見えた。


「リーフ・ハープーンです!」


 警告の為、大声を張り上げた。


 岩礁の銛打ち。


 魔素で変異した巨大チョウチンアンコウ。


 頭の突起物が伸縮自在の銛状の触手になっていて水上や沿岸の標的を撃ち抜き、引き寄せて捕食する凶悪モンスターだ。


 銛を止められたリーフ・ハープーンはハンターがポジションを移すように静かに姿を

消していく。


 厄介なものがいる。


 水辺に近づかなければ危険はないとはいえ、間違いなく調査の邪魔だ。


 ムキになって連続攻撃をしてくるタイプなら対処しやすいが、ヒット&アウェイタイプなあたりが悪質だ。


 継続的な警戒を強いられることになる。


 そのとき、


「よう、おつかれさん」


 後ろのほうから、呑気な老人の声がした。


 振り向くと、時代劇のご隠居みたいな服装に、竹刀袋を背負った大柄な爺様が歩いてきていた。


 千川仙蔵。


 母、香澄の父親で、オレ、すい、あきらの祖父である。

 

 姓は千川だが、入り婿なので千川流の心得はない。


『柔よく剛を制す』『和敬清寂』を旨とする千川流の思想とは対照的な豪傑タイプの剣術遣いで、祖母と死に別れた今は鎌倉で隠居生活を送っていた。

 

「調べは進んでるかい?」

「あのへんでダンジョンに呑み込まれたところまではわかった。それ以上のことはなにも。あと、海にリーフ・ハープーンが居る」

「なんだっけかそいつは」

「チョウチンアンコウのバケモノ」

「ああ、やっぱりか。そうじゃねぇかと思ったよ」


 現状ことの元凶に一番近そうな立場にいる爺様はとぼけた口調で言った。


「片付けとくか。すまねぇがちょっと寄せてくれるか」


 勝手に言った祖父は竹刀袋から釣り竿を取り出し、オレに渡した。


「オレが?」


 無茶振りが来た。


「動きを引き出すだけでいい。居場所がわかりゃあどうとでもなる」

「しょうがねぇな」


 なんでオレが、というところではあるが、調査の障害になるものは排除しておくべきだろう。


「他の道具は?」

「持ってきたぜ」


 祖父は釣具の入った巾着袋を出す。


 三本継ぎの和竿を組み合わせて、リールと釣り糸、そしてマタドール型のアトラクターを取り付ける。


 水棲モンスターを釣りあげ、もしくは水上からの攻撃が届く距離まで誘い出して仕留めるためのルアー型ガジェット。


 マタドール型は全長約30センチの|ミノー(小魚)風アトラクターである。


 釣り用語をそのまま使っているので、全長30センチの小魚ミノーという微妙な齟齬が生じている。


 相手は推定5メートルの巨大アンコウ。食いつかせても引き上げようがないので針はつけない。


 まずはリーフ・ハープーンの影が見えたあたりを狙ってキャストした。


 リーフ・ハープーンの食性は肉食。身体が大きく遊泳速度は遅い。


 油断している水上、あるいは海岸近くの小型、中型生物を奇襲的に襲撃したり、あるいは海底をさらって貝やヒトデ、イソギンチャクなどをドカ食いして暮らしているらしい。


 水上近くの小型、中型生物というと、海鳥やアザラシ、息継ぎに出たウミガメ、海水浴客あたり。


 マタドールで再現しやすいのは海鳥だろう。

 

 千川流水鋒術、海鳥の型。


 千川流の中でも異端児として知られる千川獏釣ばくちょうが編み出した型を使い、水面に降り立った海鳥を模してアトラクターを着水させ、ゆらゆらと波間を漂わせる。


 直接の反応はなし。


 だが、水中に走った緊張の波に歪みがある。


 アトラクターが着水して波動を立てれば、狙いのリーフ・ハープーンだけでなく、他の生き物たちもまた反応し、逃げたり、様子を見に来たりする。

 

 そういった反応が、一方向だけ薄い。


 小魚などが逃げていかない、寄ってこない方角がある。


 つまり、他の生き物が警戒し、忌避する何かがいる。


 視線を動かすと、ちょうど海上を飛んでいたウミネコが急旋回をするのが見えた。


「あのあたりか」


 蹲踞の姿勢を取った爺様が、目を閉じたまま呟く。


 祖父仙蔵の魔素レベルは現代最強クラスのレベル8。


 先々代家元の祖母より上のレベルだが、良くも悪くも強すぎる。歩く竜巻みたいな生き物なのでちょっと気合を入れると大抵のモンスターは逃げていってしまうため、今は気を静めているようだ。

 

 逆にオレみたいな低レベルの人間は、モンスターの注意関心を引きにくく、警戒、攻撃されにくいのが強みとなる。


 角度と距離を合わせ、アトラクターを再キャスト。


 水面を泳がせ反応を待つ。

 

 ここで良さそうだ。


 アトラクターを投げ入れたのに、緊張の波紋が広がらない。


 まともな小魚がいない。


 そう思った刹那。


 波の動きが、僅かに歪むのがわかった。


 リーフ・ハープーンの銛が近くまで来て、引き戻されたようだ。


「探ってきた」


 爺さんに短く伝える。


 警戒している、というより、食いでのある獲物かどうかを探ったんだろう。


 じっくり見定められると困る。


 逃げる動きを模して、アトラクターを跳ねさせる。


 それで掛かった。


 リーフ・ハープーンの触手銛が動き、アトラクターを捕らえにかかる。


 オレの反応速度でどうこうできるスピードじゃないが、今回使っているのはマタドール型。


 極端な速度で近づいてくるものがあれば、その水圧を利用しスライド、回避する特性がある。


 ルアーが魚を回避してどうすんだ、という話はあるが、体長5メートルの水棲モンスターなんてまともにヒットしても水中に引き込まれるか、糸を切られてアトラクターをなくすだけである。


 スライドと同時にマタドールは魚鱗状の放電反応フィルムを放出し、リーフ・ハープーンを痺れさせにかかる。


 相手は触手の一本に過ぎず、本体サイズも推定5メートルと大きい。大した効果はなかったが、オレの仕事は既に終わっている。


 触手銛が水面から突き出せば、そこで所在は特定できる。


 1秒後。


 リーフ・ハープーンは絶命し、腹を出して水面に浮いていた。


「切ったのか? 今?」


 仙蔵爺さんがやったんだろうが、動いた気配がまるでなかった。


「いや、無刀取りってやつだな」


 よっこらせ、と立ち上がる仙蔵爺さん。


「真剣白刃取りみたいな?」


 そんな挙動もしていなかったはずだが。


「いや、刀の代わりの気合をぶつけて命を取る」

「そういうもんじゃねぇだろ無刀取りって」


 無刀で(命を)取る。


 呪術とか即死魔法の世界だ。


◇◇◇


 無刀取り問題はさておき、リーフ・ハープーンという脅威が排除できたので、改めてすいの消えた座標を調べてみたところ魔素断層とやらが発生していたことがわかった。


 実際にデータを取ったのは帝海の黒服探索者の皆さんで、データを解読したのは頭脳派の妹のあきらなので細かいところはわからないが、すいの動画にも映っていた太平洋大龍が出現時、あるいは消滅時に利用している空間の隙間。


 出現時間が短く、出現座標の予測も困難。


 どこにどういう原理でつながっているのかも、現在の研究ではわかっていないらしい。


 一応の手がかりは得られたが、解決に至る道程はまだまだ長そうだった。


 なお、人騒がせなリーフ・ハープーンについてはただ海浜公園の近辺を縄張りにしただけの一般リーフ・ハープーンで、すいの失踪との直接の関係はなかった。


 いわゆる初マグロには及ばないが一千万以上で取引される高級食材なので、仙蔵爺様の馴染みのホテルに引き渡し、すいの捜索費用の足しにすることにした。

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(・▴・)ぽふ

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