第5話 泊まれるようになった
ダンジョンの中ではモンスターのほか、正体不明の文明が作り出した人工物が発見されたり、そもそもダンジョンそのものが正体不明の文明の建造物であることが多い。
その正体不明の文明のことをオルド文明と呼ぶ。
語源は、古い文明。
謎のカブトムシ型構造物はその遺物の可能性が高いようだ。
妹が興味を持ちそうだが、今はマナ・モスの回収が優先だ。
長老クラフトロットの珍味の小瓶に入るくらいマナ・モスを集め、探索者仕様のモバイルバッテリーの魔素充電ジャックを差し込んでみた。
本来は汎用の魔石電池からエネルギーを確保するためのジャックだが、マナ・モスは魔素電位の安定性が高いので裏技的にエネルギーを得ることができる。
バッテリーの表面の充電ランプが光り始めたのが確認できた。
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@sui_watch
マナ・モスが見つかりました。
モバイルバッテリーに充電できそうです。
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兄の動画にコメントすると、間もなく返信があった。
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@一竿斎
えらいサクサク見つかったな。
@AKILAB
スマホのバッテリー残量が90%を越えたら動画の配信を試してみて。
映像情報が欲しい。
@sui_watch
わかった。あとで試してみる。
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一応カブトムシ型構造物の写真を撮り、マナ・モスの岩場を後にしようとすると、
ぎゅぽぽん!
そんな音とともに、緑白色の光が生じた。
光ったのは、例のカブトムシ型構造物の目。
「ぽふ?」
「がぼ?」
パファンと長老クラフトロットも怪訝そうに振り向く中、カブトムシ型構造物は周囲に積み上がった岩や土をあっさり抜け出し、まっすぐこちらに歩いてくる。
「ぽふ!?」
「がぼっ!」
パファンは慌てた声をあげ、長老クラフトロットは威嚇の構えを取ったが、カブトムシ型構造物に攻撃の意思はないようだった。
カブトムシ型構造物は私の前で静止すると、
「Gabogabogabogabogabogabogabo」
電子的な響きのクラフトロット語、または丸鳥人語で何か言った。
抑揚も表情もないのでクラフトロット以上に何を言っているのかわからないが、敵対的ではないようだ。
「がぼがぼがぼがぼ」
「ふわ、がぼ、ぷり」
長老クラフトロットとパファンが通訳をしてくれた。
細かいニュアンスはわからないが、警戒の必要は無いと判断したようだ。
生き物と違って観察はあまり役に立たないが、こちらの回答、または指示を待っているように感じた。
試しに「もとの場所に戻って」と告げる。
「Gabo」
日本語で伝わったようだ。
カブトムシ型構造物は滑らかな動きで後退すると、元の位置に戻って静止した。
完全に停止したわけではなく、目が光り続けているのが気になるが。
「がぼ」
「ぽふ」
長老クラフトロットとパファンが「どうしたもんか」「どうしよう」という顔をしていた。
そんな目で見られても、私もわからない。
ともかく害はなさそうなので、当初の目的通りマナ・モス充電を進めることにした。
マナ・モスを入れた壺に手でジャックを差したら充電できたが、できるなら放置で充電、またはフリーハンドで持ち運べる形にしておきたい。
カブトムシ構造物の視線のようなものを感じつつクラフトロットの集落に戻る。
釣り糸と木の枝を使って、うまく固定できないか悩んでいると、クラフトロットたちがぞろぞろと集まってきた。
「がぼぼ」
木工種族と呼ばれるビーバー獣人的に、見るに堪えなかったのだろう。
私とパファンが工夫した小枝とマナ・モスの壺、モバイルバッテリーの集合物を、残念そうな雰囲気で見下ろしたクラフトロットたちは、どこかから淡く光る大きな枝を持って来ると、黒曜石や琥珀の工具、前歯を駆使して削り出し、樹脂の緩衝材などを組み込んでいく。
やがて、マナ・モス充電をしながらスマホとモバイルバッテリーを固定して持ち歩ける充電杖のようなものが完成した。
「がぼ」
最後に長老クラフトロットが検品を実施。
銘を入れるように小さな模様を刻んで渡してくれた。
「ぽふみ・ちゅも!」
パファンが興奮の声をあげる。
「ありがとう。使わせてもらうわ」
クラフトロットはもともと木工技術の高さで知られているけれど、ここのクラフトロットは特に技術レベルが高いらしい。
木の杖というよりは軽合金やカーボンから削り出したような質感と硬度、剛性感があった。
そうしているうちに、だいぶ日が傾いてきた。
「今日はもう動かないほうが良さそうね」
「るふ、ぽは」
パファンも同意のようである。
「がぼぼ」
「がぼがぼ」
クラフトロットたちも「泊まっていけ」という雰囲気だが、クラフトロットの集落は人間が厄介になれるようなサイズではない上、住居の出入り口は水中にある。
どう野営をしようかと考えていると――。
キュイィィィィィン。
「Gabogabogabogabo?」
初期位置に戻っていたカブトムシ型構造物、ガボガ(仮称)が「お手伝いできることはありますか?」と言うように姿を現した。
一応待機はしていたが、こちらの動向を見ていたらしい。
クラフトロットやパファンの言葉も理解しているようだ。
妙に心得た様子でやってきたガボガはクラフトロットたちが案内してくれた草原の一角で前足を伸ばして体を斜めに立て、被膜状の翅をテントのように広げた。
レジャー用なのか軍事用なのか、あるいは災害用なのかはわからないけれど、野営、キャンプを支援してくれるロボットらしい。
翅テントの中を覗いてみると、薄い翅がシートのように敷かれていた。
お腹の裏側は収納スペースになっていて、覗き込むとロックが外れ、薄くて大きなブランケットらしきものとクッションが出てきた。
胸の裏側あたりには照明まで備わっている。
謎文明のカブトムシテント。
なんだかよくわからないが、この状況では天の助けだろう。
素直に休ませてもらうことにした。
パファンと一緒にカブトムシテントにあがってくつろいでいるうちに、モバイルバッテリーにつなぎなおしたスマホのバッテリー残量が90%を超えた。
妹からのリクエスト通り、動画配信を試してみる。
あたりまえだが最初の視聴者数はゼロ。
カブトムシテントを出て、クラフトロットの集落や周囲の森林を写してから、兄のチャンネルに「配信をはじめました」と入力した。
夕暮れの空を泳ぐ太平洋大龍の姿を写していると、兄と妹から反応があった。
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@一竿斎
探索者協会に遭難届を出してきました。
なんかとんでもないもんが映ってないか?
@AKILAB
思ったよりずっと規模が大きい
最低でもオーストラリアくらいの大きさになりそう
@一竿斎
さすがにデカすぎだろ……。安全は確保できてるのか?
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「ようこそ、で、いいのかしら? 手間を取らせてしまってごめんなさい。今のところ近くに危険なモンスターはいないけれど、同じ森の中にグラッドリングがいるみたい。それと、大きなペリカンがいたわ。10メートルくらいの」
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@一竿斎
そんなとんでもねぇモンスターがいるのかよ……?
@AKILAB
ゴーグルペリカンなら体長5メートルの個体が確認されてる。
10メートルというのは聞かないけれど。
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「あと、こういう子が一緒」
そう答えて、パファンの姿を写してみせる。
「ぽふ?」
怪訝そうに首を動かすパファン。
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@一竿斎
スズメ? デカすぎんかさすがに……ていうか距離もだな、そんなに近づいて大丈夫なのか?
@AKILAB
未確認モンスター
鳥人種の幼体?
これが成熟体?
ぽふみがすごい
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「日本語はダメだけど、言葉のある種族みたい。ちょっと自己紹介してくれる?」
「ぽふ?」
少し怪訝そうだが、要望は理解してくれたようだ。パファンは片方の翼を胸元に当てて、
「ぱふでぃ・ぱふぁん!」
と名乗りをあげた。
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@一竿斎
シャベッタァァァ!
@AKILAB
(・▴・)
私も現地に行ってみたいけれど、
進入ルートはわからないんだっけ
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「ええ、どこから迷い込んだのかはわからないわ。こちら側にもゲートらしいものは見当たらなかった」
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@Mr.Innocent
進入ルートは母さんと帝海の探索者団が調べに行っている。
そちらは安全に救助を待てる体勢を整えてくれ
@一竿斎
手が空いたからオレも様子見に行ってみるよ。海浜公園だっけ。
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「仕事は大丈夫なの?」
父はともかく、兄のほうはかなりのブラック労働だと聞いた。
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@一竿斎
部長に半休をって言ったらブチ切れてきたからこっちもブチ切れて出てきた。
明日にでも退職願を持ってくよ
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思わぬところで大変なことになっていた。
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(・▴・)ぽふ
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