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レベル0のすい (・▴・)ぽふ(釣って過ごせる、ぽふぽふダンジョン遭難日記)  作者:


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24/24

第24話 バズの余波(兄視点)

(・▴・)ぽふ

 予約日間違えておりました。

 銀色のミズチク『S』が吊り上げられたことでミズチクたちは統制を失い、無害化された。


 下の妹あきら、生物学担当アドバイザーのエボシ氏の見解によると『S』は高魔素環境で稀に生まれる個体であり、魔素沈殿核が除去された現在では再発生の可能性は低いとのことだった。


 最後の課題は密集状態のままのトブ・ガラたちへの対応となる。


 当初の予定通り、ハリネズミ獣人のスピナ・ミルたち、カブクワロボたちと『バッタ釣り』作戦を実施したすいは、トブ・ガラたちを本来居るべき複数の生息地へと誘導、分散させ、一連の騒動を解決に導いた。


 草原を疾走するスピナ・ミルや飛行するカブクワロボ。

 彼らが操るダミー雌バッタを追いかけて飛んでいくトブ・ガラたちの姿は壮観、壮大そのもので動画のほうも盛大にバズり、チャンネル登録者数は200万を突破、早くも300万の数字を睨むところまで増え続けていた。


『大陸ダンジョン』『基幹ダンジョン』と呼称される前代未聞の超巨大空間での生活記録なので、世界中のダンジョン・探索者界隈の人間はもちろん政府、経済、学術関係者などの注目を一身に浴びている。


 チャンネル登録者数は200万台だが、いくつかの動画の再生数は既に1億を超えている。


 テレビや新聞などのマスメディアや、SNSやネットニュースといったデジタルメディアでの注目度も爆発的な勢いで『大陸ダンジョン』『基幹ダンジョン』『千川すい』『パフディちゃん』と言った単語を目にしない日は無いような状況である。


 ダンジョンと探索者を管理するダンジョン・探索者庁も対応に追われ、国会審議も『一刻も早く経路の発見を!』『他国に先をこされるようなことがあれば日本の恥だ』『千川すいの配信がフェイク、大規模なサイバーテロである可能性も否定できません!』などと紛糾したりしていた。


『千川すいとは一体何者なのか』といったあたりも当然注目され、あっさりとプロフィールが各方面へと流出した。


千川すい

・S級冒険者千川香澄と、大手都市開発企業である帝海グループの総帥千川清悟の間に生まれた長女。

・千川香澄が家元を務めていた千川流探索道の後継者候補筆頭として育てられるが、13歳での魔素干渉力診断テストで前代未聞のレベル0を記録、探索者資質なしと判定される。

・現在25歳の兄Aもまたレベル1判定で探索者資格を得られなかったことから千川流の「脱落兄妹」「生恥兄妹」などと噂されていた。

・遭難直前までは私立の名門高校に通い、成績は良好。


 なんでこんな情報が出回るということで、弁護士団を引き連れた父が探索者協会やダンジョン・探索者庁に乗り込んでいく様子がまた別のニュースになったりしていた。


 マスコミやネットメディアなどの活動も加熱。


 すいが失踪した海浜公園のあたりにはマスコミや配信関係者、迷惑系探索者などが殺到しはじめている。


 父清悟や母香澄には政財界はじめ、各方面からの協力の申し出や情報提供の要請が押し寄せたが、そこはどちらも業界の大物なので如才なく対応をしているようだ。


 ロンドンでホームステイ中の下の妹のあきらにも、向こうのダンジョン・探索関係者からアプローチがあるそうだが、ホームステイ先の支援のもと、ギブ・アンド・テイクの範囲内で情報交換を行っている。


 そして千川すいの兄にして千川家の長男であるオレこと千川友優の注目度は見事にゼロ。


 身の回りは静かなものである……だと思ったのだが。


 退職準備中の勤務先、冒険簿記株式会社のオフィスで今日も仕事をこなしていると、立て続けに電話が鳴った。


 取り急ぎ受話器を取ると、


「こんにちは、チューチューバーの正義おじさんと申します。左村さんをお願いします」


 そんなおっさんの声がした。


「……お電話ありがとうございます。私は広報・宣伝課の千川とお申します。恐れ入りますが、どういったご要件でしょう」


 まぁともかくテンプレ通り応対すると、チューチューバー氏は「あ」と声をあげた。


「ああっ! あの千川さんですか? 妹さんの動画のほう、欠かさず視聴させていただいております! それでですね、今回は千川友優さんに対する御社の左村本部長さんのパワハラ発言についての電凸ということで、配信を回しながらお電話させていただいております。パワハラ音声のほう聞かせていただきました! いやぁ,信じられない内容でした」


 パワハラ音声。


 心当たりはなくもない。


 すいの失踪直後の佐村本部長とのやり取りをスマホで録音したデータならば持っている。


 だが、誰かに聞かせたことはない。


「私パワハラは断じて許せないタチでして、左村の野郎にびしりと一言、怒りの声をお伝えしたいと思った次第で」

「取材のお申込みは弊社ホームページの申し込みフォームより承っております。お手数ですが……」

「なに言ってるんですか、あなたが御自分で出したんでしょう? あの音声。今更綺麗ごとなんて言ってどうするんです」


 何を言っているのかの見当はうっすらとついたが、やはり身に覚えはなかった。


「お電話切らせていただきます」


 受話器を降ろして素早く着信拒否。


 スマホを使って「冒険簿記」「左村」「千川」と言ったワードで検索していると案の定「千川すい遭難事件発生直後に起きた、家族への強烈パワハラ!」というタイトルの暴露配信が見つかった。


 すいの失踪直後の「午後半休をよこせ」「ふざけるな」「なら辞める」あたりの会話の音声が暴露系チューチューバーの手元に渡り「千川すいブーム」に乗ってバズってしまったらしい。


 さっきの「正義おじさん」はその後追い勢らしい。


 オレが流したデータじゃないが、オレが一番動機がありそうだということで早合点をしたのだろう。


 左村本部長のパワハラ圧力に晒されていたのはオレだけじゃない。


 いつかぶちまけてやろうと、オフィスの様子を録音していた人間がいたのだろう。


 話題の千川すいに関連するパワハラ発言。弊社や左村本部長にダメージを与えるには格好のネタだった。


“千川友優に対する左村本部長のパワハラ発言がネットに流れて大炎上しています”


 声に出して言ってみたい日本語ではあるが、オレ本人の口から伝えるのはさすがにまずいだろう。


 取り急ぎメールにして、直接の上司にあたる藤下広報・宣伝課長に報告をあげたが、その頃には二人目、三人目の自称配信者の電話、そして問い合わせや苦情と称する電話が鳴り始めていた。


 鋭い洞察力でオレの仕業と断定した左村本部長は「千川! 会議室へ来い!」と絶叫し、会議室へオレを連行した。


「汚い真似をしやがって! 復讐のつもりか! ただで済むと思うなよ!」


 例によって亀みたいに首を突き出しガンを飛ばして来る左村本部長。

 オーデコロンの匂いが鼻につく。


「録音はしていましたし、今もしていますけれど、外部に流したのは私ではありません。私が持っているものより、ネットに流れているもののほうが録音時間が長いようです」

「とぼけるんじゃねえ!」


 激昂度を上げ、壁を殴りつける左村本部長。


「盗聴と名誉毀損で裁判にしてやってもいいんだぞ!」

「お好きになさってください」


 実際やってはいないから問題ないだろう。


「ご要件がそれだけでしたら、業務に戻らせていただきます」


 すいの動画をチェックしないといけないから少しでも速く帰りたい。


「これで勝ったと思うんじゃねぇぞ。おまえは社会人として許されないことをしたんだからな」


 怒鳴ればなんとなるという甘えたムーブをしてみたものの、オレを追い詰める手札は持っていないのだろう。

 そんな捨て台詞が精一杯のようだ。


「肝に銘じさせていただきます」


 そう答えると、会議室の扉が遠慮がちにノックされた。


「なんだ!」


 左村本部長が八つ当たり気味に吼え、渚山くんが顔を出す。


「お話中失礼いたします。社長から左村本部長宛に内線で、すぐに社長室まで、と……」


 左村本部長の表情が本格的に引きつった。


「わかった」


 会議室を出ていく左村本部長。

 

 それから約1時間後。


 抗議や取材申し込み、悪戯電話などで順調に業務が滞るオフィスに館内放送が響き「15時30分より緊急ミーティングを行います」と告げた。


 本社ビルのスタッフのほとんどが二階のカンファレンスルームに集められたが、オレと福添補佐は電話対応要員としてフロアに残された。


 オレの話が中心になるので同席させるのは憚られたらしい。


 福添補佐は電話番というよりオレの監視役だろう。


 ミーティングの内容は全館放送しているので話の内容は把握できる。


 進行役を務めるのは総務部長の石崎氏。


「おつかれさまです。総務の石崎です。緊急ミーティングということでお集まりいただいたわけですが、議題は現在インターネットに流出している、左村本部長によるパワーハラスメントとみなされうる音声に対する対応となります……」


 冒険簿記株式会社の前身は、埼玉に本拠地を置く新田税理士事務所という会計事務所で、社長である新田重明氏は税理士でもある。


 地元埼玉の税理士の会合でパワハラ音声流出の事実を知らされた重明社長は、急遽東京本社へと帰還。取り急ぎ左村本部長に自宅待機を指示した。


 事実確認の上、対応を進めて行くので、ネットやマスコミなどにはくれぐれも情報を流すことのないように、というのが主な通達内容だった。


 左村本部長のパワハラ系暴言は日常茶飯事、社内常識みたいなところがある。


 今更何の事実確認を? というところではあるが、一応ヒアリングや第三者委員会の立ち上げから始めるらしい。


 これが渚山くんあたりが相手ならほとぼりが冷めるまで沈黙してやり過ごす、みたいなオプションを選んだ可能性もあるが、帝海グループの御曹司が相手となるとそうもいかなかったようだ。


 結局は実家の太さがものを言った格好なので、痛快というには複雑な気分だが。


「今回の音声流出によって、我が社の信頼は大きく損なわれました。当面の間は私が先頭に立って行きますので、社員一丸となって信頼回復に取り組んで行きましょう」


 パワハラの前科を持つ左村本部長をわざわざ招聘して暴走させていた新田社長のお言葉でミーティングは終了。


 戻ってきたスタッフと入れ替わりになる格好で、社長室に呼び出された。


 社長室へ足を運ぶと明重社長、その息子である晴重副社長が待っていた。


 話を主導するのは明重社長。


「今、どんな気分だ?」


 懐柔路線を取れるつもりはないらしい。

 最初から棘のある口調だった。


「御曹司の気まぐれで人の会社をめちゃくちゃにしやがって」

「音声を流したのは私ではありませんが」

「そんなことはどうでもいい」


 明重社長は吐き捨てる。


「おまえみたいな奴がいなければ、こんな騒ぎは起きなかった」

「左村本部長のことなら、私以外にもああでしょう?」


 重点的に敵意を浴びている自覚はあるが。


「ゆとり世代やらZ世代を現場で戦えるビジネスパーソンにしていくには左村の厳しさが必要だ。人の上に立つようになればいずれわかる」


 厳しさまでは一応わかるが「左村の」についてはだいぶ疑問符がつく。


「左村は減俸の上、本部長補佐に降格する予定だ。当面の間は晴明が本部長を兼任して現場の指揮を取る。再発防止のための第三者委員会も準備する。他に要求はあるか」

「いえ、第三者委員会の報告と、御社の対応を待たせていただきます」


 今のところは、居丈高に厳しい処分を要求するような場面でもないだろう。


「……いいだろう」


 不機嫌ハラスメントあたりでアウトになりそうな表情の明重社長。


 隣の晴重副社長のほうはそこまでふてぶてしくはなれないようで、青い顔をして頬を小さく痙攣させていた。

 

「今日から有給の消化に入っていい。すぐに荷物を纏めて出ていけ。他の社員に悪影響を与えられては困るからな」


「わかりました。長い間お世話になりました」


 勤続期間三年。


 長いと見るか短いと見るかは意見が分かれそうだが、冒険簿記株式会社の平均値から見ると長目だろうか。


 荷物をまとめるためオフィスに戻ると、自宅謹慎を命じられた左村本部長がまだデスクに座っていた。


 オレと同様、荷物をまとめるよう命じられたようだが、手が止まってしまっているようだ。


 減俸の上降格、という処分を既に内示されているのか、ちょっとした虚脱状態になっているようだ。


 オレのほうは急に有給消化という話になったため、仕事のほうは完全には片づけきれなかったが、物理的な身辺整理は済ませてある。


 荷物をまとめ「お世話になりました」と頭を下げてフロアを後にする。


 背中に左村本部長の視線が突き刺さるのを感じたが、言葉はなにも飛んでこなかった。


 冒険簿記株式会社のビルを出ると、マスコミや配信関係者がカメラや配信機材を構えて待っていた。


 すい本人ならともかく、ただのサラリーマンでしかないオレに大した撮れ高はないだはずだが、意外に人数が多い。


 千川すいブーム恐るべしと言ったところだろうか。


「千川さん! パワハラの音声流出について一言お願いします!」

「あの音声はご自身で録音されたものなのですか?」

「会社に訴えを起こす予定はありますか?」

「千川すいさんの配信はフェイクだという指摘がありますが」


 そんな声を「本件については、現在会社として事実確認と対応を進めていると聞いています」「私個人からお話しできることはありません」といったスタイルでやり過ごし、駅に向かっていくと、黒い高級車が横にやってきて停車した。


 父、千川清悟が愛用している会社のハイヤーである。


 後ろのシートには白髪で人相の悪いラガーマン系壮年男性、千川清悟の姿があった。


 品のいい運転手が車を降り、扉を開く。


「お乗りください」

「ありがとうございます」


 なんだかまたボンボン臭くなってしまったが、公共の往来を新旧メディア関係者を引き連れて歩いていくよりはマシだろう。

 素直に車に乗り込んだ。


 車の中で仕事をこなしていたらしい。資料のファイルを傍らに置いた父、千川清悟は圧の強い目線をこちらに向けて、「大丈夫か?」と言った。


 圧が強くて人相が悪いが、本人的には圧を掛けているつもりも脅しているつもりもない。


 本人談によるとシンプルにそういう顔であるだけだそうだ。


「ああ、通行の邪魔になってたから助かったよ。もしかして、待っててくれた?」

「いや、会社への帰りに少し様子を見に寄ったら偶然お前が出て来るのが見えた」


 そこまで暇な仕事ではないはずだから、嘘ではないだろう。 


 冒険簿記株式会社での騒動、有休消化に入ったことを説明すると、父は「これからどうする?」と言った。


「当面は、すいのサポートをしようと思う。帝海の人たちも動いてくれてはいるけど、家族じゃないとできないことも多いからね」


 父や母、あきらは充分頼れるが、それぞれに仕事や学校などがある。


 無職の兄が動くのが丸そうだ。

お読みいただきありがとうございます。 

次回更新は1月25日20:10となります。

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― 新着の感想 ―
何日かしたら会議の様子が公開されるやつかな で、社長が激怒りで電話してきて「その会議出てません」 って言っても聞いてくれないやつ 社長との会話、いつだそうかね?
社長もドクズやんけww
いや、普通に過ちを認めろっての。どうせこの会社長くはないだろうけどな。
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