第19話 迷惑すぎて草枯れる
スピナ・ミルの晩餐を乗り切った私とパファンはカブトムシテントで夜を明かし、パフディ村への帰途についた。
帰りもまたトブ・ガラの襲撃を受ける心配がある。
スピナ・ミルにおける勇者のポジションである灰色のスピナ・ミルが護衛についてきてくれた。
名前はネイ、というらしい。
「ぽふぽふぽふぽふ」
「……ちく」
「ぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふ」
「ちく」
道中パファンが興味津々で話しかけていたが――。
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@MIB/Umiushi
塩対応かわいい
@モフリエイター
パフディとクラフトロットの次は
ハリネズミとはつくづく
ポフビリティとモフビリティの高い場所だぜ
@打開
おれをポフるとちくちくするぜ
@犬小屋
発言全てがちくちく言葉だぜ
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配信コメントの通り塩対応気味だろうか。
パファンは気にした様子もなく話を続けており、ネイの方も黙らせようとはしていないので、険悪と言うよりペースや属性の違いと見なしたほうがいいかも知れない。
今日も空には太平洋大龍。
生存報告がてら草原の景色を適当に配信している。
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@Fラン探索者
わりと命からがら
普通のダンジョンからもどってきたんだが、
なんだこの温度差は
@森永ヨッシー
風邪を引くよな
@焼き栗
あったかくして寝ろ
@呂布砲戦
この空間をダンジョンというくくりに入れていいのか本当悩む
@羽毛崇拝者
パフディちゃん抱き枕の商品化を急ぐべき
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最後のを商品化する場合権利は一体何処に帰属するのだろう。
当人たちに肖像権とかの概念はなさそうではあるが。
そんな実りのないことを考えつつ歩いていくと、東のほうに妙な気配を感じた。
視線をやると朝の太陽を背に、大量の飛行生物が接近してくるのが見えた。
「ぷる、ぽそ……ちょっと望遠します」
スマホのレンズを望遠にして様子を伺う。
鳥の群れのように見えたが、個々のサイズが妙に大きい。
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@MIB/Eboshi
大型バッタの大群です!
早急に草原から脱出を!
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エボシ氏の警告。
ガボガの目が赤い警告モードに変わり、ネイが「ちく!」と鋭い声をあげた。
急ぐぞ、と告げたようだ。
「ぽふ?」
「ぷる、とぶ・がら。ぱたぱた!」
「ぽふふっ!」
慌てた声をあげるパファン。
距離はあるが、蝗害レベルの大群が近づいてきているようだ。
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@私立担々麺高校
急にシリアスになるな肺炎になる
@お茶のみたい
急に大自然の脅威が押し寄せてくる
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「ちく!」
大急ぎで私たちを草原の外まで出したネイは弾丸めいた速度で疾走し、スピナ・ミル村へと戻っていく。
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@ちぇすと
音速ハリネズミ……?
@DungeonDrifters
さすがに時速300から400キロ程度かな
@かずのこvsかまぼこvsオーグライ
そんだけ早けりゃ充分ではあるが
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ネイの姿を見送った私たちはガボガの目が赤色から黄色になるまで移動してからガボガの上に登り、状況を確認する。
やってきたトブ・ガラは空を埋め尽くすような数だった。
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@MIB/Ebosi
推定一万と言ったところでしょうか
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この数のトブ・ガラが草原を食害し始めたら、植物系群体生物であるスピナの生命に関わりそうだ。
トブ・ガラたちは草原の中心部を目指して飛行し、最後はつむじ風のように旋回しつつ、なにかを包囲するように地上に降り立っていく。
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@AKILAB
挙動がおかしい
@千川香澄
何かに引き寄せられているようですね
@セミ地雷禁止条約
産卵でもしにきた?
@MIB/Ebosi
産卵なら密集するのは不合理ですね
最初から餌の奪い合いをすることになる
@保育園爺
普通はもう少し散るよなぁ
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そんなコメントが流れて行く中、草原に、突然落とし穴が開いた。
直径10メートルほど、円形、暗い水を底に称えた黒い穴。
一応の飛行能力を備えたトブ・ガラたちだが、即座に反応はできずに数匹が落下する。
ばちん!
巨大なトラバサミが噛み合うような音がして、トブ・ガラの体液や翅の一部が飛び散るのが見えた。
角度の関係で目視はできないが、なにかいる。
体長3メートルの巨大バッタを捕食してしまう、尋常でない何かが。
それはトブ・ガラ1匹では飽きたらなかったようだ。さらに破裂音と水しぶきをあげて、2匹目のトブ・ガラを粉砕した。
奇襲攻撃を受けたトブ・ガラたちだが、逃げ散ることはせず、むしろ色めきだった様子で突撃。
次々と黒い穴へと突入、自分たちの身体で穴を埋めていく。
そうして穴を完全にふさぐと、羽根や足を猛然と動かしていく。
ホバリングして何かを穴から引っ張り出そう、という挙動ではないようだ。
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@腰痛餅
なんじゃこれ
@MIB/Eboshi
ミツバチの蜂球のようなものかと
穴の中の生物を蒸し殺すつもりでしょう
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偶然の遭遇、と言うわけではなさそうな雰囲気だ。
トブ・ガラたちは最初から、穴にいる何かと戦う為に集まってきたのかも知れない。
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@AKILAB
難しいと思う
あの穴、どこかに繋がってる
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羽ばたきによって体温をあげ、穴の中の生き物を蒸し殺す作戦のようだが、あきらの指摘通り、穴は地下の水脈のようなものに繋がっているようだ。
何かの気配が、トブ・ガラたちが包囲していたあたりへと移動し、そこから小さくなっていく。
残ったのは圧死、または窒息死して穴を埋めているトブ・ガラたちの死体。
仕損じたことはトブ・ガラたちにもわかっているようだ。
穴に詰まった仲間の死体には目もくれず、再び草原の中心に集まったトブ・ガラたちは、今度は周囲の植物を猛然とかじり始めた。
良くない状況になってきたようだ。
トブ・ガラたちがこのまま駐留を続けた場合、スピナ繊維に大きな被害が出ることになりそうだ。
衣料に関する私のライフラインにも打撃が出かねない。
このまま引き上げるつもりでいたが、もう少し状況を見定めたほうがいいかも知れない。
「パファン。もら、ぴょ、ぽよ?」
「ぽふぽふ」
パファンはパフディ族の勇者なので、災害があったときにはその情報を持ち帰る必要がある。
無事に帰れなければ元も子もない、という話もあるが、今回はもう少し状況を把握したほうがいい、と判断したようだ。
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@PerfectGorilla
ぽふ(きりり)
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トブ・ガラたちは現状草原の中心部に密集しているので、スピナ・ミルの集落までは比較的安全に移動できそうだ。
再び草原に足を踏み入れると、再びスピナ蛾が姿を現した。
草原内であればどこにでも顔を出せるらしい。
集落に着く前に配信は止めるつもりだったが、思い切り映り込んだ。
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@MIB/Koika
蛾?
@磯野藻屑
かわいい
@モフミスキー
もふむし?
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視聴者受けは良いようだ。
スピナ蛾のほうも特に問題ないとのことなので、そのまま話を続ける。
「Chiku」
「Gabo」
「ぽふ」
スピナ→ガボガ→パファン→私の他段翻訳による情報交換によると、トブ・ガラたちを捕食しているのはスピナ・ミルたちがミズチクと呼ぶ生物で、地底湖などに棲む小魚の群が魔素の影響で合体、巨大化したものらしい。
周囲の地盤を軟化させるという原始的な魔術を操って地下水脈を拡大、さらには地上に水の落とし穴を仕掛けて地上の生物を捕食するという、厄介な能力を持つ。
主に捕食するのはトブ・ガラのような大型昆虫やその卵。
体重の軽いスピナ・ミルなどは捕食対象にはなりにくいが、地面を魔力で軟弱化させ、地表の植物を腐らせてしまったりする。
そして一番厄介な点は、捕食対象であるトブ・ガラのほうも、ミズチクを不倶戴天の敵と認識し、存在を認識すると群れを成して押し寄せ、泥仕合めいた戦いを繰り広げてしまう点である。
トブ・ガラとミズチクの戦いは長期に及ぶ上、トブ・ガラにはミズチクに対する決定的な攻撃手段はなく、ミズチクのほうはトブ・ガラを全滅させる理由は特にない。
結局周囲を食害しまくったトブ・ガラたちは暴れるだけ暴れて勝手に餓死、もしくは冬の訪れと共にその寿命を終えて躯を晒すというはた迷惑な結末になることがほとんどらしい。
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@霊長類斎藤
迷惑すぎて草枯れる
@シチリアンハスキー
オルド文明の遺物からカジュアルに情報収集するのやめていただけますか
@ねっとり侍
歴史的発見のバーゲンセールですよ
@ブルガリアンスクワット
これが遭難者のすることか
@焼き肉大帝
自重しろ
@黄金の鉄の鎌足
S級遭難者に認定してやろう
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変な認定を受けてしまった。
(・▴・)ぽふ
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