第17話 ちくちくぽふぽふ
ガボガの頭の上に乗って高さを確保、周囲の様子を確認する。
静かではあるけれど、そう安全な場所でもなさそうだ。
スマホのカメラの望遠モードも使って観察してみると、気になるものが転がっていた。
ヘラジカ風、体長四メートルほど、水晶みたいな角を持った巨大生物の死体。
アプリには該当データがないが、理王氏のノートにそれらしい記述があった。
ツノユキバケロス。
主に森林域に棲息する、草食だが荒々しい生き物で、縄張り内で他の生き物に遭遇すると巨大な角を突き出し突進し、大神のような肉食獣はもちろん、木々などもなぎ倒してしまう。
パフディたちが警戒する生き物のひとつだそうだ。
首と足の骨を折って死んだようだが、ツノユキバケロスというのは群生動物らしい。
他の個体が近くにいるかも知れない。
それと、骨の折れ具合が気になった。
首と足を一度に折る。
足を折り、よろめき倒れた結果首も折って死亡した。
または、何か別の生き物にへし折られた。
直感的には、後者の可能性が高い気がした。
ツノユキバケロスで喧嘩をした、または、四メートルの巨大ジカの首と足をへし折る別のなにかが存在する可能性がある。
「スピナ・ミル、じゃないわよね」
「とぶ・がら」
パファンによると、噂の大型バッタの犯行らしい。
無闇に深入りはしないほうが良さそうだ。
見晴らしが良い、といえば聞こえはいいけれど、トブ・ガラがいた場合は逃げも隠れもできない場所である。
目視できる範囲にスピナ・ミルの集落があれば立ち寄りたいが、見えなければ無理はせず、パファンの採取、パトロール活動に付き合ってパフディ村へと戻る、くらいの方針で。
引き続き草原の様子を確認していくと地平線の一点に茂みのようなものが見えた。
距離で言うと五キロくらいか、大きな木の上の部分のようだ。
「ぽそ、ぱこら」
「ちゅも?」
パファンにも、そしてガボガにもなにか見えているようだ。
「Gabo……Spina……Gabo」
ガボガの言葉に、スピナ、という単語が混じっているのが聞き取れた。
「スピナ・ミルがいる?」
「SpinaGabo」
スピナ・ミルではなく、スピナがいると言っているように聞こえた。
微妙なニュアンスの違いが気になるが、まずは様子を見に行ってみることにした。
ガボガは草原には入れないつもりでいたが、ガイドをする気になっているらしい。
目から安全確認ビームを出して周辺状況を確認しつつ動き出すガボガ。
目から黄色いビームを出し、青くなれば危険なしという判定のようだ。
距離は当初の目測通り五キロほど。近づくにつれて緑の輪郭がはっきりしてきた。
樹高五メートルほどの桑の木の林のようだった。
パフディ村のハビタスツリーほどでないが、日本の桑の木に比べると異様に大きい。
その枝葉に紛れる格好で、遊牧民のパオに似た格好の天幕がいくつも並んでいた。
「ぱこら、すぴな・みる!」
パファンが声をあげ、ガボガの安全確認ビームが黄色のまま点滅する。
危険ではないが、安全とも言い切れない。
要注意と言ったところだろうか。
安全確認ビームに引っかかったのは、巨大カブトムシロボの接近に気づいて様子を見に出てきたスピナ・ミルたちのようだ。
身長一メートル程度の、ハリネズミ系獣人たち。
リュフと同じ系統の、アイヌやネイティブアメリカンを思わせる衣装を身にまとっている。
大半はベージュ寄りの白い毛皮にと棘。
パフディに萌えていた視聴者やハリネズミカフェに興味がある向きなら熱狂しそうな姿だった。
人数は30前後だろうか、子供はテントの中に、大人は木々の影に隠れて様子を伺っているようだ。
血気盛んな若者スピナ・ミルもいるようだ。
側面から回り込んで来る気配があった。
警戒されてしまっているが、いきなり攻撃を仕掛けてくるような凶暴な生き物は、スピナ・ミルとは別の方向にいた。
「Gabobobobobobobobobo!」
目を赤信号にしたガボガが安全確認ビーム、または危機管理ビームを照射する。
その先に居たのは、体長三メートルにも及ぶ巨大トノサマバッタ三匹。
これが噂のトブ・ガラらしい。
縄張りを荒らすカブトムシロボに敵意を燃やして飛来した三匹のトブ・ガラは文字通り鉄砲玉のような勢いでガボガに襲いかかり、丸い頭を背中や頭に叩きつけた。
サイズ的にはそこそこいい勝負。
さっき見たツノユキバケロスの骨を砕いて粉砕したのも、恐らくこの攻撃だろう。
けれど今回は、硬度とウェイトの差がひどすぎた。
ぐしゃり。
バードストライクみたいな勢いで突っ込んできた巨大コオロギたちの身体はやっぱりバードストライクをした鳥みたいなダメージを受け、跳ね返されて地面に転がった。
二匹は失神したのか痙攣状態。
最後の一匹は強靭な足でガボガにキックを入れたが、バン、と車のドアを締めるような音が響いただけだった。
そしてスピナ・ミルたちが動き出した。
「ちく」
そんな声を小さくあげると、白い繊維のロープに石を巻いたボーラを投げる。
標的は、トブ・ガラのほうである。
くるくると巻き付いて、トブ・ガラたちの足や羽根の動きを止めると前進開始。
木の柄に大きな獣牙を付けたピックを振り上げて首や腰の付け根を撃ち抜き、またたく間に二匹を葬った。
スピナ・ミルはバッタ狩りの獣人。
トブ・ガラは仕留め慣れていて、急所の位置も正確に把握しているようだ。
最後の一匹は他の二匹よりダメージが小さいようだ。自分の脚力で自分がはね飛んだ後、ガチガチと顎を鳴らして威嚇音を立てる。
「ぽふ!」
尾羽根を立てて後ずさるパファン。
「……ちく」
横のほうから、そんな声が飛んで来た。
ガボガの側面から回り込んできていたスピナ・ミル。
勝手に血気盛んと決めつけていたが、落ち着いた声。
「さがっていろ」と言ったようだ。
白系の個体が多いスピナ・ミルの中では珍しく灰色の毛皮に煤色の棘、両手には黒い輝石のピックを携えている。
トブ・ガラの威嚇を気にすることなく、踏み込む。
魔素を利用した身体強化を使えるようだ。
母や祖父でも瞠目しそうな、電光石火のスピードだ。
次の瞬間にはトブ・ガラの頭の真ん中をピックで一撃して跳躍、そこから首と腰の付け根を破壊していた。
「ぽぽっ!」
感嘆の声をあげるパファン。
灰色のスピナ・ミルは面倒そうな様子で仲間のスピナ・ミルたちに「ちく」と声をかけると、トブ・ガラの足を一本引きちぎり、カニの足かサトウキビのようにひとかじりした。
スピナ・ミルはバッタを狩る虫食種族。
しとめたトブ・ガラは普通に食料として有効利用していくらしい。
困ったやつだ、というように「ちく」と応じたスピナ・ミルのひとりが歩み出て「ちくちくちくちく」と声をかけてきた。
さすがにちょっとわからなかったが、パファンにはわかったのか。
「ぽふぽふぽふぽふ」
と応じる。
「ぽふぽふ」
「ちくちく」
「ぽふぽふぽふぽふ」
「ちくちくちくちく」
ちょっと本当にどういう会話をしているのかわからないが、やがて話がついたらしい。
こちらを振り向いたパファンは
「ぽふ、ぴょ」
と告げた。
(・▴・)ぽふ
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