第16話 怪魚祭りのあとで
グラモ・ニュニュ料理の最後の一品が振る舞われたのは次の日の朝。
骨と尻尾を丁寧に解体し、皮と一緒に煮込み、最後に切り身の一夜干しを加えたスープ。
乳白色に近い、わずかに金色を帯びた一品。
それを口にしたパフディたちは「ぽふぅ」「ぽふぅー」と至福のため息をつき、怪魚祭りの最後のひとときを心ゆくまで楽しんだ。
見事な料理を仕上げたアオサギ一家に、パフディ村の住民一同から惜しみない賞賛と選び抜かれた羽根が贈られる。
釣った私のほうにもやっぱり大量の羽根が贈られている。
市場で商品券代わりに使えるが、ちょっと持ちきれないのでパファンに預けたところ、羽根に埋もれて別の生き物のようになってしまった。
当分の生活には苦労しなさそうな羽根資産ができたが、ひとつ問題があった。
パフディ族、それと近所のクラフトロット族は、自前の羽毛や毛皮があるので衣類の必要性が薄く、衣類や布地はあまり出回らない。
手持ちの衣類は遭難時に身に着けていた釣り用の装備と、パフディたちが用意していた理王氏用シャツとパンツが3セット。
それとガボガの収納に収まっていたランニングとパンツ風の肌着が各7枚×4サイズ。一番小さいものでややゆるめ、二番目に小さいものは部屋着でどうにか、それ以上は要調整と言ったところだった。
荒天、防寒用のポンチョもあったが、オルド文明人向けのフリーサイズらしく、動きやすいとはいえなかった。
靴については、安全靴風の無骨なものが4サイズ。
靴下も7本×4サイズ。
どちらも妙に細長めの輪郭だ。
服飾のセンスは人間に近いが、身体そのもののつくりはだいぶ違うのだろう。
当面のローテーションは問題なさそうだが、余裕がなくなるまえに補充を考えておいたほうがいい。
ハビタスツリーの葉のドームには、内部の温度を一定に保つ機能があり、一年通じて快適だが、冬のドームの外では普通に雪が降ったりするらしい。
そんなに長居はしたくないところだが、余裕のあるうちに備えはしておくべきだろう。
どうにかする方向性は大きく二つ。
パフディ族では珍しく衣装を着ているリュフや、前掛けをつけていたアオサギ一家に話を聞くこと。
もうひとつはガボガが居たあたりを調べてみること。
理王氏のノートによるとガボガがいたあたりには他にもいくつかのオルド文明遺物が眠っているようだ。
ガボガの中にあったブランケットのようなオルド文明系の日用品が眠っているかもしれない。
また、妹のあきらや配信監視・アドバイザーチームMIBのシオマネキ氏からも調べてみてほしいと要望を受けていた。半分以上学術的興味のようだが、ガボガ、パファンと一緒に、身内限定で配信を回しつつ様子を見に行ってみる。
また他の遺物が動き出したらどうしたものかと心配したが……。
がぼん。
がぼーん。
がぽーん。
ぎゅぽん。
ぎゅぼーん。
ぐぼーん。
ぐぼぼーん。
本当に総計7機の遺物の目が光り、動き出してしまった。
日本のカブトムシ、ノコギリクワガタタイプの他、海外のコーカサスオオカブト、ギラファノコギリクワガタタイプなど、様々なバリエーションがあるが、すべてガボガと同型機のようである。
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@MIB/Siomaneki
これはすごい
@AKILAB
姉さんの接近に反応して起動してる?
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ガボガが起動コードを送ったとかそういう話でもないようだ。
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@MIB/Siomaneki
レベル0というのはオルド文明遺物を励起させる資質、
という仮説が立てられそうです。
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「オルド文明人はレベル0?」
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@AKILAB
そういう仮説の立て方もある。
姉さん以外の人間と比較できないとなんともいえないけれど。
姉さんじゃなくてその場所が特別な可能性もあるから
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「そうね……ぽよりょ、ぽよ?」
試しに当事者のガボガたちに「何か知らないか」と聞いてみたが、回答は――。
「Gabo」「gabo」「GABO」「GaBo」「gaBO」「GAbo」「gaBO」「GabO」
「全員何も知らないみたい」
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@MIB/Siomaneki
どれも所持データは同じなのでしょう
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ダンジョン考古学はあまり発展しなかったようだが、折角なので収納用のスペースを見せてもらったが、収納物のほうは全て共通のようだった。
釣り針やラインに使えそうな糸、肌着や靴なども確保しておいた。
一応の収穫はあり。
ガボガが既にいるせいか、新たに起動したカブクワロボたちがついてくることはなかった。
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@AKILAB
こんなにあるなら1機分解したい
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と、あきらがやや不穏なこと言っていた。
インナーのストックは稼げたが、アウター系、冬物の衣類は相変わらずストック不足のままとなる。
パフディ村に戻り、普段は炭焼きの仕事をしているリュフに「その服はどこで手に入れたの」と聞いてみると――。
「スピナ・ミル」
という種族の存在が判明した。
草原に暮らす狩猟、放浪民的な獣人種で、草原に住む大型バッタを狩り、種族名の由来であるスピナという草を素材にした織物をして暮らしているらしい。
「バッタを狩る」
まぁ、そういう食性の獣人種がいてもおかしくない。
むしろパフディたちが虫を食べないことのほうが不思議なくらいではあるのだが。
パファンによると、
「ちくちく、でぃ」
とのことである。
バッタを狩るトゲトゲした獣人種。
ちょっとイメージが浮かばなかったが、配信経由で聞いてみると。
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@AKILAB
ハリネズミ?
@一竿斎
サボテン人間?
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前者のほうが近そうだ。
サボテン人間はバッタに食べられる方ではないだろうか。
試しにモンスター情報アプリで「ボーパルヘッジホッグ」の項目を見せてみる。
リュフの返答は「|むい、ちく、ぽそ(似ていないこともない)」
パファンの回答は「ぷる」だった。
ボーパルヘッジホッグの画像が単純に恐かったらしい。
スピナ・ミルのほうは噂を聞いたことがある程度で、実際に接触したことはないらしい。
とりあえずはハリネズミ獣人族を想像していいかも知れない。
スピナ・ミルは良質な織物を作り、魚や木の実、虫などとの物々交換で提供してくれるが、放浪民なので居住地が安定していない。
入手には幸運と捜索が必要となるそうだ。
織物と物々交換をする商材も必要になるが、これはパフディ族の羽根そのものが、織物のアレンジに使う材料として有用らしい。
グラモ・ニュニュを釣ったときのおひねりがちょうど使えるとのことだった。
スピナ・ミルの住む草原までは、パフディ村から山を下りて一日程度。
スピナ・ミルの集落は月単位で動き回っているのでそこから探し出すのは難しいとのことだったが、現状他にやれることもない。
そろそろパファンも次の勇者活動と言う名のパトロールと採集活動に出る時期なので、パファンと一緒に足を伸ばしてみることにした。
草原の入り口くらいまでは普通にパファンのパトロール範囲、多少の寄り道はOKらしい。
なお、草原の奧にまで入ると「とぶ・がら」、おおきなバッタが出てくるので危険。
その危険なバッタが増えていないか、パフディの住む山まで入ってこないかチェックをするのもパファンの勇者業務のひとつである。
勇者というより斥候役、といったほうが適切な気がするが。
旅支度をして出発、日持ちする木の実を中心に採集活動を行いながら山を下りていく。
今回もガボガが付いてきているが、スピナ・ミルは大型昆虫を狩猟する性質があるらしい。
もし集落を見つけても近づけないほうが良さそうである。
まずはクラフトロット村に立ち寄り、ガボガのカブトムシテントで一泊。
さらに山裾へと降りていくとだんだんと木々がまばらになって行き、やがて、前方に緑の地平線が広がった。
スピナ・ミルの草原に行き着いた。
とぶ・がらの草原、なんて恐ろしげな異名もあるそうだ。
(・▴・)ぽふ
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