第15話 皆で食べよう
玉網にかかったグラモ・ニュニュはまだ暴れていたけれど、腰をさすりながらやってきた長老クラフトロットが左右の頭を同時に叩いて失神させた。
「がぼ?」
長老クラフトロットが私に目を向ける。
おまえの獲物だがどうする?
と聞いているようだ。
「|ぽふたん、ちょむぴま(皆で食べよう)」
と答えた。
池の環境を破壊するタイプの生き物なので、キャッチ&リリースとはいかないし、そのへんに放置するわけにも行かない。
調理するしかないだろう。
理王氏のノートによると、20年前もそうしたらしい。
「がぼ、がぼぼ」
そうこなくては、というようにグラモ・ニュニュに向き直る長老クラフトロット。
最初から食べる気満々だったようだ。
グラモ・ニュニュは体長3メートル、重量200キロの巨大ライギョである。
釣りたてを塩焼きで、みたいには行かない。
まずは血抜き、解体などが必要となる。
私の技術と装備ではちょっと難しいが、クラフトロットたちやアオサギ兄弟、リュフなどは心得た様子でグラモ・ニュニュを締め、首二本と胴体に分割した。
そのまま木に吊るし、大きな壺を置いて血抜きを開始する。
頭については食べる習慣がないらしい。
切り落として土に埋められ、何かの塚のように石が積み上げられた。
日本にもある魚供養塔のようなものだろう。
グラモ・ニュニュの口には大量の釣り針、それと昨日今日で二組使ったスピナーベイトがついていたので埋める前に回収しておいた。
「ぽふぽふぽふぽふ」
「ポフポフ」
「ごふごふ」
「がぼがぼ」
「Gabogabo」
パフディ村近隣住民らと一緒にグラモ・ニュニュの首塚に手を合わせる。
「がぼぼ」
解体と下処理には時間がかかるようだ。
長老クラフトロットは一旦帰れと言ったようだが、興奮状態のパフディたちはその場から動こうとしなかった。
私も現状できることはないが、特にすることもないので配信を回しつつ見物体勢に入る。
調理で気になるのはやはり衛生面だが、そのあたりはアオサギ兄弟というか、アオサギ一家の得意分野らしい。
新たに5羽のアオサギパフディが合流。籐細工の調理台や木製のまな板、大きな生き物の骨から削り出した包丁、七輪などをセッティングしていく。
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@MIB/Siomaneki
オルド文明のセラミック?
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オルド文明の遺跡あたりで拾ってきた壺状の遺物を七輪に流用しているらしい。
調理器具などの消毒はアオサギ一家が連れている雫スライムたちの仕事になる。
まな板や包丁などの上を雫スライムたちが動き回ると、ガボガの衛生ビームに引っかからないところまで浄化されていく。
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@現役Cラン
雫スライム最強すぎるな
@プロテイン至上主義
どこでも見るけど
なんなんだろうあの便利生物
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「ごふごふ」
「がぼがぼ」
血抜きを待つ間に、皮料理をするようだ。
解体担当のクラフトロットたちからグラモ・ニュニュの皮を受け取ったアオサギ一家は慣れた包丁さばきで切り分けると、七輪で沸かしたお湯をかけて熱処理、木べらを使ってぬめりや血合いをこそげとっていく。
そこから更に下茹でをした後、塩と香草で下味をつけ、片栗粉代わりの木の実の粉をまぶし、二つの七輪で二度揚げをする。
できあがったのは。
「ぽふ!」
金色に波打ち、パチパチと音を立てる
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@猫が乗ってる
双頭ライギョの皮の唐揚げ?
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「ごふ」
まずは釣った者から、ということか、ザルに乗せられたグラモ・ニュニュの皮の唐揚げが私のところに届けられる。
「ぽふ」
「ぽふふ」
「ぽふー」
ポフダイも含めて、パフディたちからの羨望の目が凄い。
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@Cotton11
ジュルリ
@Spartan
普通に美味そう
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私が食べないことにはパフディたちも食べられない上、視聴者からの圧も強い。
「ぽよりゅ」
テケ。
フィンガーボウル役の雫スライムに手を触れ、ガボガの衛生ビームチェックを受けてから手を伸ばし、口に運んだ。
バリッした歯ごたえ。
淡白な味と一緒に、口の中にコラーゲン感が広がる。
いつか縁日で食べた鶏皮の唐揚げを想像したが、それよりも繊細な食感だった。
気がついたときには口の中でほどけてなくなり、淡い塩と脂の旨味が口の中に残る。
「うん、ちむ、美味しい」
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@カラアゲスキー将軍
リアクションが淡白すぎんか
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そんなコメントが流れたが、元々そう大きなリアクションを取るタイプの人間ではない。
リアクションなら私よりパファンのほうが向いているだろう。
「パファン、食べて」
よだれを垂らしそうになっているパファンを前に出す。
「ぽふっ!」
大喜びをしつつ、「いただきます」をするように身体の前で翼手を合わせたパファンは唐揚げを嘴に運ぶと。
「ぽふぅっ!」
と尾羽根を広げ、声をあげた。
「ぽぽ! ちむ! ちむ!」
ぴょんぴょん飛び跳ね。
全身で興奮と美味しさをアピールするパファン。
見守るパフディたちも「ぽふ!」「ぽふぽふぽふー!」とざわめいた。
「|ぽふたん、ちょむ(あとは皆で)」
「ごぼ」
お待ちかねのパフディたちに唐揚げを振る舞っていくアオサギ一家。
「ぽふ!」
「ぽふふ!」
「ぽふぽふ!」
お祭り騒ぎのパフディたち。
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@ぽふり虎
よかったねぇ、おいしいねぇ
@MIB/Umiusi
パフディのみなさんが幸せそうで私も幸せです
@AKILAB
これが視聴者の求めるリアクション
見習って
姉さんのは淡白過ぎる
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自分も淡白系のはずの妹にダメだしをされた。
唐揚げの次のメニューは、やっぱり皮と香草を使った吸い物風のスープ。
出汁はグラモ・ニュニュの皮だけのはずだけれど、充分以上に旨味が出ていた。
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@background_noise
これも美味そう
@在宅勤務マン
遭難動画のはずが釣り動画だったと思ったら
最後は飯テロ動画になりよった
@IRK
釣られたのは我々だったんだよ!
@平成の亡霊
ΩΩΩ>ナ、ナンダッテー
@自認冷蔵庫
よし! 先に絶望感をあたえておいてやろう
どうしようもない絶望感をな
この双頭ライギョの食材は…まだ皮しか使われてない。
その意味がわかるな?
@大裸王
な、なんだと……?
まだ肉やキモは出てきてねぇってことか……
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キモは泥などの問題があるのか処分されてしまったが、確かに本番はここからである。
いよいよ血抜きが終わり、メインとなる白身の調理が始まった。
引き続きアオサギ一家が包丁を振るっていくが、ここからは長老クラフトロットたちも料理に参加する。
アオサギ一家は唐揚げからの流れで腹身の部分をフライにし、更に芋や山菜の揚げ物を添えてパフディ式フィッシュ&チップス風に仕上げていく。
一方の長老クラフトロットたちは塩と香草、蒸籠を使って背中の肉を蒸し焼きに、最後に熱した脂と魚醤をかけ、東洋風の蒸し料理に仕上げた。
「ごふ」
「がぼ」
料理対決のようにそれぞれの料理を並べるアオサギ一家にクラフトロット一党。
妙な火花が散っているように感じるのは気の所為ではないだろう。
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@ManaPhysics
どっちも美味そうだが
@深夜のバイオリニスト
流れ的にはさっぱりしたものが良さそう
@自重しろ
香草っぽいのがパクチー系だったらちょっとこわい
@絶対零度の腹話術師
さぁどっちだ
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視聴者たちも盛り上がっているが、審査員にされても困る。
「ぽこ? ぱこら?)」
「ぽこ! ぱこら!」
パファンに話を振って自分は知らない顔をしておいた。
ヒラメやカレイを思わせる、脂の乗った白身魚。
甲乙付けがたいところだが、流れ的には皮の唐揚げのあとなのでクラフトロット式蒸し料理のほうがさっぱりしていて食べやすかった。
意外にと言っては失礼だが、蒸し加減と山椒らしき香辛料を効かせた魚醤ベースのタレの味が絶妙である。
ただ、アオサギ一家は全体の場をつないでくれた上、今も別のメニューを作っている。
一品だけでジャッジをするのはやめておく。
「がぼ」
納得行かないらしい長老クラフトロットはそのままポフダイのところに突撃して審判を仰ぎ、「ちむ。ぽは」と敗北を喫していた。
ポフダイはシンプルに揚げ物派のようである。
(・▴・)ぽふ
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