第14話 グラモ・ニュニュ釣伐(兄視点)
まだまだ仕事が落ち着かないので、妹、千川すいと双頭ライギョのグラモ・ニュニュの戦いを通しで見たのはアーカイブだった。
すいが配信に使っているスマホA−Phone20は、1台約50万円。
配信用AIカメラを内蔵した超高性能機だ。
適当にそのへんにセットしておくだけでも『撮れ高の高いところ』をズームして収録してくれる。
非探索者的には一体何に使うんだそんな高いスマホってなもんだが、今回ばかりは父の親バカぶりが、思わぬ形で報われた。
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@爆薬令嬢
本当に非探索者?
@FluffyTribe
魔法使ってない?
@grasswww
釣り魔法?
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長さ20メートル半の大仕掛けを生き物のように、あるいは精密機械のように制御する妹の挙動に、そんなコメントが投げられる。
なお、魔法の類は本当に使っていないし使えない。
シンプルな身体操作と神がかりめいた身体感覚から来る神技、または魔技ともいうべきものだ。
魔素レベルが0、魔素を利用した魔法や身体強化が全く使えないという点を除けば、千川すいはなにかの申し子めいた存在だった。
――魔素レベルが3あれば歴史が動いていた。
――そもそも探索者資格を取るのに魔素レベルなどというどうでもいいものを測るのがおかしい。
というのが、本人が人類トップクラスの魔素レベル7の母の弁である。
ちなみに魔素レベルというのは、ダンジョンから発生する精神感応粒子、魔素にどれだけの影響を与えられるか、という指標値である。
最大で10、最低で1で、15歳あたりまでは多少伸びることはあるが、それ以降は変動しない。
人間の最高値は8で、9、10は龍などのモンスターで確認されているレベルだ。
どんな生き物でも1はあるものなのだが、すいの場合は何度計測してもありえないはずの0だった。
千川流の持つ静的な身体操作、呼吸法などが災いして魔素レベルを抑えてしまってるのでは、なんて話もあったが、結局原因は不明である。
まぁともかく、魔素レベルがないことを除けば、うちの妹は普通にバケモンだ。
ダンジョン遭難、という大事件でありつつも、家族のパニック度がそう高くないのも、「すいなら大丈夫だろう」「すいだし大丈夫だろう」という認識が大きい。
千川家の場合自分達でやれることが多いので「じっと心配するしか無い時間」が少ないというのもあるが。
釣り魔法などという謎魔法の使い手疑惑を受けつつ、滑らかな竿を操るすい。
餌に食いつかせるのではなく、ライギョ系の魚の攻撃性を利用し、挑発を仕掛けるスタイルだ。
長老クラフトロットとハシビロコウパフディとの連戦で気が立っていたグラモ・ニュニュは縄張りに入り込んだスピナーベイトを食いちぎりにかかり、仕掛けに引っかかった。
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@DungeonTheory
ヒット
@ざまあされるバカ王子
意外とかかりやすいなこいつ
@LureAdept
ここからが問題だ
@MIB/Eboshi
どうやって釣り上げる?
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お得意のやり口で糸を噛み切りにかかるグラモ・ニュニュ。
そこにはハシビロコウパフディの仕掛けと同様、針が仕掛けてある。
グラモ・ニュニュの動きを観てすいは竿をあげ、二度目のアワセを入れた。
成功。
左右の頭に針が掛かったが、すいのラインは一本なので、拘束力は高くない。
左の頭は普通に動き、ラインを食いちぎりにかかる。
そのタイミングを見切ってすいは三度目のアワセを決める。
続いて四度目、五度目――。
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@unknown404
え? なにこれ
@かわむしさん
食いちぎろうとするたびに針を動かしてアワセを入れてる
@野良探索者A
アホフィッシュ過ぎんかこいつ
@LureAdept
魚じゃなくて竿と針の制御がおかしい
こんなに連続してアワセを成功できるもんじゃない
@IRK
バケモノかな?
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そんなコメントの間にも、6本目、7本目、8本目の針にかかるグラモ・ニュニュ。
「ぽふ!」
「ぽふぽふ!」
「がぼ!」
「ごぼ!」
「ポフ」
現地のパフディたちが興奮の声をあげ、すいは巨大パフディのポフダイに声を投げる。
「ポフダイ、りゅぽ!」
遭難三日目でもう簡単な会話ができているらしい。
ここも地味にバケモノポイントだろうか。
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@かわむしさん
まだアワセを決め続けてる!
@LureAdept
神業どころの騒ぎじゃないぞ!
@LineCutter
なんなんだこれ!
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9、10、11。
千川すいの異常性に気づき始めた視聴者たちに驚愕、困惑の色が広がり。
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@千川香澄
探索者登録制度の欠陥で
世俗の評価は得られませんでしたが、
千川すいは千川流の至宝。
この程度は千川すいの片鱗に過ぎません
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投下される母の娘自慢。
チューチューブ慣れはしていないはずなので事前に用意していたドヤコメだろう。
幸いコメントの流れが速い。
さっさと流れてくれた。
12、13……。
そのあたりで視聴者たちも気づき始めた。
針に食いつき続けるグラモ・ニュニュが前進し、岸に近づいてきている。
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@takumi_0921
岸に寄ってきてる?
@LureAdept
針に食いつかせる動作で
魚を前進させて岸まで誘導している
成立するのかこんな戦術
@基礎魔素学徒
なんだよそれ……。
@MSX
バケモンかよ……。
@知らんけど
延縄漁方式で身体に引っ掛けるのかと思ってた。
@かわむしさん
それだと結局パワー勝負になるから
彼女の体格じゃ難しいし道具も保たない。
糸を切るクセを利用して、
糸そのものを餌として喰わせてるんだ
@MonsterAngler
魚自身に糸を手繰らせて
岸に寄せてるみたいなもんだ
自分で書いてて
何言ってるのかわからんけど
@チー牛肉抜き
やっぱり釣り魔法なんじゃね?
@腰に爆弾を持つ男
本当に人間業じゃねぇ
@ゴールデンブレンドたかし
これが非探索者ってマ?
@筋肉探索者
A級とかS級はこういう釣りをしますって
言われたほうがまだ納得できそう
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14本目のあたりでグラモ・ニュニュもすいの狙いを悟ったようだ。
15本目の針には行かずに身体をくねらせ、力ずくで糸を引きちぎり、あるいは針を外しに掛かる。
逆らわずにラインを伸ばせば糸とフックは守れるが、そうするとここまで詰めた距離が再び離れてしまう。
すいは腕と竿の動きでグラモ・ニュニュの挙動に干渉、さらに足さばきを併用して糸や針にかかる負担を殺す。ラインブレイク防止の為に自動的にラインを送り出すドラグ機能の動作を最低限に抑えてグラモ・ニュニュの抵抗をしのいでいく。
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@平凡な高校生
うわあ竿折れるっ!
@ソロ先生
ラインもつのか
@はいはいすごいすごい赤ちゃん
……もってるな、なんでだよ
@浪速のwww草植士www
やっぱり釣り魔法だったwww
@MonsterAngler
竿さばき+足さばき+体重移動+リールさばき=釣り魔法でいいならまぁ
@MIB/Koika
ヒドライギョ暴れまくってるけど
距離が全然動いてない
@Apprentice
逃げる方向をちょっとずつずらして円を描くように誘導してる
@達人志望
魚の方向感覚を狂わせてる?
@サカナきゅん♡
インチキ過ぎるギョッ!
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滅茶苦茶に暴れまわり、針と糸から逃れようとするグラモ・ニュニュだが、結果としては体力を奪われるだけだった。
すいは数歩後退、リールを巻いて距離を戻して行く。
グラモ・ニュニュは怒りに任せて糸切りに行くが、15本目の針に掛かっただけだった。
成すすべのないグラモ・ニュニュ。
ただ、すいの方もグラモ・ニュニュを自力で一気に岸に寄せるほどのパワーはない。
現在の距離は約10メートル。
グラモ・ニュニュのほうも、下手に糸切りに行けば死地に近づくと悟ってしまっている。
ここから先の距離をどう詰めていくかが難題だろう。
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@かわむしさん
まずいな、魚の戦意が薄れてきた
@ぽふぽふしたい
屈服したってことじゃないの?
@元探索者
ここまでは魚の食いつきをあおって
引っ張ってきた
攻撃性が落ちると引き寄せにくくなる
@LineCutter
ビビって引きこもってる象と
荒ぶってる象なら
荒ぶってるほうが引き寄せやすい
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やや心配げな視聴者たち。
「ぽふー!」
「ぽふぽふー!」
「ぽぽふー!」
細かい理屈はお構いなしに応援を続けるパフディたち。
少しずつリールを回し、体重移動を駆使してグラモ・ニュニュを岸に寄せていくすい。
残りの距離は約7メートル。
頭が2つもあるせいか、グラモ・ニュニュにもある程度の狡猾さが備わっているようだ。
すいの体力が削られたところ見計らったように、猛然と暴れ出す。
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@MonsterAngler
最後のひと暴れか
@LureAdept
技術は神だが体力はどうだ?
@PofuLover
がんばえー
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「りゅみ! りゅみ!」
「ぽふ!」
「ごふ」
「がぼ!」
視聴者とパフディたちが息を飲んで見守る中は、すいは、
「ガボガ! ぽこ!」
とんでもねぇ飛び道具を池に放り込んだ。
全長約六メートルのヘラクレスオオカブトムシ風ロボットは防水も万全らしい。
「Gabo」
すいの要請通りまっすぐに水場に突っ込み、全長6メートルの足場となった。
角の長さが2メートル近くあるので実際は4メートル程度だが、これで残りは3メートル。
どうにか、ではあるがポフダイの玉網の射程範囲である。
「ポフダイ!」
「ぽ、ぽふっ!」
事前の打ち合わせはなかったのだろう。
大慌ての様子で、ポフダイがガボガの背中によじ登ろうとする。
それを追い越し、ハシビロコウパフディのリュフがガボガの背中に駆け上がる。
ポフダイに「ポフ」と声をかけて玉網を受け取るとそのまま大上段に玉網を振り上げダイブ。
グラモ・ニュニュの巨体を網の中へと取り込んだ。
「りゅふ!」
「りゅふ!」
「るふ! 」
「ぱたぱた!」
歓声をあげるパフディたち。
網を抜け出そうともがき、暴れるグラモ・ニュニュ。
リュフの力では抑えきれない相手だが、リュフの仕事はグラモ・ニュニュを網にかけ、時間を稼ぐだけで充分だった。
どぼぅんっ!
「ぽふだい!」
「ぽふだい!」
「えるでぃ・ぽふだい!」
巨大な水柱を立て、遅れて着水した巨大パフディのポフダイが玉網を掴む。
「ぽふぅーーーっ!」
気合の声と共に、一息に水の上まで、グラモ・ニュニュの巨体を持ち上げた。
「ぽぽー!」
「ぷりー!」
「ぽそ、 ぴち!」
「ぽふだい! ぽふだい!」
「りゅふ! りゅふ!」
「りゅみ! りゅみ!」
大歓声をあげるパフディたち。
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@平成の亡霊
とったどーっ!
@助かる命
すげぇ、でけぇ。
@羽毛崇拝者
ちからづよい
@MIB/Umiusi
ぽふだい! ぽふだい!
@MIB/Hitode
りゅふ! りゅふ
@DungeonDiary
りゅみ! りゅみ!
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配信の視聴者たちもつられて変なコールを始めていた。
(・▴・)ぽふ
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