第12話 事故映像かと思ったら釣り動画だった
川虫での釣りはここまでにして、仕掛けを大型のスピナーベイトに交換する。
金属の回転羽根と、腰蓑のようなスカートを一本のワイヤーでまとめたルアーだ。
ラインに3センチ刻みの目印を付けてキャストする。
疑似餌というにはだいぶ無理のある形状だが、水中で引くと羽根が光を散らし、スカートが水を押し、音と振動で魚を呼び寄せる。
形を似せるんじゃなくて、餌の存在感そのものを放り込むルアーだ。
狙いは普通にグラモ・ニュニュである。
糸を噛み切られるのは覚悟の上で、グラモ・ニュニュの魚信を確認してみたかった。
リュフの生き餌に食いついたばかりなのであまり期待はしていなかったけれど、警戒するというより気が立っていたらしい。
スピナーベイトを引きよせていくと、あっという間に食いついてきた。
体長3メートルの巨大ライギョ。
重さはたぶん200キロはあるだろう
ランサーフィッシュを想定して用意していた対モンスター用のロッドが冗談みたいに頼りなく曲がり、弧を描く。
わかっていたが、私ひとりの力で釣り上げられる相手じゃない。
魔素レベルの高い人間ならば、魔素反応を利用した身体能力強化と武術的な身体操作で対応できるが、私にあるのは後者だけ。
さすがに呼吸や身体操作だけでどうにかなる重さとパワーではない。
ラインを伸ばし、糸と竿へのテンションを落とし、観察に徹する。
スピナーベイトに食いついたのは、向かって右側、つまり左首。
左の首のほうが効き首なのかやや長く、傷も多いようだ。
糸を引いて深度を取ったグラモ・ニュニュはそこで身体を丸めるようにして二つの頭を近づけ、右の首でラインを噛み切りにかかる。
竿を動かしてラインを操作。右の首の噛みつきを二度まではかわしたが、三度目の噛みつきで捕まった。
ナイフみたいな歯がラインを断ち切り、グラモ・ニュニュは姿を消した。
「ぷい……」
残念そうな声を出すパファン。
「気にしなくていいわ。ただの様子見だから」
スピナーベイトをロストしてしまったが、一応は想定通りである。
ラインを引き戻し、目印としてつけておいた線の数を確かめた。
スピナーベイトから70センチほどの位置で噛み切られているようだ。
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@MIB/Hitode
ツインヘッドライギョ?
@MIB/Koika
ヒドライギョ?
@元探索者
非探索者ってマ?
@通報しました
何そのフェイクっぽい鳥
@勘のいいガキ
事故映像かと思ったら釣り動画……?
@Mr.Innocent
これが本当の釣り動画というわけだ
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コメントをチェックしてみると、わずかだが一般視聴者の流入も始まっているようだ。
父の変なコメントが一番気になった。
「では、今回はここまでにさせていただきます。それではまた」
「ぽふ!」
あとはパフディ村に引き上げるだけなので配信を切り上げる。
リアルタイムでは大きな反応はなかったが、パファンの破壊力は私の想像よりだいぶ大きかったらしい。
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@えもみ
な、なんじゃこのポッフポフしたイキモンはぁ……
@ポジポジ
かわええのがお魚とってる……。
@Fラン探索者
どこですかそこ今すぐ凸しに行きます
@シンディ・ルイズ
こんなものがいるなんてダンジョンじゃないわ!
羽根のついたぽふぽふパラダイスよ!
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配信終了からしばらくすると、アーカイブの再生数とコメントが急激に増え始める。
直接確認はできなかったが、ペケッターなどのSNSでバズり始めたらしく、配信開始時は関係者だけだったチャンネル登録者は、その日のうちに千人、次の日には一万人を超えていた。
視聴者が増えると「AI動画?」「非探索者がダンジョンに入るのは犯罪ですよ」「売名乙」などといった攻撃的なコメントも書き込まれたが、そのあたりは父が依頼したモデレーション会社が処理してくれた。
自分の実家の太さを妙なところで再確認させられた。
◯◯◯
次の日も散歩がてら池の様子を見に行くと、今度は長老クラフトロットが大きな岩の上に陣取り釣り糸を垂れていた。
餌はガマガエルを模したクラフトロット式の餌木。
パフディ村から依頼を受けたのか、勝手に噂を聞きつけてやってきたのかはわからないが、狙いはグラモ・ニュニュのようだ。
後方には助手らしいクラフトロットが二匹陣取っている。
別のポイントではリュフが例の二本の竿を構え、不動の構えで魚信を待っている。
更には二匹で一組のようなアオサギのパフディが仲良く一本ずつの釣り糸を垂れていた。
近隣の腕自慢(推定)の釣り大会のような雰囲気になっているようだ。
パフディ的にも見逃せないイベントだったらしい。
「ぽふ」
「ぽふぽふ」
「ぽふー!」
野次馬パフディたちが、わらわらわくわくと集まって見守り。
「がぼぼ!」
長老クラフトロットに「しずかにしろ」と怒られたりしている。
さらにはポフダイが、巨大な玉網を携えて、最後の取り込み役として陣取っている。
撮れ高がありそうに思えたので配信を回すことにした。
釣り大会の邪魔にならないよう声は出さず、配信者コメントとして。
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@sui_watch
釣り大会をしているようです。
邪魔になるので喋りません。
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と注記した。
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@平成の亡霊
ハシビロコウにサギ……なんじゃあのデカいのは?
@nin_nin
ライチョウと思われる
@現場熊猫
サンダーバードか、王様感あるな
@pancake_life
ライチョウって結構おとなしめの鳥のはずだけどな
@理論派探索者
クラフトロットが混じってるのはなんなのか
@羽毛崇拝者
池のまわりがぽふみと尊みにあふれている
@MIB/Umiushi
創世の7日目にふと思いつき、神は言った
ぽふみあれ
そしてこの種族が生まれたのだ
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パフディ大集合のインパクトにコメント欄が盛り上がっているが、釣り大会にも動きがあった。
「がぼーっ!」
最初に魚信をとらえたのは長老クラフトロット。
見事にグラモ・ニュニュをとらえた仕掛けは、双頭ライギョのパワーとウェイト、そして鋭い牙にも耐える長老自慢の一品だった。
ただし、長老クラフトロットの体重ではグラモ・ニュニュの引きには対応できなかった。
パイクのときと同様あっけなく水中に引き込まれて水柱になった。
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@yuki_snow
どっちが釣られてんだ
@かわむしさん
魚影がデカすぎる
@解釈イッチ
普通にモンスターじゃねぇか
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長老クラフトロットの場合は引き込まれてからが本番のようなイメージがあるが、今回は無理だったようだ。
得意の水中格闘戦に持ち込もうとしたものの、逆にグラモ・ニュニュの頭突きを食らって跳ね上げられ、空高く吹き飛ばされていた。
二つの口で食いつかれ、食いちぎられかけたところでどうにかかわした結果、頭でお腹を強打されたらしい。
「ぷる!」
ちょうど近くに陣取っていたポフダイが玉網をかざして受け止め、彼の最初の仕事になった。
次の魚信はアオサギ兄弟。
二本の竿が同時にしなる。
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@okome_dayo
かかった?
@朝から夜更かし
ついさっき掛かったばかりなのに連続で掛かるもんなのか?
@作業用
引き的には一匹っぽいけど……。
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「ごふ!」
「ごふっ!」
ややクセのあるパフディ語で気合の声をあげ、竿をあげるアオサギ兄弟。
姿を表したのは。
「ぽふ?」
「ぽふふ……」
「ごふ……」
「ごふぅ……」
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@MIB/Eboshi
魔素ザリガニですね
@Fラン探索者
喰いではありそうだが
@元グリーンベレー
これが狙いってわけじゃないよなぁ
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魔素の影響で巨大化した体長一メートル強の巨大ザリガニだった。
きちんと料理すれば結構美味しく食べられるが、残念ながら今回は外道、残念枠である。
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(・▴・)ぽふ
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