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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

婚約辞退の、正しい方法

作者: 赤川ココ
掲載日:2025/12/03

 手慰み数弾です。

 第一王子との婚約を打診された公爵が、令嬢の病身を理由に辞退を申し出た。

 先日の顔合わせの時、王子と面会した直後体調を崩し、その場から辞したこともあり、王室はすぐに納得して、他の候補へと目を向けてしまったが、王子本人は納得できなかった。

 高貴な自分に見合う容姿と地位を兼ね備えた、二歳下の公爵令嬢に、一目で惹かれてしまったのだ。

 何とか接点を持って、いつかは自分との婚約を考え直してほしいと願い、王子は幾度となく公爵家を訪ねたが、先触れを出して訪問しても、令嬢と顔を合わせることができなかった。

 その徹底した拒否に、いつしか疑問を覚えた王子は、最終手段に出ることにした。

 その日、公爵家の面々は、知人宅で行われる社交場に、全員で参加することになっている。

 それを調べ上げた王子は、公爵家への侵入を試みることにしたのだった。


 公爵たちが乗る馬車が、門を出て行くのを見送って暫く待ち、王子は護衛の先導の元、スムーズに屋敷に入り込んだ。

 王子の予想通りなら、あの馬車には令嬢は乗っていない。

 きっと、病身というのは言い訳で、公爵は令嬢を外に出すことを疎むようになったのだろう。

 あの公爵は、政に関わりたくないと思っているきらいがある。

 自分と婚約をして、王家と関わることを、煩わしく思っているがゆえに、令嬢の気持ちを押さえ付けてしまおうとしているのだ。

 そんなことはさせないと、心底憤りながらも、護衛の後ろから屋敷に侵入し、廊下を歩く。

 社交場である知人宅は程よく遠く、深夜まで続く催しだと聞いているので、慌てて探す必要もないが、爵位のある屋敷の警備を思うと、そうゆっくりもしておれず、慎重にそれらしい部屋を探し回った結果、ようやく令嬢の部屋らしき部屋を見つけた。

 二階の薄暗い廊下の奥の部屋から、誰かが出て来るのが見えたのだ。

 メイドらしきその人物は、小さく室内に声をかけ、扉を閉める。

 こちらに歩いてくるメイドを、息を殺してやり過ごすと、王子は護衛たちと共にその扉の前に立った。

 扉を小さく叩き、掠れた声の返事の後、堂々と部屋に入る。

 護衛たちと共に部屋に入り込んだ王子は、寝台に起き上がる寝間着姿の人物を見つけた。

「ようやく、会えた」

「っ? 第一王子殿下? 一体、どうしてっ?」

 若干恐怖を感じている令嬢に、王子は優しく微笑みながら近づく。

「どうしてって。公爵が、あなたに会わせてくれないから、こうするしかなかったのです」

 令嬢が、顔を伏せた。

「申し訳ありません」

「謝らないでください。それより、どうか、あなた自身の言葉で、答えをください。私との婚約、受けてはくれませんか?」

 優しく問いかけたのに、令嬢は頑なに顔を伏せたまま、首を振った。

「何故? 病の事なら、心配しなくてもいい。寧ろ、婚約者であれば、王室の医療だって、当てにできる」

「っ。もう、遅いのです。病の後遺症で、わたくしの顔は……」

 王子は令嬢の言葉を遮るように、その肩を両手でつかんだ。

「跡が残ってしまっていたとしても、問題はありません。きっと治して見せます」

「そうではなく……」

「私が、そんなことで引くと、思っているのですか?」

 そこで引く気があるのならば、ここまでやってくるはずがない。

 王子はそう言い切り、護衛に明かりを持ってくるように指示した。

「さあ、見せてください。どのような跡があるのか。そして、決めてください。一生閉じこもるか、婚約者として私と共に歩み、治療を受けるか」

「……王子殿下」

 恐る恐る、令嬢が顔を上げた。

 暗闇の中で、蠟燭の明かりが灯され、その顔が鮮明になる。

 微笑んで令嬢の顔を拝んだ王子の顔が、引きつった。

「嬉しいお言葉です。わたくしのこの顔を、許していただけるのですね?」

 掠れた声で微笑んだのは、可愛い寝間着姿の、公爵だった。


 空気が一気に凍る中、公爵の姿かたちの令嬢が、涙ぐみながら言う。

「先の顔合わせの後、高熱で倒れてしまったのですが、三日後に目覚めた時には、この姿になり果ててしまっていたのです」

 気のせいか、声も公爵が令嬢に寄せて出しているようにしか、聞こえない。

 肩を掴んだまま固まっている王子を見上げた令嬢の目は、感動でうるんでいて、それがさらに、不気味さを増長させていた。

「このような姿になってしまっては、殿下の横には立てない。そう思い込んで、父にも辞退の申し出をお願いしたのですが、そこまでおっしゃっていただけるのでしたら……」

 ここが、限界だった。

 そっと体を寄せてきた令嬢を、王子は悲鳴と共に引き離していた。


 転がるように屋敷を逃げ出していったと、執事からの報告を受け、公爵は令嬢の部屋を模したそこの、寝台を模した場所から、ゆっくりと立ち上がった。

「……悲鳴を上げるほど、私は不気味か?」

「……お答えしかねます」

 そうか、不気味か。

 執事の答えに、公爵は頷いてしまった。

 メイドにメイクをしてもらい鏡を見た時に、自分の顔ながら悲鳴を上げそうになったから、不気味は不気味なのだろう。

 だが、これも大事な娘のためを思えば、なんてことはなかった。

 たとえ、爵位持ちとして、大の大人の男としての尊厳が、地に落ちたとしても、娘の命を救うと思えば。

 公爵家には、二人の子がいる。

 後継ぎの長男と、二つ年下の長女の二人だ。

 王子の婚約者候補になってしまった娘は、幼い頃から変わった子だった。

 医師の見解によると、娘には他の世界で生きた記憶が残っており、そのせいで、娘という存在を押し付けているのだと、思い込んでいる節があるとの事だった。

 物心ついてしばらくした頃から、娘は大人びた口調でよく両親に訴えた。

 自分は、この子に憑りついてしまったようだ、神殿で祓ってください。

 可愛い盛りに、こんな目にあうこの子が可哀そう。

 早く、この子にこの体を返したい。

 文字通り混乱状態だったが、これはこの子の個性と判断し、必死に向き合った。

 精神も安定し始め、ようやく今の自分を受け入れ始めたかに見えた、この時期だった。

 王室より、婚約の打診があったのは。

 娘の気持ち次第と、取りあえず顔合わせに臨んだのだが、王子の顔を見た途端、幼少期の症状が再発した。

 しかも、最悪なことまで口走り始めたのだ。

 このままあの王子と婚約したら、学園卒業の日に、王子の思い人を害した罪で、婚約破棄された上で、処刑される。

 そう言っておびえる娘を見て、婚約辞退を決めた。

 なのに、王子は辞退理由を疑い、あろうことか、公爵家が外出している時を見計らい、屋敷に侵入しようとしたのだ。

 これには国王陛下も呆れ、しかし思い込んだ王子の愚行に手をこまねいてしまい、公爵に形だけの婚約を打診する事態になった。

 そうすれば王子も、可笑しな真似はしないだろという、淡い考えだったのだが、本当に淡過ぎた。

 学園入学後も、娘とは無干渉だった名ばかりの婚約者が、自身の卒業式後のパーティーで、男爵家だが何だかの令嬢を侍らせて、婚約破棄を宣言してしまったのだ。

 しかも、思い人への害意を理由に、娘に極刑を言い渡してしまう。

 その時丁度、国王夫妻と公爵夫妻は、外交で国を留守にしており、戻った時にはすべてが終わっていた。

 まさか、娘の、ではなく、王子の卒業の日だったとは、盲点だった。

 何もかもが後手になって盛大に悔やむ公爵に、後継ぎの息子は娘の最期の言葉を告げた。

「最期まで、ご迷惑をおかけしましたって。迷惑なのは、あの王子の方だったのにっ」

 学園では、王子の素行が問題になっていた。

 息子の機転で、娘と王子の接近は防げたが、その煽りで王子は様々な女子生徒と接近していた。

 これは、娘の気を引くための行動だったと、本人が証言した。

 卒業が近くなり、婚約を白紙にされることを恐れたと。

 思い人とされた男爵令嬢にしても、単に余興の役者として侍っていただけで、まさか、公爵令嬢を死に至らしめることに協力してしまう羽目になるとは、思っていなかったと、後に主張していたと聞いたが、公爵には意味のない主張だった。

 既に、守るべき娘はこの世にいないのだ。

 元凶の王子は、王位継承権を剝奪され、よその国の後宮に押し込められたと聞くが、何の感想も湧かなかった。

 ただただ、後悔しかない、そんな人生を終えたのは、そんな状態でも長生きし、夫人を看取って数年後の事だった。

 やっと終わった。

 娘に会って謝れればいいなと願った途端、何故か若かった頃に時が逆戻っていた。

 丁度、あの忌まわしき顔合わせの後で、寝込んだ娘が目を覚ましたころ、だ。

 もう少し前ならば、王子と会う事をも断れたというのにっ。

 悔しい思いはあるが、これからでもやりようはあると、公爵は涙ながらに訴える娘を宥めながら、頭を働かせていたのだった。

 王子を追い返した後、遅れて家族と合流した公爵は、知人宅で国王陛下からの書簡を受け取った。

「……第一王子を、塔に幽閉するそうだ」

「あら。何か、あったのでしょうか?」

 夫人の疑問に、公爵は微笑んで答えた。

「何でも、私が狂ったと訴えたそうだ」

「あなたが? 何故?」

「さあな。本当に、気が触れてしまわれたのだろう」

 不思議そうにしている妻に笑いかけながら、公爵は心の底で誓った。

 娘と妻を含む家族を守ることもそうだが、二度と、女装はしない。

 



 

 頬紅や口紅をつけすぎたんでしょうね。

 公爵も、一応見目はいいはずです。

 爵位持ちの、威厳を捨てた斜め上の行動に、時を戻した兎も、執事もドン引きです。


P.S ちなみに、この話を作る時、某アニメの山●伝●先生の女装姿で、脳内再生されて大変でした。


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― 新着の感想 ―
まあ外国の後宮送りというだけでは女王あるいは王妃の後宮か王の後宮かわかりませんしね 元王子が日常的に女装をさせられてる未来も可能性としてゼロではない
勝手に公爵令嬢の寝室に侵入したところに女装した公爵がいた?公爵は狂っている? (こいつはもう駄目だ・・・)
山田先生は美女だよ!と思いましたが、お父上、体を張った家族愛が見事でした。 そして万が一ホレられたら困るため、きっと無様な女装をしたのでしょう。たぶん似合う着こなしと化粧をしたら、父上もイケてるよ!!…
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