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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海


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第37話 お嬢様は前を向き、モブを拘束する

 騒動が終わった後は、日常が戻ってくる。

 放課後と言えば……恒例のテスト勉強タイムだ。


 美術室に戻った直後、離れた席できゃっきゃと楽しそうに勉強会をしている暁斗達をしり目に、俺は怖い先輩に拘束されていた。


「……随分生温い手段を選んだわね」

「そうですか? 実質国外追放だし、結構な結末だと思いますけど」


 言うまでもなく、先程の件である。

 早瀬達を殺すでも潰すのでもなく、海外留学という名目で国外へ飛ばした結論に、雪海は「ふーん」とどこか気の抜けた声を漏らしていた。

 攻撃特化型なお嬢様だし、少し思うところがあるのだろう。


 しかし、俺はこれで良いと思っている。

 宣言通り、クリーンな方法で終わらせて見せた。

 何より俺が雪海に見せたかったのは、復讐なんかせずとも相手をやり込める事はできるという事実だ。

 さらに、それを暁斗が実行するからこそ、意味がある。

 雪海は暁斗の手腕に感銘を受け、復讐計画をきっぱり手放し、さらに彼に興味を持つという最高のシナリオ……。


 我ながら、策士である。


「はぁ……わかったわ。もう復讐なんてこれっきりにします」

「そうですか」

「えぇ。良い物を見せてもらいましたから」


 想定通り、宣言する雪海。

 俺はそれを受けて、心の中で逆転ゴールを決めたサッカー選手が如く、舞い上がる。


 紆余曲折はあったが、これにてようやく雪海のイベントも完遂できた。

 本来は主人公である暁斗が、ただ単に正面から説き伏せるだけで簡単に復讐から立ち直るはずなのに、協力者ポジが俺というモブに移ったせいで、だいぶ遠回りをさせられてしまった。

 だがしかし、結末は原作通り。

 暁斗の活躍によって雪海は思い改め、今後は真っすぐに生きていく事だろう。

 終わり良ければ全て良しなのだ。


「……止めてくれて、ありがとうございました。危うく殺人前科が付くところだったわ」


 感謝され、俺は鼻が痒くなる。

 だから照れ隠しに、俺は一つだけ心残りだったことに言及した。


「そう言えば、早瀬のお兄さんって……」

「あぁ、貴方も気づいていたわね。その彼こそ泳がせていた例の男よ」

「やっぱり」


 もうわかりきっていた事ではあるが、雪海の口から聞いて頷く。

 そして、そのまま聞いた。


「結局、その人の事に関しては俺の方はまだ——」

「その事なら心配しなくて結構です」


 あくまで早瀬と亜実達を抑えただけで、雪海が当初から気にかけていた早瀬の兄本人には俺は接触すらしていない。

 だからその件について話そうと思ったのだが。

 間髪入れずに答えた雪海に、若干焦る。


「まさかもう殺し――」

「だから、人を殺人鬼みたいに言わないでくれる? 貴方が作戦があると言っていたから、まだ放置してるわよ」

「その口ぶり的に、確保はしてるんですね」

「えぇ。ずっと貴方の周辺を監視していたから気付けた事よ。あの男、どうやら妹さんの作戦に乗じて、私を誘き出して復讐するつもりだったようね」

「……そうですか」


 当然のように監視されている事を告げられたが、もう反応しない方が良いのだろうか。

 ジト目を向けると、彼女は続ける。


「気にしなくても大丈夫よ。この先は警察に任せるわ」

「え? でもそれじゃ――」

「あの男、薬物所持で検挙できるのよ。言ったでしょう? 確実に消せるきっかけが出るまで泳がせてるって」

「あぁ、あれってそういう意味だったのか」


 そう言えばそんな事を言っていた。

 てっきり俺は、決定的な行動に移った瞬間にその場を押さえて殺す~くらいのニュアンスだと思っていたのだが、違ったようだ。

 大学の反社会的グループとつるんでいると言っていたし、そりゃ薬物くらいなら持ってるか。

 それをネタにすれば、雪海の事件とは別個で処理できるし、前科もついて相手は完全に終わる。

 問題点と言えば雪海の気が済まない事だけだったが、今回の件で復讐の熱から冷めた今ならそれも関係ない。


 案外、雪海も最初からクリーンな手段を持っていたらしい。

 というわけで、「なぁんだ、先輩ってばビビらせないでくださいよー」と言ったところ。


「は? 殺すのは決定事項だったわよ。貴方の話を聞いて計画を改めただけ」

「……」


 やはり、雪海は雪海だった。

 と、そこで俺は話を戻す。


「というか、感謝なら暁斗に伝えてくださいよ。実際に動いて言い込めてくれたのは暁斗なんですから」

「そうね」


 頷く雪海に、チラリと視線をやる俺。

 その横顔は、前方の席で勉強をしている暁斗を見ていた。

 表情には、以前と違って明確な興味が含まれている。

 珍しく、俺の作戦通りに好感度の調整が出来たらしい。


 そしてそれは、梓乃李の方も同じだ。

 すぐに俺も前に視線を戻し、ぼーっと呆ける。


 梓乃李をあの場に呼んだのは、暁斗のカッコいい姿を見せつけるためだ。

 事情を知らない梓乃李にとって、あの場は暁斗の独壇場にしか見えなかっただろう。

 

 彼女の目には、亜実に復讐されて泣きついた俺を見事に救って見せたカッコいい暁斗~なんて、そんな風に映ったに違いない。

 同時に、結果として梓乃李の大元の悩みの種であった亜実のいじめにも、暁斗が直接制裁を与える形を作り出せたわけで。

 ここで無理やり、俺が解決してしまったシナリオを暁斗に上書きさせたのだ。

 

 実際、さっきからずっと見ているが、今日も暁斗と梓乃李は仲良さそうだ。

 金曜は電話で遊ぶ予定を立てたと言っていたし、もう付き合う一歩手前くらいの好感度で間違いないだろう。

 俺の今回の作戦は、早瀬と亜実の処理に加え、雪海と梓乃李の好意を本来あるべき場所に差し向け直した事に意味がある。


 今は全てが終わって、胸にぽっかり穴が空いたような気分だ。

 これがロスという奴なのだろうか。

 もっとも、あんな事件は懲り懲りなのだがな。


 と、そこで俺はふと手元を見る。


 実は今、俺だけはテスト勉強ではなく、雪海の絵画制作に手伝わされているのだ。


「あの、俺も一応考査前なんですけど、いつまでここに居れば?」

「うるさい。水」

「……はい」


 水彩画の着色中の雪海は、ぶっきらぼうに言い捨てる。

 それに俺は筆洗を差し出した。

 さっきからこれだ。

 いつの間にか、雑用として扱われている。


「絵具」

「あ、はい」

「それではありません」

「え、あと、その……どれ?」

「……」


 言葉足らずな雪海のせいで、あたふたする俺。

 彼女は筆を置き、ため息を吐いた。


「貴方、先程からずっと上の空ですね」

「え?」

「気付いていないのですか? ずっと前の羽崎さんばかり見ている事に」

「……」


 言われて気づく。

 そう言えば雪海の顔を、ほとんど見ていなかった。


 視線を向けると、雪海はじっと俺を見つめていた。


「そんなに羽崎さんと須賀さんの関係が気になりますか?」

「え? 何言ってるんですか? お似合いだなぁとしか思ってませんけど」

「あら、そうでしたか。てっきり羨ましがってるように見えていたもので」

「は? 俺が?」


 何を言っているんだろうかこの人は。

 羨ましいって、暁斗が?

 梓乃李に好かれてイチャイチャできて、羨ましいって?

 この俺が、嫉妬してるとでも言いたいのだろうか。

 冗談はほどほどにして欲しい。


「ほら、喋ってないで作業の続きに集中してくださいよ。先輩が終わらせないと俺の勉強ができないじゃないですか」

「貴方、普段から勉強なんかせずに別の考え事ばかりしているじゃない」

「……まぁ、それはさて置き」


 見透かされていたため、愛想笑いで誤魔化す俺。

 と、そこに雪海は言ってきた。


「羽崎さんが好意的に思うのも仕方ありませんね。先程の須賀さんのやり口は、本当に華があって、完璧な運びでしたから」

「だから、俺は嫉妬なんかしてないって――」

「でも、違うでしょう?」


 否定しようとしたところ、雪海に遮られた。

 驚く俺に、雪海は微笑んだ。


「あれは、貴方が用意した演出に過ぎないのです」

「――は?」


 思いもよらない言葉に、つい素で聞き返してしまう俺。

 しかし彼女は態度を崩さず、俺の心に直接刺してくるように言葉を紡いだ。


「確かに須賀さんのパフォーマンスは輝いていました。ですが、そのステージを作ったのは貴方なのです。アイドルはプロデューサーが用意する箱がなければ輝けませんし、どんなに技術のある画伯も、キャンバスがなければ完璧な絵は描けない」

「……」

「全部、()()()功績なんですよ。私が感謝しているのは、他の誰でもなく、貴方なの」


 雪海の言葉に、心がざわめく。

 違う。

 俺は何もしていない。

 いや、確かに裏で作戦の9割を考えたのは俺だ。

 だがしかし、アイツがいなければ成功しなかった。

 アイツが主人公でなければ、早瀬や亜実の心に言葉は届かなかっただろう。


 だから、違うんだ。

 俺じゃない。

 俺は、ただのモブなんだから。


 それなのに――。


「格好良かったですよ。何よりも、貴方が」

「ッ!?」


 左腕を撫でられ、俺はビクッと跳ねた。

 制服の下に隠れてはいるが、まだ傷の跡が生々しく残っている。


 雪海は薄く笑った。


「貴方のおかげで、前を向こうと思えたのです」

「いや、だからそれは暁斗が――」

「今日だけの話ではありません。私の突飛な計画や相談に真摯に向き合ってくれて、何より邪険にせずに、正面から口論して止めようとしてくれたのは、貴方だけなの。それにこんな傷を負ってまで、自分の道を貫いて、私に示してくれた」

「……」


 あぁ、ダメだ。

 やっぱり、俺の計画は穴だらけだった。

 今回も、肝心なところが抜け落ちてしまっていたらしい。


 雪海の顔を見て、気づいてしまった。

 今回も、俺は原作シナリオに戻しきれなかったようだ。


「私は前を向いて生きていきます。だから――」


 ――「その時は、貴方も隣で同じ方向を向いてくれると、助かるわ」


 そっと耳打ちするように言われ、俺は――絶望した。

 

 言い終えてすぐに顔を背ける雪海。

 長い髪の隙間から若干覗く頬は、驚くほどに紅潮しているのが分かった。

 そして多分、俺も同じようなものだろう。


「は、はは……は、ははは」


 俺は乾いた笑い声を漏らすことしかできなかった。




―◇―


【七ヶ条雪海】

暁斗への好感度:30%(↑)

響太への好感度:?%(↑↑↑)

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― 新着の感想 ―
…これもう無理心中ルートから逃げられんかもね
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