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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海


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第36話 全てはモブの思い通りに、幕を閉じる

 週明け月曜。

 終礼が終わってすぐに、俺はアイコンタクトを早瀬に送る。


 彼女は週末の件があったからか、今日一日を青い顔で過ごしていた。

 余程俺に怯えているらしい。

 事の重大さには気付いているようで何よりだ。


 ちなみに、予め連絡は取っていた。

 あの金曜の夜、暁斗と作戦を立てた後、すぐにクラスグループから連絡先を追加し、早瀬に対してメッセージを送った。

 内容は端的に『月曜の放課後、旧校舎裏に加藤亜実達を連れて一緒に来て欲しい。俺も負い目はあるから、傷は報いとして飲み込む。とりあえず平和的交渉がしたい』――と。


 かなり下手から出たのは、刺激したくなかったからだ。

 ここからは暴力も脅迫も強要も無し。

 純粋な話し合いと提案のみで解決するつもりなため、それがわかるように敢えて優し過ぎるほどの文章を送り付けてやった。

 正直負い目なんかないが、とりあえず「俺も悪かったからさ~」とへりくだる事で、過度な興奮をさせないために書いている。

 今のアイツらは無敵の人だ。

 何をしてくるかわかったもんじゃない奴は、刺激しないに限る。


 さて、これからついに作戦実行に移るのだが。

 俺はそのまま教室を出る前に、梓乃李に聞こえるようにわざとらしく大声で独り言を言った。


「あーあ、久々に加藤亜実に呼び出されたけど、何の用だろうなー」


 随分な大根役者ぶりだが、そこはご愛敬。

 仰天した様子で俺を見る梓乃李を背中越しに確認し、そのまま歩いて出ていく。


 ……俺の予想では、これだけで梓乃李は後を付けてくるはずだ。


 今からの作戦は梓乃李にも見てもらわなければ意味がないため、こうして誘導しておく。

 と、やはり後ろから何やら物凄い視線と共に、気配がついて来るのを感じた。

 恐らくこの気は梓乃李だ。

 こんな禍々しい気、オラが間違えるわけねえ。


 あと当たり前だが、もう一人の当事者たる雪海にも連絡してある。

 作戦がある事は話しているし、時間を作って見に来てくれるだろう。


 舞台が整っていくのに安堵しながら、俺は目的地に向かった。





 廃校舎に訪れるのは梓乃李の筆箱事件以来だ。

 奇しくも同じ相手と相見えるために出向く羽目になるとは、これも運命だろうか。


 既に集まっていた早瀬と亜実達。

 彼女らの視線は、俺の元に一斉に注がれた。


「待たせたな」

「ふん。……警察に言ってないだろうね?」

「勿論。七ヶ条先輩にだって泣きついてないから安心しろ」

「……あっそ」


 窺うように聞いてきた亜実。

 余程心配だったのか、珍しくしおらしい。

 と、だらだら話していても仕方がない。

 この場は俺のための演説場ではないのだから。


 先にスタンバらせておいた男に、俺は視線を移す。

 そいつは作戦通り、俺より先にこの場に居た。

 廃校舎の窓がガラッと開け放たれ、そこから颯爽と現れる男子生徒。

 唐突な背後からの登場に、女子連中がぎょっと目を剝く。


「久しぶりだね。加藤さん」

「……暁斗?」


 一カ月前までクラスメイトだった者同士の感動の再会を他所に、俺はその時ぱっと周囲を見渡す。

 こんな場所だから人の気配はそうそうないが、それでも二人の影を確認できた。

 一人はずっと俺を追って来ただろう梓乃李。

 彼女は何が何だかわからない様子で、こちらを見つめている。

 そして離れた木陰に佇む、すました表情の雪海。

 狙い通り、二人共ちゃんと観覧席に案内できたらしい。

 ここに来て、ついに役者が揃った。


 俺が視線で促すと、暁斗は頷いた。


「ねぇ、もうこんな事やめようよ」


 重苦しい雰囲気を断ち切るように話し始める暁斗。

 それに、亜実は驚いたように口を挟む。


「は、はぁ? 暁斗に関係ないじゃん」

「あるよ。羽崎さんと響太……二度も大切な仲間を傷つけられたんだぞ。僕だって怒るに決まってるだろ」

「い、いや。っていうかなんでお前が……」

「金曜日、血だらけの響太と偶々会ったんだよ。そこで話は聞いた」


 暁斗は淡々と事実を語った。

 俺と会って匿っていた事。

 これまで梓乃李の件から順に、何が起こっていたのかを俺から聞いたという事。

 彼は持っている情報を全て公開し、その上で糾弾する。


「君たちがやってるのは、紛れもない犯罪だよ」

「……」


 俺と違って、暁斗と亜実は面識も交流も最低限はあったらしい。

 そのおかげか、やはり話を聞いてくれる。

 いつかの俺の時とは大違いだ。

 

 もっとも、こういう事態になるのは読めていた。

 そもそも暁斗は主人公だ。

 この世界において、あくまで暁斗とその周りの出来事のみを描いた『さくちる』の影響度がどのくらいあるのかは知らないが、メインシナリオに絡む悪役に対してなら、暁斗の言葉が刺さるのは当たり前だろう。

 物語ってのは、そういうもんだ。


 そして作戦も順調。

 まずは情に訴え、聞く耳を持たせる。

 俺がメインで計画した作戦だが、黙りこくってしまう亜実達を見て我ながら大成功と見た。


 と、ここでさらに暁斗が言う。


「頼むよ、これ以上罪を重ねないでくれ」

「ふ、ふざけんなよ! お前に何がわかんのよ!? アタシらはアイツに無理やり退学させられてるんですけど!?」

「そ、そうだよ! 私だって、何もしてないのにお兄のせいで留学金まで奪われてさ! そこまで言うなら須賀君がお金出してよ!」


 逆上し始める女子達を、暁斗は冷ややかな目で見つめていた。

 それはいつも温厚な彼が初めて見せる、明確な侮蔑だった。


「加藤さんが退学させられたのは自分が他人の物を壊して、心を傷つけたせいじゃないか。それを響太のせいにするのは無理があるんじゃないかな」

「ッ!?」

「あと早瀬さん。君だって間違ってる。確かに君は不幸だし、可哀想だよ。でもだからと言って、響太を傷つけて良い理由にはならないだろ? 憎むべきは七ヶ条先輩や響太じゃなくて、自分のお兄さんじゃないか」


 至極真っ当な事を言った暁斗に、一同は無言で睨みをぶつける。

 効いてはいるが、やはりこれだけで改心して謝罪なんてするわけがない。

 だが大丈夫だ。

 本題はここからなのだから。


 暁斗は闘志を燃やし続ける全員を見渡し、ため息を吐く。


「はぁ……、これ以上続けるってなら、僕に考えがある」

「「「「「「――ッ!?」」」」」」


 全員が一斉に疑問符を浮かべる中、暁斗はポケットから一枚の紙きれを取り出した。

 それを見て、早瀬がはっと息を呑む。


 ――何故ならそれは、海外留学への申込書だったから。


 ぐしゃぐしゃに丸められた形跡のある皺の付いた紙には、ご丁寧に『早瀬みこと』という彼女のフルネームが記載されていた。


「もう君達は、全員で海外に消えてくれ」


 唐突な提案に、この場の全ての雑音が消えた。

 静まり返り、呼吸の音すら聞こえない。

 空気を読んでいるのか、風のそよぐ音も、部活生の練習声も、何も聞こえない。

 ただの静寂だけが、広がった。


 そう、これこそ俺の――俺達の狙いである。


 どうせどんな制裁を加えてもあの手この手で復讐してくる連中だ。

 それこそ残された手なんて、()()くらいしかない。

 だがしかし、それでいいのか?

 確かに相手は梓乃李をいじめ、雪海の生活を害そうとし、さらには俺に刃物で切り付けてくるような奴らだ。

 しかし、それでも人間なのだ。


 俺は雪海に言った。

 どんな屑にも人権はあるし、私刑をする権利なんて誰にもないと。

 俺は梓乃李から聞いた。

 復讐なんか考えずに、前を向いて生きるのが楽しいと。


 ――ならば、応えるのが男ってもんだろ。


「早瀬さん、ひと月前に提出したこの申請書を取りやめたのはなんで?」

「えっと、それは……」

「もうとっくに留学費用は稼げてるんでしょ? そりゃ不足はあるかもしれないけど、申請書を出せるくらいにはまとまったお金があるはずだ」

「……」

「なのに、なんで諦めたの?」


 聞かれて、早瀬は口ごもる。

 そのまま辺りを見渡し、間違いなく亜実の顔色を窺った。

 その瞬間、俺はふっとほくそ笑む。


 ……勝った。


 次の瞬間、早瀬は顔を真っ赤にしながら叫んだ。

 

「そ、それは! 豊野君を誘き出すのに協力したら、七ヶ条先輩から身代金奪って私に分けてくれるって亜実ちゃんが言って! それに作戦が成功するまでは留学に行くなって止められたからで!」

「ちょ、早瀬! 嘘つかないでよ!」

「嘘じゃないでしょ!? あんたが私に色々命令してきたんじゃん! うちがお金に困ってるの知ってて断れないのもわかってたくせに!」


 とうとう決壊して仲間割れをし始めたようだ。

 堰を切ったようにぶちまける早瀬に、亜実は絶句する。

 そしてほぼ同時にその取り巻きも暴れ始めた。


「う、うちも違うからね!」

「そうそう! 豊野君にやり返すとかあーちゃんが勝手に言い出してさ!」

「それな!? あたしだってほんとはこんな事やりたくなかったし!」

「っていうか私らも巻き込まれた被害者じゃね!?」


 いつか見た光景と全く同じだ。

 そう、これがわかっていたからこその作戦である。

 前の筆箱事件の際も、亜実の事を簡単に見捨てようとしていた連中だ。

 ちょっと寄り添ってやったらこちらに靡くのはわかり切っていた。

 

 亜実は、言葉を失って呆然と立ち尽くす。

 今恐らく、彼女は一番逆境に立たされているだろう。

 仲間だと思っていた奴に裏切られ、作戦も暴露され、頼れる物は何一つなくなった。

 しかも俺に刃物を立てた時点で明確に事件性も帯びている現状。

 彼女に逃げ場なんかない。

 正直良い気味だ。

 こんな奴、殺すのも勿体ない。


 絶望した様子の亜実を他所に、暁斗は辺りを見渡しながら首を振る。


「ふざけるな。全員悪いに決まってるだろ。……でも、だからこそ、もういいんだ。みんなでこの国から出て行ってくれ」


 留学と言えど、短期的な物。

 今回のプランで言うと精々一カ月程度だ。

 だがしかし、クールタイムには丁度いいだろう。

 それに、もう俺達に構う理由もなくなるはずだ。


 早瀬は希望通り留学に旅立てて、もう亜実に従う理由がなくなる。

 亜実に関しても、もう懲り懲りだろう。

 今も涙を流しながら足を震わせているわけで、前回と違ってその目に闘志はない。

 そして一応、俺への復讐も果たしている。

 こうして腕まで刺したんだ。

 流石に満足してくれないと困る。


「で、でも……」

「海外なら君たちは僕らに何もできないし、僕らだって君たちに何もできない。いや、何もしない。勿論七ヶ条先輩もね」

「……」

「お互いに好条件なはずだよ。何が困るんだい?」

「早瀬はまだしも、アタシらも留学とか、冗談じゃないって言うか……」

「そんなに悪い提案かな? 全員のこれまでの罪を不問にした上で、さらに語学研修の機会にも巡り会わせたわけじゃないか。それに、みんなで一緒に行けば寂しくもないでしょ?」


 言いながら、暁斗は新しく五枚の用紙を取り出した。

 こっちはネットから印刷できる申請書の方だ。


「みんなの分も用意したんだよ。さぁ、受け取って」


 警察沙汰にも発展しなければ、裏で七ヶ条家が動くこともない。

 俺達の個人的報復も物理的に不可能だし、多少費用がかかることを除けば、願ってもない条件だろう。

 それに何より、今回は脅しでも何でもない。

 ただの提案だ。

 暁斗は、ただ平和的解決のために落としどころを付けただけである。


「……わかった。書くよ」

「あ、でもその前に響太に謝るべきじゃないかな?」


 話が結びに近づいたところで、暁斗が言う。

 ここは俺も作戦に入れていなかった展開なので、目が点になった。

 しかし、すっかり降伏ムードの連中は順に俺に頭を下げてきた。


 その中で、早瀬は俺に申し訳なさそうに言った。


「豊野君、その……ごめん。治療費出すから」

「馬鹿だろお前。金に困ってるくせに出費がかさむような事件起こしやがって」

「……本当に、ごめん」

「あと良いよ別に、金なんか。その代わり」

「――ひっ!」

 

 俺はブレザーを脱ぎ、傷口を見せつける。

 ショッキングな絵面に、早瀬は息を呑んで、涙をただ流した。

 今頃彼女の胸の中では、取り返しがつかない事をしたという後悔と、自分が人に刃物を突き立てたという事実が鮮明に記憶されているだろう。


 ――これは一種のトラウマだ。


 特に制裁を与えるつもりはないと言ったが、コイツには一生俺への罪悪感と、自身の過去の行動への自己嫌悪で絶望してもらう。

 ある種、どんな復讐よりも心に残る仕打ちだろう。


「人を傷つけるって事の意味を忘れるなよ」

「……うっ、ひっく。は、はい」


 泣きじゃくる早瀬。

 亜実に利用されたとは言え、人を刺したのにお咎めなしでは無理があるだろう。

 他の面子は国外追放がかなりの罰だろうが、コイツだけはご褒美でしかないからな。

 

 と、そんなこんなで残す謝罪も最後の一人になる。


「……ごめん。あと、ありがと」


 謝った後で、最後にボソッという亜実。

 こうして最大限の温情で解決してやったことが理解できているのか、彼女だけは最後に感謝まで付け加えてきた。

 俺としては、その「ありがと」に込められたのが、純粋な感謝である事を期待するばかりである。

 コイツも流石に学んだだろうからな。


 とかなんとかありつつ、だ。

 申請用紙を片手に帰っていく女子達。

 それを見ながら、暁斗は俺にアイコンタクトをくれる。

 「お疲れ様」とでも言ったところか。

 全くである。


 何はともあれ、終わった。

 向こうしばらくは、危険な動きとも離れて生活できる。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁ」


 俺はここでようやく、今年一番のため息を吐いたのであった。

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― 新着の感想 ―
 あれー? 隠し好感度が上がった気配が……ん、誰か来たようだ。ちょっと行って……
恨みの連鎖を終わらせるの素敵 暁斗君のコミュ力と人望に感謝ですね
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